J.フロントリテイリング(JFR)は、大丸心斎橋店本館を9月20日に建て替えオープンした。約4年の工事期間を経て3割増の売り場面積4万平方メートルになった本館は、1933年から御堂筋のランドマークとして親しまれてきた建築家ウィリアム・メレル・ヴォーリズによる旧本館の内外装をほぼ復元した。アール・デコ様式のミュージアムのような空間で、リアル店舗ならではの非日常を演出する同店は、JFRが掲げてきた「新百貨店モデル」の集大成でもある。(この記事はWWDジャパン2019年9月23日号からの抜粋です)
本館1階に足を踏み入れた客の目にまず飛び込んでくるのは、売り場というよりも鮮やかな幾何学模様の天井である。旧本館時代からなじみのある意匠ではあるが、明るく華やかになった。旧本館の内装パーツの67%を磨き上げて再利用。それが難しい部材は型取りして最新技術で忠実に再現したという。
通常の新築に比べて高コストであっても、建築的、美術的価値の高いヴォーリズの内外装の保存と再現にこだわったのは、建物自体が集客装置になる同店の強みを生かすためだ。西阪義晴店13長は「目指すのは、世界が憧れる心斎橋。世界に向けて 発信する百貨店になるだろう」と胸を張る。
ハレの空間には、ラグジュアリーブランドや宝飾・時計などの高級品を手厚くそろえた。「カルティエ」は西日本最大級のVIPルームを構え、「セリーヌ」はメンズ・ウィメンズのコンバインショップ、「クリスチャン ルブタン」は西日本旗艦店を出した。他のブランドも広いスペースを生かし、個性的な店装で世界観をしっかり表現している。もともと外商ビジネスを始めとした富裕層が多い同店は、この分野をさらに強化する。
大丸松坂屋百貨店の好本達也社長が「運営やMDについてゼロベースで考えた」という同店は、化粧品とラグジュアリーブランド、宝飾・時計を百貨店型の仕入れモデル(売り場の35%)、それ以外を定借モデル(同65%)で展開する。商品ごとの分類ではなく、ブランドの世界観やライフスタイルで売り場を構成する。仕入れモデルを残しつつも、ギンザ シックスで成功した定借モデルを大胆に取り入れた。特に既存の百貨店が苦戦しているアパレルや靴の分野は、ブランド側に任せる定借化で収益性の改善を図る。好本社長は「この店は、売上高に占めるインバウンド(免税売上高)の割合が35%、外商が25%で、合わせると6割だった。ある意味、特殊な店だから思い切った転換ができた」と話す。
インバウンドに照準をあてた9階は、日本のポップカルチャーで集客する。西日本初のカフェ併設「ポケモンセンターオーサカDX&ポケモンカフェ」、海洋堂のフィギュアの展示・販売スペースを併設した「タリーズコーヒー カイヨードー」、「週刊少年ジャンプ」のキャラクター商品がそろった「ジャンプショップ」、それに訪日客向けのサービスセンターや観光案内所を設置した。
これらの取り組みについて国内アパレルブランドの期待も高い。「ラグジュアリーな大丸心斎橋店の中で、感度の高いお客さまとの接点を広げたい」「アジアにも展開しているので、ここへの出店は訪日客へのアピールの場にもなる」と言った声が多く聞かれる。
JFRの前身である大丸は2000年代初頭から奥田務社長(当時)の強力なリーダーシップのもと、百貨店の従来の商慣習を見直して、集客力と収益性を高める「新百貨店モデル」を推進してきた。00年以降、大丸札幌店、大丸東京店、ギンザ シックスなど新規出店や建て替えなどの大型プロジェクトを経験してきたJFRは、その度にマーケット特性を分析してビジネスモデルの転換を行ってきた。旗艦店である大丸心斎橋店で取り入れた仕入れモデルと定借モデルの融合は、その最新版といえる。同店の成否が他の百貨店の運営に影響を与える可能性も大いにある。
大阪のショッピングエリア
ミナミの存在感は高まるか
大丸心斎橋店本館の建て替えオープンは、大阪の商業地図を占う上でも節目になる。大阪の2大ショッピングエリアであるキタ(梅田)とミナミ(心斎橋や難波など)。2010年代前半は大型の商業施設が相次いでオープンしたキタに勢いがあった。だが、近年は訪日客がけん引する形でミナミが盛り返している。
キタは10年以降、阪急うめだ本店の建て替え開業、大丸梅田店の大幅増床、ルクアとJR大阪三越伊勢丹(現・ルクアイーレ)、グランフロント大阪の新規開業によって商業施設の売り場面積は1.8倍に拡大した。これらにファッションや飲食の有力どころが相次いでショップを構えたことで、「梅田一極集中」などと言われていた。
しかし実際には、大阪らしい雑多な雰囲気のミナミは訪日客の急増とともに活気づいた。難波の高島屋大阪店は訪日客の増加によって高島屋の売上高一番店の座についた。大丸心斎橋店は縮小営業を余儀なくされた本館の建て替え工事中にもかかわらず、訪日客の多大な恩恵を受けた。心斎橋筋のカジュアルブランドやドラッグストア、御堂筋のラグジュアリーブランドの旗艦店も連日、中国人を中心とした多くの観光客で賑わう。不動産サービスのCBREによると、小売り、飲食、宿泊などミナミへの新規出店のニーズが高まっているという。
大阪市は昨年3月、御堂筋の歩道化構想を発表した。25年の大阪万博までに現在の6車線のうち側道2車線を歩道にして、さらに37年には車道を全て歩道にする構想である。パリのシャンゼリゼ通りを意識し、世界的なショッピングストリートを目指すという壮大な政策だ。
御堂筋はこれまでも関西一のラグジュアリーブランドの集積エリアだが、大丸心斎橋店本館の開業によって、さらにブランド数が充実することになった。御堂筋沿いでは「ルイ・ヴィトン」の日本最大の新旗艦店が20年初頭にオープンするのをはじめ、ラグジュアリーブランドの出店の動きが加速している。
さらには21年2月開業予定の「WOSAKA」など外資系高級ホテルの進出も計画されている。付随して高級レストランや高級車のショールームなども増える見通しだ。