
2026年春夏のミラノ・ファッション・ウイークが開かれました。今季も「WWDJAPAN」は、村上要編集長と木村和花記者が、全方位全力取材!日記はこれで最終回です。メリル・ストリープ(Meryl Streep)の来場で沸いた「ドルチェ&ガッバーナ(DOLCE&GABBANA)」から、大きな節目を迎えた「ジョルジオ アルマーニ(GIORGIO ARMANI)」までを振り返ります。
「エルマンノ シェルヴィーノ」は透け感と色彩で
都会もリゾートも自由に横断
村上要「WWDJAPAN」編集長(以下、村上):今シーズンは光と影のコントラストに刺激を受けるデザイナーが多いですね。「エルマンノ シェルヴィーノ(ERMANNO SCERVINO)」も地中海を舞台に、そのコントラストを描きました。
スタートは、なぜか影から(普通は光から始めたくなるけれど、なんでだろうw?)。おそらくトロピカルウールだと思うのですが、チュールのように透ける薄い生地で作った、静謐なトレンチコートで幕開けです。影のイメージではあるものの、透け感のある素材からインナーのブラトップがのぞいたり、水玉や小紋のような模様をのせたシルクを多用したりと軽やか。光のパートでは、色が大爆発です。ホワイト、スカイブルー、オレンジ、そしてサンドベージュ。いずれも淡く上品なカラーパレットながら、1トーンコーディネートでインパクト抜群。特にスカートはビッグボリュームで存在感を放ちます。カットアウトなどのテクニックを盛り込みつつ、得意のサファリやノマド的なスタイルも絡めながら、都会からリゾートまでを自由に行き来する女性像を描きました。
「フェラガモ」は創業期の解釈続く
でも次の一手も見たいかも
村上:「フェラガモ(FERRAGAMO)」は、気合が少し裏目に出ましたかね。マクシミリアン・デイヴィス(Maximilian Davis) は、1920年代のさまざまな要素やムードをエクレクティック、折衷主義的に盛り込んだのだと思うのですが、ちょっとToo Much感がありました。
マクシミリアンがこだわり続ける20年代、つまり「フェラガモ」創業時って、女性の社会進出が進んだ時代。ファッションで言えばコルセットから体を解放したり、ストンと落ちる緩やかなシルエットが台頭したり、ジャージーなどの着心地の良い素材が多用されたりの時代なので、表現するなら、基本的には控えめな方が良いんだと思うんです。ただ今回は、ただでさえアニマルプリントが主張しているのに、ブラック×イエローのカラーコンビネーションとか、生地のカスケード、フリンジやタッセルにフェザー、ストールなどの装飾はもちろん、シルクサテンも分量が多めで、ちょっと“こってり”していた気がします。脇腹のフリンジは、いらなかったでしょう(笑)。アフリカからスタイルや柄、そして素材がどのようにヨーロッパに渡ってきたのかに興味を持ったと言いますが、民族衣装感のあるバングルも重たさを強調してしまったように思います。
あと、そもそもだけれど、そろそろ20年代以外のスタイルを見たい気もしますね。確かにサルヴァトーレ・フェラガモ(Salvatore Ferragamo)の黄金期って20年代から30年代前半と決して長くないけれど、そろそろその時代ではなく、創業者の精神性とか、愛されたハリウッドセレブのスタイルや時代感などの表現に挑んでも良いのでは?再解釈して残すべきレガシーは他にもあるので、そろそろ新機軸に挑戦してほしいな。
木村:アニマル柄は、アーカイブから掘り起こした、全身レオパードに身を包んだサイレント映画のスター、ローラ・トッド(Laura Todd)の写真がインスピレーション源だそう。マクシミリアンは、そのアニマル柄をいわゆるジャズ・エイジのアフリカーナ・ムーブメントの象徴と捉えたそう。
要さんがおっしゃる通り、ウィメンズはドロップウエストのサテンドレスなど、これまでのコレクションで何度も繰り返されている手法で、既視感のあるルックが目立った印象でした。むしろ今回、私が惹かれたのはメンズ。ジャズエイジを思わせるズートスーツのプロポーションは新鮮で、さらに袖や腹部をカラーブロッキングで遊んだバイカラーシャツには、ウィメンズの少し盛りすぎな柄合わせとは違う、さりげない可愛さと遊び心を感じました。ワークジャケットをエレガントなワイドパンツに合わせるスタイリングも好きで、この解釈が今後どう発展していくのか楽しみです。
「ドルチェ&ガッバーナ」はメリル・ストリープ降臨で拍手喝采
村上:「ドルチェ&ガッバーナ(DOLCE&GABBANA)」は、インビテーションがアイマスクだった瞬間、ピンと来てしまいましたね(笑)。メンズに続き、ウィメンズもパジャマスタイル。パジャマシャツやパンツに豪華な装飾を飾ったり、そこにビッグシルエットのジャケットや、片方の肩からズレ落ちているカーディガンなどを合わせました。ここまでは、メンズ同様のアイデアです。
ウィメンズならではの特徴は、着る人とインティメイト(親密)なウエアのバリエーションやディテールです。ブラトップやシュミーズ、ペチコート、コルセットなど、ウィメンズならではのアイテムを取り入れることで、「ドルチェ&ガッバーナ」らしい官能性を表現しつつ、ブランドと着る人の距離を近づけたいというエモーションを発信しました。この「繋がりたい」や「寄り添いたい」「近づきたい」というエモーションは、形のないものだけれど、特別な時ではなく日々の生活を彩るラグジュアリーへと定義が変わろうとしている中、重要な発想になっている気がします。
