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“売らないお店”作りを進める丸井とファブリック トウキョウが見据える「未来の小売りの在り方」

 オーダースーツのD2Cブランド「ファブリック トウキョウ(FABRIC TOKYO)」を運営するファブリック トウキョウは9月26日、新事業の戦略発表会を行った。発表会では同社の森雄一郎社長が“RaaS(Retail as a Service、小売りのサービス化)”という新たな構想を軸とした取り組みについて説明したほか、今年の5月に同社への出資を発表した丸井グループの青井浩社長が登壇。タクラムの佐々木 康裕ディレクターをモデレーターに迎え、出資の経緯と狙いや、丸井グループとファブリック トウキョウが考えるD2Cビジネスの今後の行く末を探るトークセッションが行われた。本記事ではそのトークセッションの模様をまとめてお届けする。

激動の小売り業界
“サービス化”した店舗が生き残る

佐々木康裕タクラムディレクター(以下、佐々木):まず一つ目のテーマは、“サービス化する小売り 今、何を考えているのか?”。つい先日の「フォーエバー21(FOREVER)」日本撤退の発表など、リテールが激動の時代にある中で、お二人は業界の変化をどのように捉えているのか。そして業界はどのようにサービス化するつもりなのか。

青井浩・丸井グループ社長(青井):おっしゃる通り、小売りの業界は変換期にあると思う。モノを買うという意味では、オンライン上でいつでもどこでも、どのようなモノでも買える。買うだけならオンラインの方が非常にスムーズで、店舗に行くことにストレスを感じる時代になりつつあるし、一部ではすでになっている。その中でリアル店舗はどういう存在になればいいのかをわれわれは考えている。その一つがサービス化することであり、われわれはキーワードに“経験”を据えている。店舗では、何かしら豊かな経験が提供され、味わえる。それがお買い物の楽しみになっていくと考えている。

佐々木:店舗の役割が体験する場所となり、お店と顧客との関係が長くなる。

青井:そう。一期一会から、ずっとお付き合いする関係値になる。顧客体験がジャーニーになっていくと考えている。

佐々木:ファブリック トウキョウでは、店舗の売り上げを店長が把握していないという話もある。

森雄一郎ファブリック トウキョウ社長(以下、森):不謹慎かもしれないが(笑)、確かにそうだ。従来の小売りは、お店を“売り場”として表現していた。しかし買う場所の選択肢が増えている現在、逆に店舗で買う必要がないことも考えなければならない。われわれが提供しているのは洋服ではなく、顧客体験だと言っているのもそれが背景にある。こうした考え方は丸井グループともシンクロしている。

佐々木:店舗のスタッフのモチベーションも、売り上げへのコミットから解放されることで、変化が見られることもある?

青井:まだ実験段階だが、ファブリック トウキョウの店舗へも、丸井側から7人、店頭スタッフが出向する。従来は成果が売り上げで見られていたが、これからは顧客満足やNPS(ネット・プロモーター・スコア、顧客推奨度の意)といったモノが指標になっていくのではないかなと思っている。

森:おっしゃる通りだと思う。すでに当社では、毎月の売り上げノルマは設定していない。KPIはお客さまのパーソナルデータをどれだけ取れたかや、接客をきっかけにお客さまがどれだけリピートしてくれたかなどを指標としている。

青井:アイウエアのD2C「ワービーパーカー(WARBY PARKER)」の店舗を見たことがあるが、来店客が楽しそうにメガネを選んでいて、個人的には衝撃を受けた。なぜ、あんなにも楽しそうなのかと考えたときに気づいたのが、店舗では買わなくていいし、売らなくていいということ。小売りのスタッフはもともと人が好きで、人に喜んでもらう、役に立つことが喜びとなっている。売り上げノルマではなく、純粋に喜んでもらうためのサービスを提供できるのは、スタッフたちのモチベーションにつながるはずだと思った。

森:アパレルの販売員の離職率は一般的に高いと言われているが、当社の場合、約60人の店舗スタッフのうち、この1年で辞めたのは1人いるかいないか。それぐらいやりがいをもって仕事に取り組んでくれているのではないかと思っている。

丸井のファブリック トウキョウへの出資
その経緯と狙いは?

佐々木:続いて2つのテーマ。今年の5月に資本業務提携が発表されたが、両社それぞれの立場から、改めて経緯と狙いは?

