サステナビリティ
特集 循環ファッションの未来地図 第9回 / 全11回

CO2は“算出”より“削減”を。ワールドの品質管理が挑むサステナビリティの具体策

PROFILE: 枝村 正芳/ワールドプロダクションパートナーズ 品質管理部/サプライチェーンR&D部/企画管理部

枝村 正芳/ワールドプロダクションパートナーズ 品質管理部/サプライチェーンR&D部/企画管理部
PROFILE: (えだむら まさよし)信州大学繊維学部で繊維設計工学(衣服の着心地など感性を数値化する研究)を学ぶ。1996年にワールド入社後、「タケオ キクチ」や東京コレクション参加ブランド「キョウイチ フジタ」などのアパレルや靴、鞄など多様な製品の品質管理を担当。2007年から約10年間の中国駐在では、のべ1000以上の工場を訪問し、モノづくりの現場を熟知。帰任後は日本向けの輸出や物流、貿易管理などサプライチェーン全体を担う。現在は、商品の消費性能や縫製工場の確認に加え、サステナ原料の開発や環境指標の策定といった全社横断型のサステナビリティ業務にも取り組む。技術士、繊維製品品質管理士の資格を持ち、信州大学特任教授を兼任。PHOTO : SHUHEI SHINE
サステナビリティという考え方がアパレルビジネスに浸透する中、「品質管理」の役割が高まっている。その実現は、理念だけでなく、現場の設計図が欠かせないからだ。数字の裏付けと社内連携を武器に、現場を動かす実務者が社内外におけるサステナビリティの浸透をけん引している。ワールドプロダクションパートナーズ 品質管理部の枝村正芳氏はそのひとり。「タケオキクチ(TAKEO KIKUCHI)」にはじまりワールドのモノづくりに長く携わってきた枝村氏が今考える、サステナビリティの具体策とは?

品質管理から見たサステナビリティの役割

WWD:品質管理から見たサステナビリティとは?

枝村正芳ワールドプロダクションパートナーズ 品質管理部/サプライチェーンR&D部/企画管理部枝村(以下、枝村):企業は時代とともに変化する。弊社も、卸から始まり、百貨店、SCと市場を広げてきた。その裏にはプラザ合意や大店法といった社会の流れがある。会社が変化すれば、自分の生産や品質管理の業務も必然的に変化する。

入社した頃はアパレルメーカーの多くが自社で一点一点を企画していた。その後、OEM(ブランド仕様に基づく受託製造)、ODM(企画・設計から一貫対応する受託生産)が広がり製品仕入れ型のビジネスに移行し、さらに海外進出・海外生産が始まったことで商社との仕事が増えた。品質管理の仕事も、商品の「点」から、OEMや商社といった相手先の「面」で品質管理を行うことへと変遷してきた。

近年では「企業の社会的責任(CSR)」「ガバナンス」「環境」といった概念が広がっている。品質管理にしてみれば、「品質表示が正しいか」や暑さ対策の接触冷感など機能素材評価などが新たな仕事となる。

CO2の算出と削減の役割を担う部署は、会社により異なるが、弊社の場合はサステナブル推進室が、全社の旗振り役となり、関係するグループ会社と算出をしている。

数ある課題の中で、なぜCO2から始めたのか

WWD:アパレルの課題は、CO2削減、廃棄量削減など複数あるが、まずCO2に着目をした理由は?

枝村:廃棄削減やCO2削減、水問題など課題があがるなかで、ロジックがはっきりしているCO2から着手した。CO2は川上から積み上げてゆけば課題や解決方法が見えやすい。

WWD:その決定まではどのくらいの時間を要した?

枝村:ワールド社内のサステナブル委員会が立ち上がったのが2022年8月。その後、半年くらいで決めた。CO2削減の方法は探せば「答えが見つかる」と考え、とにかく調べ、人に聞き、考え続けた。

WWD:枝村さんが登壇した業界3団体の脱炭素推進ガイドラインの会見で、「すべきことは緻密な算定ではなく、GHGの削減をすること」と強調していたのが印象的だった。あの発言はワールドでの活動がベースにあった。

>業界3団体がアパレルの脱炭素推進ガイドライン策定 「できるだけ負担なく削減に着⼿を」

枝村:言葉の整理や、仕入れ枚数・金額といった原単位でのCO2排出の計測など基本的なことを進める中で、CO2削減に関しては「求められているのは算定ではなく削減だ」ということに気がついた。「何キロ排出している」の確認ではなく「何キロ削減するか」が重要だ。

「CO₂を算出ではなく削減」の指針を決めたら、次はどこをターゲットにするかを考えた。原材料、染め、縫製、輸送などどの工程の環境負荷が大きいのか、“粒度”ごとに調べ、影響が最も大きい原材料をターゲットに削減を進めようと決めた。

サステナ素材への置き換えを現場に浸透させる

WWD:CO2削減の具体策として、原材料を従来のものから環境配慮型へと置き換える手段は有効と考えるか?

