「衣服から衣服」の水平リサイクルの難易度は非常に高い。2024年にテキスタイルエクスチェンジ(Textile Exchange)が公開したレポートによると、世界の繊維市場においてリサイクル繊維(生産工程での端切れなどのプレコンシューマー材や使い終わった衣類のポストコンシューマー材を原料にした繊維)が占める割合は1%未満だった。なぜ、廃棄衣料や廃棄テキスタイルを原料にしたリサイクル繊維生産が進まないのか。
PROFILE: 木村照夫(きむら・てるお)/京都工芸繊維大学名誉教授

廃棄繊維を原料にものづくりに取り組む木村照夫・京都工芸繊維大学名誉教授は、廃棄衣料を色ごとに分別して樹脂と混ぜてシートやボードにリサイクルする「カラーループ」や建材用の繊維ボードの普及に努めている門倉貿易をはじめ、関西中心に数十社の事業者をつなげて廃棄繊維を活用したプロダクト開発に携わってきた。回収・分別・再資源化の課題を理解した上で現在目指すのは、繊維を分離せずに反毛・紡績を経て「再生糸(さいせいいと)」を作ることだと意気込む。そこに至った理由と現在の課題を聞いた。
経済合理性を重視したリサイクルとは
廃棄衣料からリサイクル繊維をつくる大きな障壁の一つを木村教授は「工程数が多くコストが見合わない」と指摘する。現在、ポリエステル単一素材の廃棄衣料からケミカルリサイクルを経て糸にする技術はすでに確立され、数社が取り組んではいるが、「経済合理性がないため、進んでおらず、現在市場に出回っているリサイクルポリエステルの多くはペットボトル由来だ」と加える。
そもそも衣料品の多くは2種類以上の複合素材である。
「故繊維業者によって回収された衣服を構成する素材についての調査結果によると廃棄衣料の78%が混紡・複合素材だった。そもそも混紡・複合素材の分離は非常に困難である。その多くを占めるポリエステルと綿から構成される混紡素材の分離技術は開発されてはいるが、分離後に使えるのはポリエステルのみであることが多い。LCAを考えても再生に必要なエネルギー量は高いだろう。たとえ分離はできても社会実装への難易度は非常に高い。コットンからバイオエタノールを生産する方法も一時検討されてはいたが、経済合理性が認められないため中断されたと聞く」。
そして、循環させるための大きな障壁のひとつである回収・分別のコストは誰が負担するのか。大量生産を抑制するためにもアパレルメーカーに生産数に応じて税金を課すのか、あるいは消費者に新品を購入するときに課税するのか。その制度確立も必要になるだろう。
経産省の政策を待っていられない
2022年の経産省の資料によると「繊維to繊維」のリサイクル方法に対して経済産業省は30年のターゲットを「単一組成に近い繊維製品のケミカルリサイクルの実現、高付加価値のマテリアルリサイクルの実現」を挙げているが、「一般衣料品(多素材混合繊維)の繊維to繊維リサイクルの実現」は40年以降だ。「30年までに『手放される衣料品のうち、繊維to繊維リサイクルで5万トンを処理』と掲げており、ポリエステルの単一素材を実現させるということだと思われるが、繊維廃材の中で圧倒的に多い一般衣料品の繊維to繊維リサイクルこそ今すぐ取り掛かるべきではないか」。
こうした理由から木村教授は繊維を分離せずにリサイクルする方法を模索している。「価値を高めるために色ごとに分けて反毛・紡績を経て再生糸を作ることを基本アプローチとしている。再生糸の信頼性を高め、社会実装を早めるために日本繊維機械学会内に『再生糸普及員会』を結成して種々の課題解決に向き合い、経済合理性を重視し、繊維全体を再利用する方法を探求している。混紡や複合素材を反毛して糸を作るとロットごとの品質にばらつきがある。そのばらつきを許容し、物性を詳細に測定することで“新しい糸”としての特徴を見出し、最適な用途を模索している。ポリエステルと綿の繊維からつくる再生糸の課題は毛羽が出やすい点で、それをどう抑えるかが課題だ。靴下や鞄、セーターやカッターシャツなどで着心地などの評価をしている」。
こうして生まれた再生糸を従来型の糸の代替として捉えるとは活用は難しく、新しい素材として捉えデザインすることが必要になり、そのためには高いデザイン力が求められる。
木村教授は「再生糸(さいせいいと)」という新しいジャンルの確立を目指すという。「その際に『いい糸とは何か』について検討している。持続可能な繊維リサイクルシステムの構築にはリサイクル繊維の使用を当たり前にし、新しい価値観の創造も必要になるだろう。そのためには現在の品質表示法の改正も必要になる」。