森:経緯としては、われわれは2014年に設立後、16年からリアル店舗戦略を始めた。しかし、なかなか出店がうまくいかなかった。一般的なショッピングセンター(SC)や百貨店などでは、店舗で売り上げが立たないようなわれわれのビジネスモデルは否定的に取られてしまうためだ。そのため最初は渋谷に路面店を出した。その後いろいろと交渉していく中で、丸井グループが手を挙げてくれた。丸井はデジタルネイティブストアとも呼ばれる、“モノを売らないお店”が必要になると当時から言っていて、マルイの新宿店と渋谷店に出店をさせていただいた。

青井:当社も期せずして、同じことを5年ほど前から考えていた。丸井グループはそれまで、百貨店型のビジネスモデルで、商品を仕入れ、販売をして、その差額を収益としていた。これをSCのような不動産賃貸借方式、いわゆる場所貸しの方式に変えていった。全国の約25店舗をその方式に変え、満を持して、オンラインと共存でき、経験やコミュニティーを提供できる場としての“モノを売らなくても良い店舗”をどんどん作っていこうと思った時に、最初にやりましょうと声を挙げてくれたのが森さんだった。

佐々木:丸井グループとファブリック トウキョウの店舗に対する理念が合致したと。

青井:タイミングが良かった。

森:昨年末くらいに青井さんと初めてお会いし、話をしたころ考え方がマッチしていた。そこでやりたいというよりも、やらなくてはいけないと考えた。半年後に出資を受けて、資本提携を行った。個人的には相思相愛だと勝手に思っている(笑)。

青井:森さんが素晴らしいのは、自社だけでなくD2Cブランドのマニアで、D2C全体を盛り上げていきたいというところ。そこも意気投合した。

佐々木:資本提携に際して、店舗という分かりやすい協業の在り方以外に、どういったシナジーを生み出せると考えているか。

青井:具体的なところでいうと、先ほども言ったような人の派遣が一つ。われわれもお客さまが大好きで、熟練したスタッフを多数抱えている。併せてスーツの製造工場の紹介であったり、PB(プライベートブランド)で培った生産管理のノウハウの提供だったりも協業の範囲に入っている。資本だけではなく、いろいろなことができる。

森:われわれもまだ小さいベンチャー企業で、アクセスできない取引先も多い。そういった中で支援をもらえると、新しい取り組みなどがしやすくなる。さらには丸井グループが持っているビジネスには、ショッピングビルだけでなく、エポスカードもある。当社も連携を今年から始め、オンラインで購入すればエポスカードの特典が受けられるような形にした。すでにお客さまからは好評を得ている。

青井:D2Cブランドに関してはオンラインでの購入が主流であり、決済が重要。その手段としてエポスカードがある。決済においてはサブスクリプションもクレジットカードが向いていると考えており、そういった面でも手伝えるはず。

「小粒だけどピリリと辛い」世界
丸井グループの考えるD2Cの可能性

佐々木:最後のテーマは、丸井グループが考える、これからの小売体験について。体験に限らず、これからのD2Cのエコシステムについて伺いたい。

青井:アメリカでも言われているが、今後ネットでの小売りでは、大手のビジネス中心に進んでいく。大手のEC一極集中の世界は確かに便利、かつスムーズだが、それだけだと少し面白くない。小さくてもいいので、いろいろな個性や、ユニークなモノとサービスなど多様性のある豊かな社会を作りたい。その主役がD2Cであり、D2Cのエコシステムを作りたいと考えている。そのためにわれわれは、場の提供やデータの提供、決済、人材、サプライチェーン、融資などいろいろな面で手伝っていくつもりだ。私自身もマニアックなモノが好き。マニアックなものも支持を受け、小粒だけどピリリと辛いモノもそろう、多様な世界を作りたい。

森:D2Cビジネスは現在、過渡期だと思っている。D2Cに関するイベントでは多くの人が集まるし、僕個人のツイッターやメール、ブログのコメント欄にも、D2C関連の相談などをたくさんいただいている。感覚的には、今年だけで100件以上立ち上がっているのではないかと思っている。D2Cはトレンドの一過性ではない。ネット時代に生まれたスタンダードなビジネスモデルだと考えている。個人的にはそのエコシステムにどう貢献できるのかを考えている。丸井グループさんと共に、トップランナーとして小売りを楽しいものにしたい。

青井:今の話もそうだが、森さんはリーダー的な存在でもあると思っている。一緒にエコシステムに貢献していきたい。

佐々木:丸井グループはBASEやシタテルなど、D2Cを裏から支えるシステムや仕組みを提供する会社にも出資している。エコシステムをどう成長させるのかを重視している?

青井:そう。エコシステムを作るのは、一対一の取引関係の逆にある。できるだけ中立的で、一緒にやっていけるというのがエコシステムにおいて重要だと考えている。われわれは最初に二人三脚で飛び出して、成功事例を作れればと思っている。丸井グループとして初期段階から出資したBASEも、小ロットでの生産を可能にしたシタテルも、事業を始めたばかりの人たちにとっては非常にいいサービス。われわれは生産の川上であったり、プラットフォームであったりと、いろいろなところからエコシステムに寄与していきたい。

森:BASEなどは、従来の小売りの考えから見ると競合にもなりえると考えられてきた。その中で丸井グループはBASEに早い段階で出資をしており、先日上場承認を受けたという成功事例も作っている。考え方が非常に柔軟だと思っている。

青井:従来の店舗とネットとの対立構造はもう終わっている。ビジネス上は分けて見られがちだが、消費者から見ると普段の生活においてオンライン、オフラインを分けて考えることはない。ビジネスだけは分けてやりたいというのは不可能だ。それよりも融合型のビジネスモデルを確立した方が、前向きだし、戦略としても結果的に有利なはずだ。