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オペラを歌いアンティークジュエリーを収集する「ロジェ ヴィヴィエ」の新ディレクター、ゲラルド・フェローニとは?

 1937年創業の「ロジェ ヴィヴィエ(ROGER VIVIER)」に新しい風が吹き込んでいる。16年にわたってメゾンを支えたブルーノ・フリゾーニ(Bruno Frisoni)の後任として2018年3月にゲラルド・フェローニ(Gherardo Felloni)新クリエイティブ・ディレクターが就任し、19年春夏シーズンにデビューコレクションを発表した。これまで名前が表舞台に出ることが少なかったゲラルドだが、明確な世界観を持ち、それを実現させるだけのキャリアと実行力を兼ね備えた人物だ。芸術を愛し、テノールとしてオペラを歌い、ジュエリーの収集家という顔も持つ。

WWD:デザインはどこで学んだ?

ゲラルド・フェローニ「ロジェ ヴィヴィエ」クリエイティブ・ディレクター(以下、ゲラルド):ファッションを学問として学んだことはなく、実家がラグジュアリーシューズを製造していて幼い頃からシューズに囲まれて育った。

WWD:ではファッションの仕事に就いたのは必然だった?

ゲラルド:実は高校を卒業した18歳のころは建築家になりたくて建築を学ぼうと思っていた。でも父に「『プラダ』でスタジエール(研修生)を探しているから夏休み中にやってみて、本当に建築を学びたいか考えてみなさい」と言われた。これは、私が一夜漬けでテストに臨む子どもだったから(笑)、「おまえは8年も学校に通って卒業できる見込みはない」というのを、父なりにオブラートに包んだ言い方だったんだと思う(笑)。スタジエールとして「プラダ」に入った結果、この仕事に魅了されてこの道を志すようになった。

WWD:「ロジェ ヴィヴィエ」はどのようなブランドだと思う?

ゲラルド:ここで働くのはずっと私の夢だったから、このオファーが来たときは二つ返事でOKした。ムッシュ・ヴィヴィエはシューズ界における天才中の天才。彼はヒールの形を生み出した人物だが、それまでアッパーのデコレーションしか注目されなかったシューズのヒールやソール部分にまでデザイン性を持たせ、シューズを“ファッションアイテム”に変えた最初の人だ。また、メゾンのサヴォアフェールもすばらしい。他のシューズブランドなら何度も試行錯誤して完成させるような難しいものも、ここでは、プロトタイプの時点で完璧なものができ上がる。

WWD:デビューコレクションのコンセプトは?

ゲラルド:もちろんメゾンのアーカイブは重視するが、一貫性を保つために3つの柱を設けた。それがシルエット、色使い、独創性。私は自分のことを“女性に仕えるデザイナー”だと思っていて、私のコレクション、生活、ビジョン全てが“女性”を中心に回っている。世界にはあらゆるタイプの女性がいるから、それぞれが何を求めているかにフォーカスしたし、今後も継続したい。

WWD:女性によっても好みは異なるし、同じ女性であってもTPOによって求めるシューズは違う。

ゲラルド:その通り。だからランニングシューズからクチュールシューズまで作るし、嫌いなシューズはない。「ロジェ ヴィヴィエ」はウエアがない分、履くシチュエーションをイメージできることが重要だ。

WWD:キトゥンヒールが多い印象だ。

ゲラルド:私のヒールは90%キトゥンヒールだ。10年程前までは、“女性はセクシーで若くて美しくなければいけない”といった風潮があったから12センチヒールを無理して履いている女性も多かった。それは当時の女性に「私はもう若くないしセクシーでもない。だけどやりたいことをやるだけの力があるんだ」と言えるだけのセルフコンフィデンス(自信)がなかったからだと思う。今は何歳でも着たいものを着ている。アレッサンドロ・ミケーレ(Alessandro Michele)が手掛ける「グッチ(GUCCI)」のおかげでダイバーシティー(多様性)が認められるようになったのだろう。一方で、(クリスチャン・)ルブタン(Christian Louboutin)のことも尊敬している。彼は女性にハイヒールを広めた人だと思うし、ムッシュ・ヴィヴィエと同じくシューズの歴史を変えた人物だ。

私がキャリアをスタートさせた99年頃は、市場で売れるヒールは高くても10センチだった。しかし彼が現れて12センチのヒールを一般人に履かせることに成功した。でも私がその流れに追随したいかと言われればそうではない。でもそれがファッション業界のあるべき姿で、10年後には若者が私のキトゥンヒールを見て、「こんなの古すぎる、チャオ!」って言うだろう。

WWD:ブランドをどう導きたい?

ゲラルド:これはどのデザイナーにも言えることだが、第一のゴールはブランドに現代性を持たせること。長い歴史やヘリテージを持つブランドは、歴史の重みを押し出すことは簡単。しかし、ブランドも女性も現代性を必要としている。オリジナルをなぞるだけでは古臭くなってしまうから、私がムッシュ・ヴィヴィエから継承したのは世界観だけ。アーカイブからディテールを採用することはしていない。ヒールもすべてアップデートしている。

WWD:アンティークジュエリーの収集家だと聞いたが、靴とジュエリー、どちらが好き?

ゲラルド:シューズは私の仕事であり、私の人生そのもの。気に入ったデザイン画や自分のコレクションの中で最も気に入ったシューズは自宅に飾っているし、アトリエも靴の山(笑)。だから靴のない生活は考えられない。ジュエリーは15年前から収集を始めた。スタイリストのマヌエラ・パヴェージ(Manuela Pavesi)が「ナイキ(NIKE)」の緑のジャケットにエメラルドを合わせていたのを見て、「すごくかっこいい!」と思った。日常着る服に本物のジュエリーを合わせてもいいんだと衝撃を受けたことがきっかけだった。だから私も今日は「ナイキ」のジャケットを着てきたし(笑)、ジュエリーを日常的に着用するのが好き。

WWD:テノールとしてオペラを歌うと聞いたが、趣味や休暇の過ごし方など、プライベートなことを教えて。

ゲラルド:音楽学校で6年間声楽を学んだ。今はパリの郊外に住んでいて2匹の猫と暮らしている。庭のバラ園は自分で手入れをしている。休暇があれば歌のレッスンを受けたりアンティークジュエリーのショッピングをしたり。家具も好きで、フリーマーケットに行くこともある。最近はトスカーナに購入したライトハウスを改装している。