冷静に考えると、パジャマにブロケードのジャケットとか、パジャマなのにコルセットとか、パジャマにショルダーバッグとか「なんで⁉︎」って思っちゃうけれど(笑)、とっても重要な考え方を諭してくれたので「良し」としましょう。
セレブでは、メリル・ストリープ(Meryl Streep)の来場で会場は一気に盛り上がりましたね。彼女は映画「プラダを着た悪魔2」に登場するミランダ・プリーストリー(Miranda Priestly)として会場入り。「プラダを着た悪魔」じゃなくて、「『ドルチェ&ガッバーナ』を着た悪魔」となりました(笑)。来場風景は収録されていたようで、おそらくこの場面は映画になるのでは?と。スタンリー・トゥッチ(Stanley Tucci)が演じるナイジェル・キプリング(Nigel Kipling)もいたもんね。SNSでは、ミランダのモデルとなったと言われているアナ・ウィンター(Anna Wintour)と対峙する様子がミームになって投稿されまくっており、ファッションショーは今、いろんな楽しみ方をされているんだなと感じました。
私がショーの終わりに撮ったドタバタ動画では、ちゃんとミランダを演じているメリル・ストリープのお姿が!NCTのドヨンも映っているので、ガタガタ動画ですが最後までお楽しみください(笑)。
木村:会場はミランダの登場に拍手喝采でしたね。やっぱりみんな「プラダを着た悪魔」が好きなんだな、と実感しました。私もいちファンとして、あのミランダを間近で見られてさすがに興奮しました。
ちなみに直近の「フェラガモ」でもパジャマシャツ風のドレスが登場していて、パジャマルックは今季の有力トレンドかもしれませんね。本当に流行するかは未知数ですが、私がミラノで見え隠れするパジャマシャツブームの背景に感じるのは、要さんのおっしゃる「つながりたい」というエモーションに加えて、人々の「リラックスしたい」という気持ちです。
「ドルチェ&ガッバーナ」のルックでも、ルームシューズのようなフラッフィーなサンダルが登場しました。「プラダを着た悪魔」の舞台に選ばれるような、“ザ・ファッション”の世界観を持つ「ドルチェ&ガッバーナ」。そのパーティーにハイヒールではなくルームシューズで出かけるようになったら、それこそ“おしゃれ”の概念の大転換ですよね。
個人的にはパジャマシャツ、すごく可愛いと思います。「ドルチェ&ガッバーナ」の、あれだけ華やかなビジューでデコレーションされたパジャマなら、オフィスに着て行くのもアリですか(笑)?
「ジョルジオ アルマーニ」
追悼と50周年が重なった特別なショー
木村:今季のミラノは、ジョルジオ・アルマーニ(Giorgio Armani)さん亡き後、初めて迎えるシーズンという大きな節目でした。ショーの会場は、アルマーニ氏が生涯を過ごしたブレラ地区の中心にあるブレラ美術館。中庭にはたくさんのろうそくが灯され、彼を静かに追悼する空気が広がっていました。
同時にブランドにとっては創立50周年という節目でもありました。本来、この記念すべき年に合わせてブレラ美術館での発表が予定されていたそうです。アルマーニ氏の死と50周年という二つの出来事が重なったというのは、偶然にしても象徴的ですよね。会場にはリチャード・ギア(Richard Gere)やケイト・ブランシェット(Cate Blanchett)といったスターたちの姿もありました。
ピアノの生演奏で幕を開けたショーは、1組の男女モデルからスタート。ゆっくりと歩くモデルたちから漂うのは、まさにアルマーニらしい「自然体のエレガンス」でした。リネンやコットンなど軽やかな素材を用いたドレープ感のあるパンツやジャケットといったリラックスウエアに始まり、時折挟む光沢のあるシャツやドレス、さらに息を呑むほど美しい総スパンコールのパーティードレスへ。「ジョルジオ アルマーニ(GIORGIO ARMANI)」の集大成を見るようでした。
総勢100体を超えるルックを見てあらためて思うのは、序盤の比較的カジュアルなウエアからパーティードレスまで「ジョルジオ アルマーニ」の服には一貫したエレガンスがあるということ。そしてランウエイには年齢も肌の色も異なるモデルたちが次々と登場。半世紀にわたり多くの人々に愛されてきたブランドの豊かさ、そして「誰が着てもエレガンスがかなう」というアルマーニ氏の尊い哲学をこのショーで感じました。
フィナーレに登場したのは、深いブルーのスパンコールドレスをまとった一人のモデル。私にとって「ジョルジオ アルマーニ」を象徴する色です。このブルーの美しさを教えてくれたのはアルマーニさんだったと、ちゃんと生涯覚えておこうと思いました。
ショーに合わせてブレラ美術館では、展覧会「Giorgio Armani: Milano, per Amore」もスタートしました。中世から19世紀のイタリア美術に囲まれた空間に、アルマーニ氏の代表作120点以上が並びます。展示の配置はすべて本人が生前に選定したものだそうで、歴史的な名画の隣に並んでも違和感がない「ジョルジオ アルマーニ」の普遍的な美しさを実感することができます。会期は2026年1月11日まで続くそうなので、ぜひ行ってみてください。
今シーズンのミラノは、「グッチ(GUCCI)」「ジル サンダー(JIL SANDER)」「ヴェルサーチェ(VERSACE)」「ボッテガ・ヴェネタ(BOTTEGA VENETA)」の新デザイナーによるショー、そしてアルマーニ氏が手がけた最後のコレクションなど、さまざまな意味で大きな節目のシーズンでしたね。お疲れ様でした。