枝村:そう考えている。たとえば縫製工程でのCO2削減なら、縫製工場自体が再生可能エネルギーに切り替えるなど、個社の課題。一方、原材料の置き換えは弊社と弊社から取り引き先への声掛けで実現できる。

ただ実践にあたっては、MDや生産のメンバーから「自分は何をしたらいいの?」と聞かれたときに具体的に答えがないと進まない。そこで、たとえば「100品番のうち10品番はサステナブル素材にする」といった具体的な置き換え目標を示し、メンバーに伝えた。環境配慮型素材の比率を、スタートした2023年秋冬は全体の7%、次のシーズンは10%など徐々に増やすことで25年秋冬は16%となった。その積み重ねで2030年にはアパレル製品1点あたり、22年3月期比で20%のCO2排出量を削減する目標だ。

WWD:CO2削減が目標でありながら、生産部門の各人の指標を「品番数」や「枚数」とした理由は?

枝村:まず、サステナブル委員会のメンバーだけではなく、弊社の全員がやる気にならなければ状況は変わらない。ただ皆、忙しく、新たに言葉や指標を持ってくると複雑で取り組みが遅れる。普段ブランドが使っている言葉を使うことで、やるべきことのイメージがつきやすいと考えた。

「品番数」や「枚数」からCO2への換算は、我々の部署が計算式をもっていればよいことだ。そのために生産管理のシステム改修を進めた。MDが選んだ素材が「どの程度サステナなのか」が把握できるよう構築した。

WWD:サステナ素材の定義とは?

枝村:今回はCO2削減が対象だったので、たとえば従来のバージンポリエステルからリサイクルポリエステルに変えることでどのくらいの削減になるのか?同じ綿でも〇〇綿などその種類によってどう異なるのか、など素材ごとに裏付けのリストを作った。

WWD:サステナは日進月歩だし、認証問題など課題も多い。「事実」を知るのが難しい環境だったと思う。

枝村:常に「本当か?」という視点を持ち、自分自身疑問に思うことをひとつひとつ解消していった。たとえばオーガニックコットン。農薬の有無が従来コットンとの違いであるなら、それはCO2とどう関係しているのか?など、ひとつずつ裏付けをとっていった。

WWD:原材料を購入する側、決定権を持つ側がフラットな目を持っていることは重要だ。

枝村:原材料メーカーは当然、自社の強みを伝えてくるから、それもひとつひとつ精査をした。そもそも「削減するなら使わない方がよいのでは?」という疑問も浮かんだが、そこには自分なりに答えを出した。人の持続可能性は心が豊かでないと意味がない。色々な服があるからファッションで心を満たすことができる。それが弊社、ワールドらしさ。そのためにもデザイナーがいろいろな生地、色を使えることが大切であり、選択の制限をなるべくかけない入口を作ることが重要だ。「服作り全体が持続可能であるか」を考えることが自分の宿題だと思っている。

WWD:サステナブル生地に切り替えることで価格が上がることは課題にならなかったのか?

枝村:調べたところ、 同じリサイクルポリエステルの製品でも仕入先によって価格の従来比率が異なる。つまり従来比の違いは工業ではなく商業の理由によるもの。また、原価に占める原材料の割合は数パーセントであり、そこが従来比130%だからといって、製品仕入が130%にはならず、さらに販売価格への影響は少ない。

もちろんロットが少ないから価格を上げざるをえないという事情もある。アパレルが量を使うことで、将来的には価格の問題は解消され、バリエーションも広がるはずだ。

原材料だけでは目標達成できない現実

WWD:次なる課題は?

枝村:ここまで進めてきて、生地の置き換えだけではCO2削減の目標達成は厳しそうだ、と見えてきた。生産部門全体のCO2排出量に占める素材の中で、原材料の排出量は20~30%程度。目標達成のためには、縫製などスコープ3の上流の工場の再生可能エネルギーへの切り替えや、廃棄品をリサイクルして繊維to繊維リサイクルすることによる原料確保といったことが必要だろう。

WWD:最後に、品管の仕事の面白さとは?

枝村:製品がどうやって作られているのかに興味がある人には面白い仕事だと思う。アパレルはモノづくりの最後の工程でそのすべてを見ることができる。さらに弊社の場合は企画のメンバーと一緒に、「こういう企画をしたいからこの堅牢度」など一緒に作り上げてゆくことができるところが面白い。

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