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作るだけではなく、届ける 出版の先を見据える「アカツキプレス」

 オークラ出版が社内に新しい出版レーベルを立ち上げた。その名もアカツキプレス。ディレクターに編集事務所Kichi主宰・柴田隆寛さんを迎え、オークラ出版の編集者・長嶋瑞木さんと2人でスタートさせた新しいプロジェクトだ。

 第1弾として、ラテンをベースにした風変わりな音楽を奏でるオブトロピーク(of Tropique)のCD付きアートブック「ラパルマ アナザーデイ イン パライソ(La Palma ANOTHER DAY in PARAISO)」を、第2弾は、写真家・上田義彦さんに師事後独立し、静謐かつ独自の世界観で注目を集める写真家・白石和弘さんの写真集「また、あうものたち」を2019年1月末に刊行する。それぞれにとって初の著書でもある。なぜ、外部からディレクターを迎えてまで社内に新しいレーベルを設立したのか。その経緯について2人に聞いた。

 日本では1日に200点以上の新刊書籍が出版されている。ここまで刊行点数が膨らむ裏側には、出版社の資金繰り事情が1つの理由としてある。長嶋さんはこう打ち明ける。「弊社でも資金繰りのために新刊をひと月に約40点出版していた時期がありましたが、そこにずっと違和感を感じていたんです。今振り返ると、そのやり方では一冊一冊を丁寧に、人の心に残るような本を作ることは難しかったんじゃないかなと思います。そのような背景があり、会社として出版の幅を広げ続けるよりも縮小させて、どんな本を作らなければならないかを決めようと数年前から考え始めました」。

 元々アートやカルチャーに興味があった長嶋さんは、2016年にイラストレーター長場雄さんの「みんなの映画100選」の編集を手掛ける。その刊行イベントで柴田さんと出会って意気投合し、相談を重ねる中でレーベルを作ることを決意する。

 一方で、柴田さんの周りには本を作りたいと相談にくる若い写真家やアーティストが多くいたそうだ。「彼らの話を聞いていると、資金がある人やフォロワーが多い人しか出版社では本が出せないという現状って問題だなと思っていました。そういう若いクリエイターたちと一緒にやっていきたいという思いもありました」。18年4月、2人は具体的に動き始める。気づくと8時間が経過していたある日の作戦会議で、コンセプトを出し合いレーベル名を決めた。

 アカツキプレスというレーベル名の由来は、夜明け。暗闇に眠る才能や新しいアイデアの持ち主を見つけ、彼らとともに本の可能性を再発見して世界に新しい光を届けることがコンセプトだ。「本というのは、多様性があるものだと考えています。多く売れるものだけが存在するとなると、そもそも多様性からはかけ離れますよね。1000部や2000部の出版数でも文化として残っているということが魅力。だからそういうことをやりたいなと思っていました。例えばアーティストが500部のジン(ZINE)を作るとなると、届くスケールが決まってしまい限られた場所にしか届きません。でも出版社で発行するとなると、取次という流通システムを使ってより多くの人に届けることができます」。

 柴田さんは、マガジンハウスの「アンドプレミアム(& Premium)」でエグゼクティブ・ディレクターを務めた経験を持つなど、外部から関わることは今回が初めてではない。今までと違うと感じるところについて聞いてみた。「僕たちの上にいるのは社長と営業の方々、制作メンバーのみで全員顔が見える距離にいます。会社としての規模が小さいので、社長へすぐに企画を提案できるなど、自分たちの意思を伝えやすく柔軟に動けるところがメリットですね。またもの作りとしても、関わる人が少なければ少ないほど純度が高い状態で制作ができると考えています。その一方で、インフラとして出版社の流通システムが整っているため取次を通して全国へ届けられることに加え、今までの人脈を生かしゲリラ的に直取り引きで書店以外に置いてもらうこともできます。そのようなハイブリッドな流通ができることも魅力だと感じています」。

 多くの出版物が並ぶ書店で特定の本や雑誌を手にとってもらうことの難しさを、私は書店勤務時代に痛感してきた。読み手に届けるために何ができるのかまでを考えて行動するのが、このレーベルが大切にしていることでもある。柴田さんはこう続ける。「第2弾として発売した写真集『また、あうものたち』の白石くんからは、実は結構前に写真集を出したいと相談を受けていたんです。その際に、ただ作るだけでは届かないと思うから、例えば展示をするなどの出口、いわゆるプロモーションができそうな場所を探すことから始めるのがいいのではとアドバイスしました。その後白石くんが、森岡書店で展示ができそうだと報告に来てくれたんです(注:森岡書店での展示はすでに終了)。作ることも大切だけど一番はどう届けるのか、僕はそこだと思っています」。

 長嶋さんもこう話す。「本当は出版社側で本を出した後のことも考えるべきなのに、作って終わりというケースが多いように感じています。そうではなく、届けるところまで一緒に作る。またフォロワーうんぬんではなく、広く知られていなくても面白い方がたくさんいるので、一緒にやっていくことが編集としての醍醐味でもあると思います」。

 出版した2冊の著者は共にまだまだ知られざる存在であり、凝った装丁を含めて、大きな出版社だと通りにくい企画だろう。長嶋さんは続ける。「大手の版元で通りにくそうな企画も、私たちだったらまず検討できます。予算さえ合えば面白い試みをしようと社長も考えているので、非常に自由度が高いです。流行っているから、著名だからという理由で本を出すのではなく、誰もが平等に本を出せていろんな表現ができるフラットな場でありたいと思っています」。

 柴田さんは今後について、「すぐに採算ベースにはのらないかもしれないけど、ブランドとしてこのレーベルには面白い人が集まっているという見え方を作れば、そこで働きたいとか、面白い本を出してくれるのではと考える人が集まってくる。そうして仲間が増え、コミュニティーができていく。応援してくれるお店がたくさんできれば、初版の数も予測できます。スモールスケールだけど確実に売れる本が作れるのではないかと思うんです。だから、作るだけではなくて届けることに力を入れる。本が軸になってメディアになっていけば面白いと思います」。

 来年から本格的に始動するというアカツキプレスでは、シリーズ化する本の企画や、すでに刊行が決定しているものもあるそうだ。作るだけではなく、届けること。これは出版に限らず、物が溢れている今の時代だからこそ考えてみるべきことではないだろうか。思いが同じ仲間を増やしながら巻き込むスタイルが、これからの物の売り方の一つになっていくと思う。アカツキプレスから生まれる新しい光に注目していきたい。

高山かおり:独断と偏見で選ぶ国内外のマニアックな雑誌に特化したオンラインストア、Magazine isn’t dead. 主宰。本業は、東京と甲府の2拠点で活動する編集アシスタント、ライター。北海道生まれ。北海道ドレスメーカー学院卒業後、セレクトショップのアクアガール(aquagirl)で販売員として勤務。在職中にルミネストシルバー賞を受賞。その後4歳からの雑誌好きが高じて都内の書店に転職。6年間雑誌担当を務めて18年3月に退社し、現在に至る。