ファッション

「揺るがない土台があるから崩せる」 写真家・鈴木親が見るHOSOOと京都

PROFILE: 鈴木親/写真家

PROFILE: (すずき・ちかし)1972年生まれ。1996年渡仏。仏インディペンデント・ファッション誌「パープル」で写真家としてキャリアをスタートする。「i-D」「ル・モンド」をはじめ、「GQ ジャパン」「ヴォーグ ジャパン」など国内外の雑誌で撮影を担当するほか、「ジョンロブ」「シャネル」「ドーバー ストリート マーケット」などのコマーシャルビジュアルも手掛ける

7月13日号「WWDJAPAN」は、1688年の創業以来、京都・西陣で織物づくりを続ける「HOSOO」を特集する。表紙と特集ページのビジュアルを手掛けたのは、写真家・鈴木親だ。着物のファッションシューティングは、「WWDJAPAN」創刊以来初となる。

撮影は、HOSOOの思想を象徴する茶室「織庵」と、歴史と現在が地続きにある京都の街で行った。世界のラグジュアリーブランドとも仕事を重ねてきた鈴木は、京都やHOSOOに、ヨーロッパのメゾンと重なるモノ作りの精神を感じたという。今回の撮影の背景とともに、HOSOO、京都、そして伝統を未来へつなぐことについて聞いた。

“ブランドの姿勢に、
ラグジュアリーの本質を感じた”

WWD:HOSOO12代目・細尾真孝さんとの出会いを教えてほしい。

鈴木親(以下、鈴木):京都で行われたとあるイベントで、細尾さんから「『HOSOO MEN』を始めるので、意見を聞かせてほしい」と声をかけていただき、本格的な付き合いが始まった。まだ1年ほどの関係だが、その間にHOSOOのモノ作りや京都という街、そして職人やクリエイターが自然と交わる京都の人々の在り方に強く引かれていった。

WWD:HOSOOというブランドに強く引かれた理由は?

鈴木:国産シルクの未来を見据え、養蚕から産業そのものを再構築する「KYOTO SILK HUB」の構想にも深く共感した。でも最初に深く感動したのは、自社でコンセプトマガジン「More than Textile」を制作していたことだ。HOSOOの取り組みや、西陣織の歴史、コラボレーターとのプロジェクトまで、自分たちが積み重ねてきた活動を総括し、2021年から発行している。ウェブやSNSだけでも十分に情報を発信できる時代なのに、あえて紙や印刷にまでこだわり、本という形で記録を残し続けている。その姿勢に、HOSOOが大切にしているラグジュアリーの本質を感じた。だからこそ、長く一緒に仕事をしていきたいと思えた。

WWD:実際にHOSOOを訪れてみて、どんなことを感じた?

鈴木:HOSOOのアトリエを初めて訪れた時、玄関が本当にきれいだったことが印象に残っている。「毎朝みんなで掃除をするのが当たり前になっている」と聞いて、「エルメス(HERMES)」や「メゾン マルジェラ(MAISON MARGIELA)」のアトリエを思い出した。職人を尊重し、モノ作りの場をていねいに整える文化が自然と根付いている。その精神性は、世界の一流メゾンで感じたものと重なった。

“歴史を残すことは、
昔のまま守ることではない”

WWD:HOSOO特集は京都で撮影した。どのような点を意識した?

鈴木:京都の人も観光客も、あまりカメラを向けない場所。でも、見る人が見れば京都だと分かる場所を意識した。着物はHOSOOが正統に着せてくれるからこそ、撮る場所や見せ方で少しだけ価値観をずらしたかった。

立派なものは、あえて立派な場所で撮らない方がその魅力が際立つことがある。王様が王室にいたら普通だけれど、雑踏の中を歩いていたら目を引くでしょう。それと同じで、何気ない京都の日常に上質な着物があることで、その存在感はより際立つ。京都の人が持っている美意識に、新しい視点を少しだけ加える。それが僕らの仕事だ。何百年と受け継がれてきた歴史と文化は、僕が1年くらい引っかき回したところで、びくともしない(笑)。それだけ強い土台があるから、新しい表現も受け止められる。

WWD:京都について語る際、「地続き」という言葉をよく使うが、その言葉にはどのような意味が込められている?

鈴木:東京には新しい文化やトレンドが次々と生まれる面白さがある。その分、文化がずっとつながっている感覚はそれほど強くない。一方、京都では着物文化も職人の技術も、何百年にわたり一度も途切れることなく受け継がれてきた。歴史は過去のものではなく、今も日常の中に息づいている。僕が言う「地続き」とは、そういう感覚のことだ。

WWD:その“地続き”の歴史や文化が、多くのブランドやクリエイターを京都へ惹きつけている。

鈴木:海外のクリエイターは京都へ来ると、自分たちのスタイルを押し付けようとしない。むしろ京都の文化やルールに自分を合わせようとする。それは、京都自体が1つのブランドだからだ。長い時間をかけて培われた文化や美意識に対して、まず理解しようとする。世界のトップクリエイターが自然と敬意を払う。それだけの歴史と文化が京都にはある。

WWD:歴史や伝統を未来へ残すために必要なことは?

鈴木:ブランドは、時代に合わせて少しずつ進化し続けることで残っていくものだ。約32cmだった帯地の技術を約150cm幅まで広げ、インテリアという新たな領域へ展開したHOSOOの取り組みは、その姿勢を象徴している。「歴史を残す」とは、昔のまま守ることではない。本質は貫きながら、新しい時代にふさわしい形へと発展させていくことだ。メゾンもHOSOOも、その積み重ねがあるからこそ、長い歴史を未来へつないでいけるのだと思う。

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最新号紹介

WWDJAPAN Weekly

HOSOO特集 日本文化の基層を成す絹と大麻から未来の産業をつくる

「WWDJAPAN」7月13日発売号は、京都・西陣織の老舗HOSOO特集です。「More than Textile」を掲げ、織物の可能性を拡張し、人々がまだ見たことのない西陣織の美を追求しているHOSOO。その探究の中で出合ったのが、江戸時代の絹(シルク)や大麻(ヘンプ)で織られた着物でした。その品質を現代に再現し、さらに超えることを目指し、絹、大麻ともに日本の在来種を用いて、原料生産から取り組む…

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