今年は、「シャネル(CHANEL)」の創業者ガブリエル・シャネル(Gabrielle Chanel)が初めてクチュール・コレクションをデザインしてから110年になる。その節目を記念して9月に発売予定のコーヒーテーブルブック「シャネル オートクチュール(CHANEL HAUTE COUTURE)」が、2025-26年秋冬クチュールショーの招待状と共にホテルに届けられた。メゾンとつながりの深いソフィア・コッポラ(Sofia Coppola)が編集した総計448ページの一冊にまとめられているのは、これまでのランウエイ写真やキャンペーン、エディトリアル、デッサンからオートクチュールサロン、アトリエの職人たちの手仕事まで、多彩なビジュアルの数々。そこからは、メゾンに脈々と受け継がれるオートクチュールの歴史が感じられる。
その伝統に光を当てるかのように、今季はグラン・パレの中心にある巨大なネフ(身廊)ではなく、規模の小さなサロン・ドヌールに、ベルベットのソファーや連なるミラーを並べ、カンボン通り 31 番地にあるアイコニックなオートクチュールサロンを再現。ベージュでまとめられた空間には、親密なムードが漂う。
牧歌的ムードとエレガンスが融合
コレクションで表現したのは、広大な自然への賛辞。現代的なファッションを通して女性の体に自由な動きをもたらしたシャネルは、英国の田園風景からも着想を得ていた。メゾンを象徴する素材ツイードを用いるようになったのも彼女がかつて交際していた第2代ウェストミンスター公爵の装い、そして彼と頻繁に訪れたスコットランドがきっかけだった、というのは有名な話だ。今季は、そののどかな情景につながるような落ち着いたカラーで彩ったツイードのスーツやドレスが充実。メンズウエアからヒントを得たという直線的なシルエットは、生地の豊かな質感や装飾を際立たせる。
前半に登場したツイードアイテムは、フリンジ状に仕上げた裾や襟元、袖口が特徴。フェザーやシフォンを組み合わせ、よりダイナミックに表現したものもある。すっきりとしたシルエットにファーのようなボリュームを加えるフェザーの装飾も印象的だ。また柔らかなモヘアのスーツは深い緑や赤の色合いで、秋の自然を映し出すかのよう。一方、メタリックなゴールドは大地に降り注ぐ太陽の光を想起させる。後半には、滑らかなサテンがエレガントなドレープを生むチューリップスカートにアトリエの技術を駆使したぜいたくな刺しゅうのトップスを合わせたドレススタイルや、透け感や煌めきを取り入れて「シャネル」らしい白と黒の配色を軽やかに仕上げたルックを披露した。
そしてゲストの座席に置かれていたのは、黄金に輝く麦の穂。シャネルが大切にしていたモチーフは豊かさの象徴であり、今季の牧歌的なイメージにリンクする。そんなモチーフはジュエルボタンや刺しゅうとしてデザインに用いられ、ラストを飾ったマリエ姿のモデルも麦の穂の束を携えて登場した。
高まる次章への期待
クリエイション スタジオが手掛けるコレクションは今回のクチュールで最後になり、10月にはいよいよマチュー・ブレイジー(Matthieu Blazy)アーティスティック・ディレクターによる新生「シャネル」が披露される。ガブリエル・シャネル、カール・ラガーフェルド(Karl Lagerfeld)、ヴィルジニー・ヴィアール(Virginie Viard)、そしてこの1年間メゾンのクリエイションを守ってきたスタジオからのバトンを受け継ぐマチューは、メゾンのコードや歴史、サヴォアフェールをどのように未来へとつないでいくのか。その現代的な感性とチームワークを大切にする姿勢を生かして作り上げるフレッシュなコレクションに期待が高まる。