サステナビリティ
特集 循環ファッションの未来地図 第2回 / 全11回

CVCは“共創の仕組み”──豊島・ゴールドウイン・JFR・三井住友信託が語る循環投資の可能性

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従来のアパレル業界は、原料から小売りまで「内側」のチェーンの中で課題解決を試みてきた。しかし循環型ファッションの実現には、自社や業界の延長線上だけでは届かない壁がある。そこで注目されるのが、異業種やスタートアップと組む「CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)」という枠組みだ。投資という手段を通じて、最新の技術やアイデアを取り込み、自社だけでは生み出せない可能性を切り拓く。興味深いのは、各社が競合関係ではなく「共創」の視点を持ち、未来を描いている点だ。豊島、ゴールドウイン、J.フロント リテイリング、三井住友信託銀行の4社の担当者が語り合った。(この記事は「WWDJAPAN」2025年9月29日号からの抜粋です)

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“CVCは業界課題解決のひとつの手段”
溝口量久

WWD:CVCは金融手段ではなく“共創の仕組み”。それぞれの企業はどんな背景でCVCを立ち上げたのか。

溝口量久・豊島 取締役執行役員CVC担当(以下、溝口):豊島がCVCを立ち上げた2017年当時、ファッション業界ではベンチャー投資はまだ主流ではなかった。それまでもサステナビリティに貢献する事業を進めていたが、出資して関わることで長期的に企業や技術と取り組めるとの考えから、ファッション業界以外で始まっていたCVCの仕組みを活用することになった。CVCは業界課題解決のための手段の一つとして位置づけられている。商社の役割も変わっていくべきだという考えがあった。

伊藤祐実・ゴールドウインベンチャーパートナーズ(以下、伊藤):ゴールドウインは、15年に行ったスパイバーへの出資がきっかけとなり、このような出合いを戦略的につくっていくべきと、22年に現在のCVCが設立された。投資の理由は、自社で生み出せないものを外部技術から創出すること、ナレッジの蓄積、イノベーターコミュニティーへの参画などである。特に海外投資では、欧州規制下での事例収集が有効である。

山田紀子・J.フロント リテイリング 経営戦略統括部 グループ事業企画部マネジャー JFR MIRAI CREATORS Fund担当(以下、山田):弊社は後発で、CVCは22年9月に立ち上げた。背景にはコロナ禍での赤字や業績悪化がある。大丸松坂屋百貨店やパルコといったリアル店舗依存のビジネスモデルだけでは危機対応できないと痛感し、新しいビジネス開発のためにCVCを設立した。

消費者の価値観変化に敏感に対応する必要があり、既存の「アナザーアドレス(ANOTHER ADDRESS)」といった社内新規事業を進化させるためにもスタートアップ連携を進めている。CVCとしてサーキュラーファッションへの投資を大きく打ち出しているわけではないが、エンタメ性を取り入れたサーキュラーの取り組みも行っている。

小中洋輔・三井住友信託銀行 経営企画部 サステナビリティ推進部 Technology Based Financeチーム 主任調査役シニアマネージャー(以下、小中):弊チームは投資専門部署ではなく、技術専門部隊。信託銀行として、投資家から託された資金を運用し、社会課題解決に資金を投じ、その利益を投資家に還元する。社会課題解決型の金融仲介だ。リスクを伴う投資も世の中の成長に必要で、技術理解やリスク評価、政策連携も重要だから、このチームが作られた。

具体的には、サーキュラーエコノミーの変革を支える仕事を大きく三つの柱で進めている。一つ目はスタートアップ支援。より多くを支援するため、サーキュラーエコノミーとネイチャーポジティブに特化したスタートアップ投資ファンドを25年4月に立ち上げた(グループ子会社の三井住友トラスト・インベストメントとSBI新生企業投資が共同GPで運営)。二つ目は大企業の変革サポート。実証事業の立ち上げや、サステナブルファイナンスによるエンゲージメントなどを行っている。三つ目は自治体・地域での循環促進。地域循環は非常に重要と考えており、自治体向けに「サーキュラシティ移行ガイド」(10のプロセスを示した約30ページのガイダンス)を昨年10月に発表した。これをベースに自治体の戦略立案から実証までを支援している。特にサーキュラーエコノミーはGHG排出量のような指標がないため、大学などと共同で「サーキュラシティ指標」も開発している。

注目の投資領域とスタートアップ事例

WWD:すでに投資、あるいは投資価値がある領域とは。

溝口:ライフスタイル提案商社として社会課題に対して豊島一社で解決するのではなく、業界や異業種と一緒に課題解決に向けて動くきっかけを作りたいと考えている。テーマとしては、環境、ヘルスケア、高齢者問題、DXなど社会的関心が高い分野だ。例えば、ケミカルリサイクル技術により衣類の資源循環に取り組むジェプラン(JEPLAN)、PFASフリーの透湿防水膜および無水着色技術を開発するアンフィコ(AMPHICO)などがある。高齢化社会やDXへの投資は例えば、デイサービス施設のSaaSを進めるリハブフォージャパン(Rehab for Japan)や、アイキュー(AIQ)というAIベンチャーにも投資している。AIQは、接客やSNSプロファイリングなど、人のインサイトを可視化し可能性を拡張するサービスを提供している。

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