キャンプ用品大手のスノーピーク(SNOW PEAK)は、10月1日付で新社長に前スターバックス コーヒージャパン社長の水口貴文氏(58)が就任した。創業家以外の社長は初。創業家の現社長の山井太氏(65)は代表権を持つ会長に就く。2010年代から急成長を成し遂げ、コロナ禍のキャンプブームの反動減に苦しんだ同社は、新体制でどう変わるのか。
三条から日本ブランドを世界に
10月30日に東京・原宿で記者会見を開いた。これまで創業家の山井氏のカリスマ性で成長を遂げてきた同社だが、これからは山井会長と水口社長の“バディ経営”で新しい成長フェーズに移る。水口氏が社長COO兼CBO(チーフブランディングオフィサー)、山井氏が会長CEO兼CCO(チーフクリエイティブオフィサー)として役割を分担する。山井氏が企業活動の新しい価値やビジョンを主導し、水口氏がその実現のため実務や組織作りを担うことになる。
水口氏はLVJジャパン(現ルイ・ヴィトン ジャパン)を経て、ロエベジャパンのプレジデント&CEOを経験し、14年にスターバックス コーヒージャパンに入社。16年に同社のCEOに就任し、国内2000店舗を超えるコーヒーチェーン最大手に発展させた手腕で名高い。
17年に水口氏がプライベートで家族と新潟県のスノーピークのキャンプ施設を利用した際、山井氏と意気投合したのが二人の出合いだという。山井氏は水口氏について「ベースにある価値観が私と同じ」と信頼を寄せる。水口氏は22年からスノーピークの社外取締役に起用された。
水口氏は「私がずっと外資ブランドを日本で成長させる仕事を担ってきたが、いつかは日本の価値を世界に広める仕事がしたいと思っていた。(スノーピーク本社のある)新潟・三条からブランドを世界に届けたい」と話した。
世界的なクリエイティブ・ディレクターを起用
水口氏が新戦略として強調したのは「エントランス(入り口)の多様化」だ。強みであるキャンプの熱心なユーザーだけでなく、キャンプと縁のない消費者にもブランドを広める。カギになるのは後発のアパレル事業であり、水口氏は「アパレルをメインエントランス化したい」と話す。アウトドア向けの機能性の高い服だけでなく、ファッションやライフスタイルに寄せて幅広い層が着用できる服を増やす。現在、アパレル業界における世界的なクリエイティブ・ディレクターの起用を進める。
同社は経営の自由度を高める目的で、24年にMBO(経営陣による買収)を実施して非上場化した。MBO前の23年12月期実績である売上高257億円、営業利益9億4300万円、純利益100万円に対して、MBO後の25年12月期見通しは売上高250億円、営業利益13億円、純利益9億円。売上高を維持しながら、利益を大幅に回復させた。この間、経費削減に取り組むとともに、主力の日本および米国で直販比率(直営店、公式EC)を高めた。課題とされていた在庫も半分程度に圧縮している。
2030年に向けて年平均成長率を国内10%程度、国外15%超のトータル10%超と見込む。山井氏は「27年末か28年初めをメドに再上場を目指したい」とも語った。
山井梨沙氏の復帰はあるか
記者会見では、アパレル事業の強化にあたって山井氏の長女・梨沙氏が経営に復帰する可能性があるかを尋ねる質問が出た。梨沙氏は22年、既婚男性との交際と妊娠を理由にスノーピークの社長を辞任した経緯がある。
山井氏は現時点で梨沙氏は同社の全ての役職を辞任していると話した上で、「アパレルビジネスを立ち上げた本人なので、時代の要請で彼女の力が必要ならば、帰ってくることもあるかもしれない」と可能性を述べた。一方で水口氏は「基本は会社組織なので、彼女がどうというよりも、会社としての戦略が先にあって一番必要な人を入れることが原理原則だ。そこが逆になるとおかしなことになる。その厳しさは持っていきたい」と補足する場面があった。