サステナビリティ
特集 循環ファッションの未来地図 第1回 / 全11回

目指せ!循環ファッションの未来地図 服は着て、手放し、もう一度活かす

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目指せ!循環ファッションの未来地図 服は着て、手放し、もう一度活かす

日本のファッション産業が持続可能な未来に進むには、「作って、売って、終わり」という流れを見直し、服が長く生かされる仕組みをつくることが欠かせない。素材づくりからデザイン、生産、販売、着用、回収、再利用、そしてもう一度資源に戻すまで──すべての工程をつなぎ直し、無駄なく活かしていく必要がある。本記事では、産業の全体像を示す「循環マップ」を出発点に、現場で立ちはだかる30の課題を「ボトルネックリスト」として整理。さらに最新ニュースを通して、循環をめぐる挑戦と可能性を探る。(この記事は「WWDJAPAN」2025年9月29日号からの抜粋です)

リニアから循環へ、
ファッション産業の体像を俯瞰する

製品:82.2万t/年
環境省によると国内に市場投入される衣類の量は年間82.2万t(衣類以外のタオルなどの繊維製品を含む)。その大半は輸入品であり、供給後に排出・廃棄されるまでの流れが資源循環の大きな課題となっている。

廃棄:現状55.8万t/年
環境省によると家庭および事業所から手放され、未活用のまま処理されている衣類は年間55.8万t。ブランドや自治体による回収ボックスの取り組みも進むが、設置状況やルールに統一性がなく、消費者にとって利用しづらい。結果としてリユースやリサイクルに回るのは全体の3割未満にとどまり、「繊維to繊維」リサイクルの実装はさらに限定的である。

MANUFACTURE(製造)

ここが課題:
リサイクル素材の質・価格

リサイクル素材は循環型ファッションの基盤であるにもかかわらず、いまだ「品質のばらつき」と「価格の高さ」が大きな課題となっている。特にコットンやウールといった天然素材のマテリアルリサイクル(反毛)は消費者が求める風合いや耐久性を十分に満たせないケースが多く、結果として採用を躊躇するブランドやメーカーも少なくない。さらに、石油由来のバージン素材が依然として安価に調達できるため、リサイクル素材を選択するインセンティブが弱い。品質安定化やコスト低減を実現する技術革新と、需要拡大によるスケールメリットが産業全体で急務だ。

RECYCLING(リサイクル)

ここが課題:
混紡繊維のリサイクル革新技術がない

ポリエステルとコットンなど、異なる繊維を組み合わせた混紡素材は衣料の大半を占めており、そのリサイクルは技術的に大きな壁となっている。繊維ごとに異なる性質を持つため、分離・再資源化が困難であり、実用レベルのソリューションはいまだ確立されていない。現状では回収・分別、マテリアルリサイクルの精度やケミカルリサイクルのコストが障壁となり、廃棄の回避に直結しづらい。革新的な分離・再生技術の開発と、大規模投資による実装が、循環型ファッションの未来を左右する決定的要素となる。

STORE/E-COMMERCE(店舗/イーコマース)

ここが課題:
店頭で消費者にサステナ商材の魅力が伝わらない

環境配慮型の商品を提供しても、その価値が消費者に届かなければ行動変容にはつながらない。現状、店頭表現の不足や接客時の説明力の差により、それらの商品が持つ意味が十分に伝わっていない。結果として「高いだけの商品」と受け止められるリスクがある。消費者との接点である店頭こそ、循環型社会への入口であり、販売員教育や接客ガイドラインの整備は喫緊の課題である。店長とは別に“サステナビリティ・アンバサダー”のような権限を持つ役職を新設するのはひとつの手。小売り現場での情報提供力強化が、消費者の意識と行動を動かす重要な鍵となる。

REUSING(再利用)

