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「ラニット」を知っていますか? 写真集「nice to meet you」が生まれた背景とは

 機械編みと手編みを融合するユニセックスのニットブランド「ラニット(L’ANIT)」は、伊勢丹新宿本店でのポップアップストアの開催や、スタイリスト二宮ちえさんのストリート・ゲリラ・フォトシューティングプロジェクト「nice to meet you」とのコラボレーション写真集を出版するなど、ニットブランドの枠を超えて活動している気鋭のブランドだ。前編ではブランド設立の背景を紹介した。後編では、写真集出版に至った経緯をたどる。

第2回 「ラニット」を知っていますか? ブランド設立の経緯(前編)

(前編から続く)

 専門学校卒業後の2015年、福島で何かを生み出したいともう一度Uターン。そこで目をつけたのが、通常は分業されている手編みと機械編みを融合させること。同時期にブランドコンセプトも明確になり、ファンシーヤーンの製作、ファンシーヤーンを取り入れたオールハンドメードの一点モノ、ハンドメードを取り入れた量産ラインの3つを軸に展開することに決めた。その結果、以前ならつながることのなかった人たちとの関係を築きながら、少しずつ新たな雇用を生み出せるようになった。

 それと並行して、ファッションに興味がない人に対して、どうすれば目を向けてもらえるのかを考え続けていた。地元には「ファッション=着飾る」というイメージが根付いており、それを壊したいとも思っていた。そこで生まれたのが15年に開催したゲリラ企画だ。入場料の代わりに古着を持ち寄ってもらい、ファッションに興味のある若者がコーディネートを提案するというイベント。老若男女が楽しめるように日本酒を振る舞ったことも功を奏し、地元の方が予想以上に来てくださったという。若い人と交流できて楽しいという年配の方からの声を受け、自然と写真を撮り合う状況が生まれた。これを本としてまとめられないだろうかと思ったことが、出版を決めた契機となった。

 スタイリングを一方的に決めて提案するのではなく、なじみあるものを1点投入することでファッションを身近なものに感じてもらうこと。意図的に作るのではなく、ハプニングを起こすこと。偶然を味方につける彼女の姿勢は、まさに花開くこととなった。

 そして16年、とある偶然からスタイリスト二宮ちえさんと知り合う。二宮さんは「nice to meet you」というストリート・ゲリラ・フォトシューティングを15年に始めていた。「nice to meet you」とは、道行く人をハントしてアイデアをプラス、時にはマイナスしたりするプロジェクトで、これまでにもさまざまなアーティストとコラボレーションしてきている。

 16年9月、高橋さんから二宮さんにお願いして「ラニット」とコラボレーションする形で巣鴨で「nice to meet you」を実施。最初は戸惑っている人たちがだんだんと笑顔をみせる……その姿を見て、地元の福島でも実現させて写真集にしたいと思い、高橋さんは二宮さんに相談した。そして今回出版した本の元となった「nice to meet you」が福島県で実施された。福島という街は、実は二宮さんにとっても思い入れがある特別な場所だった。

 撮影したのは、二宮さんが自身のプロジェクト中に被写体として知り合った嶌村吉祥丸さん。装丁は、嶌村さんの紹介で中島雄太さんが担当した。ニットを取り入れたデザインは、「ニットのぬくもりとつながりの温かさの掛け合わせを表現したかった」とのこと。被写体のうれしさが込み上げる瞬間を捉えた写真の数々に、ファッションの力を思い知らされた。後ろ姿でさえ笑顔に見えてしまう。ここに語られてはいないが、がんを宣告されたおじいちゃんがいたりと、実は一枚一枚にエピソードがあるという。“fancy & funkyなニットでhappyを”がコンセプトの「ラニット」と、服を使って偶然と遊んでいるという二宮さんのプロジェクト「nice to meet you」。モノとコトが出合い、掛け合わさったことで生まれた新しい価値観。ここにファッションの面白さがあると思う。

 ここまで読んでくださった方は、あまりにドラマチックでトントン拍子に進んできたような印象を受けるかもしれないが、一方で反発の声も多くあるという。見て感じてくださる人もいるが、伝わらない人には伝わらないし、言葉じゃないと届かない人もいる。でも、それでいいのだ。一方的に考えを押し付けるのではなく、一人一人感じ方は違うからこそ生じる摩擦を大切にしたい、と高橋さんは言う。震災後にさまざまな価値観が露わになったことでそう考えられるようになったそうだ。どんなことも柔軟に受け止めようとする姿勢に、したたかな意志を感じる。出会いを大切にしてきたことで今がある。偶然で紡がれた「ラニット」のあり方は、これからの希望になるかもしれない。