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世界遺産・知床で「自然との共生」を楽しく学ぶ 「ザ・ノース・フェイス」がアウトドアイベント

北海道・知床を舞台にしたアウトドアイベント「SHIRETOKO Adventure Festival2025」が9月6日・7日に開催された。ゴールドウインの「ザ・ノース・フェイス(THE NORTH FACE)」とスノーピークの「スノーピーク(SNOW PEAK)」という大手アウトドアブランドが手を組んだ催しだ。全国から集まった約300人の参加者は、さまざまなアウトドアアクティビティーを通じて知床の山や海を満喫し、大自然との共生について考える機会になった。

「これはヒグマが木に登るためにつけた爪痕です」――。ガイドが白樺の幹の傷を指差すと、参加者は食い入るように見つめた。

知床半島の中央にある景勝地・知床五湖。「SHIRETOKO Adventure Festival2025」の企画の一つとして、原生林を歩きながら5つの湖を巡るハイキングツアーが行われた。目の前にそびえる雄大な知床連山と神秘的な湖の成り立ち、知床ならではの草木の植生、そしてヒグマ、キタキツネ、エゾシカ、アカゲラなど野生動物たちの生態などを、ガイドがユーモラスな語り口で解説する。

このハイキングツアーは「ザ・ノース・フェイス(以下TNF)」が企画し、「TNF」が長年サポートする写真家で登山家の石川直樹さんが帯同した。石川さんは流氷や羅臼岳など知床の自然に魅せられ、斜里町で毎年発行されている定期刊行物「SHIRETOKO! SUSTAINABLE」の編集長を務めるなど知床とゆかりが深い。石川さんは時折、自身のカメラで湖を撮影したり、参加者とも気さくに交流したりしていた。

「TNF」と斜里町、「スノーピーク」と羅臼町

「SHIRETOKO Adventure Festival2025」は昨年に続く2回目の開催だ。ふだんは競合ブランドとしてしのぎを削る「TNF」と「スノーピーク」が、知床のためにタッグを組む。昨年は知床の国立公園指定60周年、今年は世界自然遺産登録20周年だった。今回、知床が国内外に知られるようになった節目にちなんで「次の世代へ、つなぐ」をテーマに掲げた。アウトドアアクティビティーを通じて、知床の自然の尊さを体感してもらい、次世代が大切に継承する機運を高めようとするものだ。

オホーツク海に小指のように突き出た知床半島は、縦に割くように自治体が2つに分かれている。西側が斜里町、東側が羅臼町である。

「TNF」を運営するゴールドウインは斜里町と地域活性化に関する包括連携協定を21年に結んだ。斜里町内の知床自然センター内に直営店を出店したり、現地で行われる自然教室をサポートしたり、知床についてのワークショップを首都圏で開いたり、町役場のユニホームを制作したり、これまでも多くの活動を行ってきた。

スノーピークも21年に羅臼町と包括連携協定を結んでいる。同社は羅臼町の海と山を望む場所にあるキャンプ施設「知床羅臼野遊びフィールド」を監修しており、ここを拠点にしながらアウトドアアクティビティーの教室や自然保護活動などを実施してきた。

今回「TNF」は斜里町、「スノーピーク」は羅臼町を会場にしてさまざまな催しを企画した。企業も自治体も異なるけれど、「ONE SHIRETOKO」として知床の大自然の魅力を知ってもらうのがこのイベントの趣旨である。実行委員会にはこの2社と斜里町、羅臼町、知床の自然を保護・管理する知床財団、環境省が名を連ねる。

「TNF」が企画したコンテンツはバラエティーに富んでいる。ビーチクリーンでは海岸に打ち上げられた漁具などのプラスチックゴミを拾い集めて、ゴミを原料にしたカラフルなアクセサリーを作る。アウトドアの短編ドキュメンタリーの映画祭「バンフ・マウンテンフィイルムフェスティバル」も開催した。斜里町の主要会場である知床自然センターでは、クマザサで作った家の制作が行われた。前述の石川さん以外にも、「TNF」がサポートするプロアドベンチャーレーサー田中陽希さんの姿もあった。

自然の中で汗をかかないと分からない

斜里町の「TNF」と羅臼町の「スノーピーク」の両会場には、小さな子ども連れのファミリー、高校生、中高年まで幅広い世代の姿があった。斜里町と羅臼町の会場間を連絡バスが行き来するため、参加者は興味のあるコンテンツを選ぶことができる。初日の夕方には羅臼町のキャンプ場でオープニングイベントが開催され、参加者や企業、自治体などの関係者が焚き火を囲みながら、知床の海の幸や山の幸に舌鼓を打った。

ハイキングであれ、キャンプであれ、ゴミ拾いであれ、実際に山や海で汗をかかなければ得られない体感がある。

初日のビーチクリーンでは、1時間で45リットルのゴミ袋で20袋分のゴミが回収された。ブイや網などの漁具、ペットボトル、海外から流れ着いたと思われる生活ゴミの数々。参加した地元の高校生は「知床は海流の関係でゴミがたくさん流れ着くと聞きました。(かさばるような)漁具が多く、回収しても処分するのに多額のお金がかかるようで、簡単な問題ではないと思いました」と語ってくれた。

「ヒグマと共存するのが日常」の知床

今年の「SHIRETOKO Adventure Festival2025」が開催されたのは9月6日・7日。約1カ月前には知床連山の羅臼岳で登山中の男性がヒグマに襲われて死亡する事故が起きた。道内でヒグマの生息数が最も多いと言われる知床だが、05年の世界自然遺産登録後に死亡事故が起きたのは初めて。全国的なニュースになり、とりわけ地元のショックは大きかった。予定されていた羅臼岳トレッキングなどの企画は中止になった。

長年、知床の人たちはヒグマとの共存を生活の一部としてきた。それを可能にしてきた人間とヒグマとの距離感が崩れつつある。今回のイベントでも知床財団や環境省のスタッフが訪れる人が守るべきルールの徹底を訴えた。羅臼町のキャンプ場では、ヒグマの毛皮を被ったスタッフによるデモンストレーションや、知床のヒグマと人との共存の歴史を伝える紙芝居が催された。

知床財団の村田良介理事長は「不幸な事故が起きてしまったが、知床ではヒグマとの共存は日常のこと。ずっとそういう場所だった。ゼロか100の話ではなく、冷静な議論とルールの厳守が必要だ」と話す。

アウトドアブランドだからできる発信力

閉会式では「SHIRETOKO Adventure Festival」の開催意義を両町長が強調していたのが、印象的だった。斜里町の山内浩彰町長は「10年前であれば、このような(民間企業や隣接自治体と協業した)イベントは考えられなかった。知床の自然との共生を伝える素晴らしい機会になった」と総括した。羅臼町の湊屋稔町長も「私たちはどうしても知床を生活者の目線だけで考えてしまうが、(ゴールドウイン、スノーピークの)外部の目線でアウトドアフィールドとして捉えると、また違った面が見えてくる。発見が多かった」と語った。

両町長が共通して述べたのが、アウトドアブランドと包括連携協定を結ぶことのメリットだった。「自治体だけではできない強い発信力を実感している」と口をそろえる。

ゴールドウインの森光・取締役専務執行役員は、知床に代表されるアウトドアフィールドでの活動を戦略的に強化すると話す。目指すのは短期的なビジネスの収益ではない。「とにかく知床の圧倒的な自然を多くの人に体験してもらう機会を作りたかった」「自然を保護・利用し、楽しむ人が増えれば、世の中も良くなり、巡り巡ってビジネスにもつながる」。

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