ここが課題:
回収インフラの未整備

衣類回収の仕組みは依然として不十分で、自治体や設置場所によって利用しづらさが残る。その一方で近年は「ブリング(BRING)」や「エコミット(ECOMIT)」などの新興企業、企業や自治体の共同回収など多様なソリューションが登場している。従来「静脈」とされた回収・分別工程が新たなビジネス機会として注目され、生活者の行動変容や地域での雇用創出にもつながり始めている。今後は回収と利用を結ぶ仕組みを広げ、制度・事業者・生活者が連携して定着させることが重要となる。政策支援との連動も不可欠である。

OPINION:
「長く使われる良い服を適正な値段で」
へ発想を転換させることが重要だ

堀野哲生/東レ大阪本社繊維事業企画推進室室長

世界のアパレル産業では長らく大量生産・大量廃棄、短命化が進んできたが、「長く使われる良い服を適正な値段で」という方向に変わりつつある。環境問題が深刻化する中で、われわれができることは限られているが、「循環」はその「できること」の一つだろう。ただし、メーカーは高額な機械を購入したらフル稼働して投資回収しなければならない。それが製造業の宿命。その課題を抱えつつ、製品を長く使ってもらい、最終的に回収・再生される循環をつくることが重要だ。

ポイントはデジタル製品パスポートで導入されるデジタルIDと、ライフサイクルバリュー(LCV) だろう。LCVは「製品がどのくらい長く価値を持ち続けるか」を指標化する考え方。耐久性だけでなく、思い入れのような価値やリユース市場での価値も含む。デニムの古着が新しいときより魅力的に映るように、服には「時間とともに増す価値」もある。デジタルIDを導入すれば、製品が購入されてから回収されるまでの期間データを取れるようになり、利用期間当たりの価格が分かるようになる。さらに二次流通での価格も示せれば、「その製品の価値がどれだけ持続したか」を明確に示せるだろう。これがライフサイクルバリューの発想であり、アパレル製品の真の耐久性の指標だ。

一部のラグジュアリーブランドでは、すでにこの考え方に近づいてきており、結果、リユース市場でも高額で取り引きされている。これを一般的なアパレルにも広げたい。「早く安くたくさん作って消費する」から、「いかに価値を長く維持するか」「長く価値が保たれる製品を適正価格で買っていただけるか」へと発想を転換させることが重要だ。

循環を阻む30のボトルネック
──課題はすなわちビジネスチャンス

企業は製造した服をなるべく長く活用し、生活者はリペアやリセール、レンタルを活用してなるべく長く着ることを大前提に、それでも寿命を迎える服を資源として再活用することへのチャレンジが始まっている。「循環」は誰も経験のない取り組みだけに手探りで、実現するためには課題が山ほどある。ここでは取材の中でよく聞かれる「循環を阻むボトルネック」をピックアップする。課題はすなわちビジネスチャンスでもある。課題解決に取り組む事例、考え方の提案と併せて紹介する。

CHECK LIST

□ 社内でビジョン共有が難しい。売り上げ優先になりがち
□ 中小企業にとって海外認証取得やDX導入はハードルが高い
□ ブロックチェーンなどDX活用が実験段階にとどまっている
□ デザイナー視点では、環境配慮型素材の品質と価格提案、選択肢が不十分
□ 何をもって環境配慮型素材なのか分からない。基準が欲しい
□ コットンやウールなど天然素材の上質なマテリアルリサイクルが見つからない
□ ものを作る際に化学物質の把握(地球環境にどのような負担をかけるのか)が必要だが難しい
□ より循環しやすい単一素材(モノマテリアル)とデザイン性は両立するのか、そもそもさせるべきか、悩ましい
□ 学校で習っていない「リサイクルしやすいデザイン」の知識をどこで学べるのか
□ オーガニックにこだわりたくとも染色は化学的手法に頼らざるを得ない
□ 無水染色はロットが大きく、中小ブランドには採用ハードルが高い
□ 植物染めによる色退行は“味”だが、品質管理要件を満たさないことも
□ 大量の裁断くずがもったいない
□ 適量生産。廃棄と売り逃しのバランスが難しい
□ グローバルサプライチェーンが複雑。輸送距離自体が環境負荷になる
□ 物流2024年問題。人手不足で「届かない」
□ 環境配慮型製品の店頭表現方法が難しい?
□ 店頭にはプラスチック備品が溢れている
□ サステナ情報に関する販売スタッフの教育機会が少ない
□ インポートブランドの日本法人は売れ残りを国内で処理する方法に苦悩
□ 中古と新品の並列販売では新品が売れなくなりそう
□ 中古・リセール市場で真贋判定や品質保証にコストがかかる
□ リペアの価値をどう作る?「長く着る」がビジネスになりにくい
□ 不要衣料品の回収ルートが確立されておらず生活者が「どこに捨てていいか分からない」
□ 「生分解」をうたうも、それを行う場所・環境(コンポストなど)がなく本末転倒
□ 複合素材の高度な分離・リサイクル技術が確立されていない
□ 結局、リセールもリサイクルもできない不要衣料が大量にある
□ サステナビリティ推進室の情報開示疲れ。数字に追われる日常に夢が持てない
□ 成果の可視化が難しく、投資家・経営層への説得材料に欠ける
□ 消費者の「新品志向」や「安さ優先」の購買習慣が根強い

