ファッション

新生「メゾン マルジェラ」がクチュールでデビュー グレン・マーティンスが再解釈するメゾンコード

メゾン マルジェラ(MAISON MARGIELA)」はパリ時間の7月9日夜、2025-26年秋冬オートクチュール・ファッション・ウイークの目玉であるグレン・マーティンス(Glenn Martens)新クリエイティブ・ディレクターのデビューショーを開いた。今回発表したのは、もともとアンティークアイテムや古着を再構築して新たな命を吹き込むことからスタートした“アーティザナル“コレクション。アトリエの職人たちの手仕事によって生み出される“アーティザナル“は、ぜいたくな素材や煌びやかな装飾に象徴される一般的なオートクチュールとは全く異なるものの、「マルジェラ」にとってのオートクチュールだ。現在は再構築だけでなく実験的なアプローチで芸術性や創造性を探求しており、メゾンの全コレクションの“源泉”になっている。

そんな核となるコレクションの制作にあたり、グレンは創業者のマルタン・マルジェラ(Martin Margiela)が確立したコードを読み解くとともに、そして前任のジョン・ガリアーノ(John Galliano)がメゾンに持ち込んだクラフツマンシップとテーラリングにも着目。彼ならではのダークな世界観を取り入れた49ルックを披露した。

モデルは全員マスク姿で登場

ショーの会場は、パリ19区にあるカルチャーセンター「サンキャトル パリ(CENTQUATRE-PARIS)」の地下。それは、マルタンが最後のショーを行った場所と同じだという。いくつかの部屋に分かれた空間の壁と床には、6つの異なる宮殿の内装を印刷した紙のコラージュがところどころ剥がれたように貼られた。スマッシング・パンプキンズ(THE SMASHING PUMPKINS)の「DISARM」などの楽曲を解体・再構築した音源が流れる中登場したモデルは全員、PVCやメタル、ビジュー、レースなどさまざまな素材で作られた顔から頭までを覆うマスクを着用。それは創業者が掲げた「匿名性」、そして服へのフォーカスを物語っている。

コレクションの着想源となったのは、グレンの故郷ベルギー・ブルージュや、マルタンとグレンが学生時代を過ごしたアントワープも含まれるフランドル地方やオランダの中世建築とその雰囲気。具体的には、ゴシック建築の教会の塔をイメージした縦長のシルエットや、16世紀フランドル地方で見られた花モチーフをハンドペイントとエンボスで表現したレザーの壁紙、17世紀オランダの狩猟や花をテーマにした絵画を取り入れた。また、どこか幻想的でくすんだ色使いは、19世紀にフランスで活躍した象徴主義の画家ギュスターヴ・モロー(Gustave Moreau)の絵画からヒントを得たものだ。

「マルジェラ」らしい素材使いと手仕事

ファーストルックは、無色透明のPVCで作られたコルセットとビスチエドレス。スカート部分には同じ素材をドレープしたアンダースカートを合わせる。その後も、キャンバスの上に油絵具をブラシで塗りレザーのような質感に仕上げたり、ビンテージのバイカージャケットをパッチワークしたレザーアウターの上に前述の壁紙を印刷した紙を貼り付けたりと、日常の中にある素材と不完全さや歳月を感じるような手仕事を生かした作品が続く。その中には、古いコスチュームジュエリーやクリスタルをびっしりとあしらったドレスやテーラードジャケットとエプロンスカートのセットアップもあれば、ウオッシュや錆の風合いをハンドペイントのトロンプルイユ(だまし絵)で表現したデニムもある。

一方、狩猟の絵画やカラフルな花をプリントした生地で仕立てたテーラードジャケットやドレスは、羽や花を立体的に形作ったチュールを重ねることで、モチーフが浮かび上がるような効果を演出。しわくちゃな金属糸入りのダッチェスサテンをたっぷりと使ったドラマチックなシルエットは、グレンが22年に「ジャンポール ゴルチエ(JEAN PAUL GAULTIER)」のゲストデザイナーとして初めて取り組んだクチュールや「Y/プロジェクト(Y/PROJECT)」での素材使いを思い起こさせる。

終盤には、透け感のあるジャージーを用いた流れるようなフロアレングスのガウンや、シャンティリーレースのアップリケやドレープで立体感を出したトップスにすっきりしたスカートを合わせたスタイルを提案し、より繊細な一面を覗かせた。多くのドレススタイルにはコルセットを取り入れているが、24年1月にジョンがラストショーで打ち出したウエストを極端に絞り込むようなものではなく、解剖学的アプローチで成形したものを採用。ハイレグのような形状にはグレンらしさが見て取れるが、コルセットによって生まれるシルエットがエレガンスをもたらす。そして足元には、かぎ爪のように尖ったトーデザインで再解釈した“タビ“ブーツやヒールのないサンティアゴブーツなどを合わせた。

今回のコレクションでは、正直想像していた以上に多くのアイデアが見られた。マルタンの影響を受けてきたというグレン自身が得意とするデザインアプローチは、随所に見られた「マルジェラ」のコードと通じる部分もあり、メゾンとの親和性の高さを感じる。この“源泉”をもとに、10月のパリ・ファッション・ウイークで発表予定のプレタポルテでは、どんなコレクションを見せてくれるのだろうか。マルタン・マルジェラとジョン・ガリアーノという2人の天才の後を継ぐグレンの新章は、始まったばかりだ。

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