PROFILE: (左)柳井康治/ファーストリテイリング 取締役 グループ上席執行役員 (右)クレア・ワイト・ケラー/「ユニクロ」クリエイティブ・ディレクター

一産業規模の取り組みを一社で行っているのがユニクロだ。循環型プロジェクト「RE.UNIQLO」は、始動から5周年を迎えた。その内容は、柳井康治取締役が率いるサステナビリティ戦略と、クリエイティブ・ディレクターのクレア・ワイト・ケラーが掲げる「寿命を設計するデザイン」という二つの視点の連携により、理念にとどまらず、事業戦略の中核へと変わりつつある。(この記事は「WWDJAPAN」2025年9月29日号からの抜粋です)
グローバルSPA各社が衣料回収を強化し、欧州ラグジュアリーが生物多様性を戦略の柱に据えるなど、ファッション産業における循環を巡る取り組みは多様化している。その中でユニクロの循環戦略の特徴は、寄付起点の文化的配慮を伴う衣料品回収や、東レと連携した高度なリサイクル技術、そして経営とデザインの連携にある。
ユニクロの循環プロジェクト「RE.UNIQLO」は2020年に始動した。衣料回収からリサイクルダウンの商品化、修理・リメイクのサービス、古着販売の試行へと領域を広げるなど、この5年は、全方位で試行錯誤を重ねながら循環を理念から実装へと押し上げたフェーズだった。
ユニクロを運営するファーストリテイリングは30年までに全使用素材の50%をリサイクル等へ切り替える目標を掲げ、24年時点では18.2%となっている。原材料調達では、責任ある調達方針を定め、農場や工場などのサプライチェーンの最上流からトレーサビリティ(追跡可能性)の確保に取り組んでいる。23年春夏からは綿製品、24年秋冬からはカシミヤ製品、25年にはウール製品において、原材料の産地から縫製工場までの全工程を把握する体制を構築し、定期監査を開始。また、独自のLCA(ライフサイクルアセスメント)ガイドラインを導入してサプライヤーに環境負荷データの入力を求め、第三者検証を行う仕組みを構築。環境影響を「数字」で可視化し、投資判断や調達基準に反映している。このアプローチは、欧州のCSRDやエコデザイン規則など強まる開示・設計要請を見据えた「先取り対応」とも言える。
生産面では04年策定の行動規範に基づく監査や、工場従業員向けホットラインを通じ、人権・労働環境への対応を強化。製品の販売後に関しては「RE.UNIQLOスタジオ」を22の国・地域で63店舗まで拡大し、修理・刺しゅうリメイクによる「長く着る」文化の定着を図る。「RE.UNIQLO」では、寄付は地域社会への貢献、古着販売は循環型社会への責務と位置付けている。古着販売は「Shop in Shop」形態でトライアルを行い、本格展開に向けた課題に取り組んでいる。
柳井康治取締役の視点
「顧客の期待を軸に」
「RE.UNIQLO」の戦略面を担うのが、柳井康治ファーストリテイリング取締役グループ上席執行役員だ。同取締役は「RE.UNIQLO」の背景にあるのは「お客さまの期待に応える」というシンプルで普遍的な使命だと語る。自身が世界中の店舗で日々耳にするのは生活に根付いたリアルな声であり、「品質・価格・デザイン」に加え、近年は「安心・安全に作られていること」も“いい服”の条件として重視されるようになったという。これはブランドにとって課題であると同時に、前向きなプレッシャーでもある。「今はお客さまの方が情報量を持っている時代」であり「環境配慮型の商品であっても、価格差があれば最終判断はお客さまに委ねられる」。
定期購読についてはこちらからご確認ください。
購⼊済みの⽅、有料会員(定期購読者)の⽅は、ログインしてください。