循環と課題、提案にまつわる最新ニュース

サステナビリティ関連の最近のニュースを振り返ると、「循環」に関する話題が増えていることが分かる。新技術や新サービスの提供を通じて産業や社会の課題を解決し、ビジネスを拡大する提案だ。その中でも印象的なニュースをピックアップする。日付けは「WWDJAPAN」ウェブへの掲載日。詳細は関連記事から深掘りしてほしい。

2024年

3月19日

京セラが水使用を極限まで削減したインクジェット捺染プリンター開発 生地の無償提供も

6月19日

6月26日

11月20日

4社の回収ボックスがずらり 玉川高島屋S・Cが“循環先を選べる”衣料品回収を開始

2025年

2月26日

「無印良品」世界最大規模店舗が奈良にオープン わけあり品や古家具も売る資源循環の拠点に

4月22日

「マーカウェア」が情報開示ブロックチェーン導入 素材起点のトレーサビリティを前進

6月11日

シャネルが循環型素材の活用を促進する新たなBtoBプラットフォーム立ち上げ

6月12日

世界初の“海で分解する人工芝“ ミズノとカネカが共同開発、スポーツ施設に導入

6月18日

8月12日

8月15日

モリトアパレル、服のモノマテリアル化につながる再生PET副資材を開発

8月19日

ヤギ「ユナ・イト(UNITO)」と「PUBLIC TOKYO」が本気のサステナブルコラボ、リサイクルコットン100%使いのTシャツ

8月29日

「プチバトー」再販困難な衣類をスケッチブックにリサイクル

9月10日

パタゴニア京橋が9月に開業 「サーキュラリティを発信する場に」日本支社長語る
【ニュウマン高輪の見どころ1】CFCLが二次流通を常設化 新品とリユースが並ぶ新体験

COLUMN:
行動変容に最も効果的なのは
「ワークショップ」

欧州連合(EU)圏では、繊維産業の資源循環モデルの青写真を描くための3年にわたるプロジェクト「T-REX」が2025年に終了した。これは、EUの資金提供を受け、インフィニテッド・ファイバー(INFINITED FIBER)などのリサイクル企業やテキスタイルメーカー、「アディダス(ADIDAS)」を含むブランド、研究機関など合計13のパートナーが協業。ポリエステル、ポリアミド6、セルロース繊維の廃繊維から新繊維・製品を作る全工程を検証した。その一環で、消費者行動の変容を研究したフィンランドのアアルト大学の、アヌブティ・バトナガル(Anubhuti Bhatnagar)博士(写真1枚目)とエリーナ・レヴェ(Elina Lewe)博士(写真2枚目)は、最も効果的なアクションとして、ワークショップを挙げる。「SNSキャンペーンなどの情報提供だけでは、意識は高まっても行動に結びつきにくい。一方、グループでの対話をしながら実際に手を動かすことで、情報が自分ごと化され、継続的な行動変容につながる。専門家によるファシリテーションも同様に重要なポイントだ」と指摘する。

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