
HOSOOは8月30日まで、アーティストのシアスター・ゲイツ(Theaster Gates)とのコラボレーションによる展覧会「シアスター・ゲイツ:Glorious Robe(グロリアス・ローブ)」をHOSOO旗艦店の2階ギャラリーで開催している。両者は2024年に森美術館で開催された「シアスター・ゲイツ展:アフロ民藝」をきっかけに協働を重ねてきており、本展では、その対話の中から生まれた新たな作品を紹介する。
井高久美子キュレーターは見どころをこう語る。
「『着る』『纏う』がキーワードになっている。シアスター・ゲイツさんは、陶芸や彫刻をはじめ都市計画や都市開発、建築的な実践まで、多領域にわたって活動されている。その中でも陶芸は、ご自身の表現の核となる重要な領域の一つ。今回はその陶芸、すなわち“器”としての焼き物と“衣服”とを結びつけた展示を手がけていただいた。シアスター・ゲイツさんは、ブラックカルチャーに強い関心を持ち、ご自身のルーツとも深く向き合いながら制作を続けている。一方で、日本では常滑で作陶を学ばれており、そうした経験を背景に、日本の文化とアフリカにルーツを持つ自身のアイデンティティを融合させた作品を生み出している。今回の細尾さんとの協働においても『ダシキモノ(Dashikimono)』を通じてそうした文化的背景を表現している。衣服は、社会的なムーヴメントや政治的なメッセージを纏うことができる存在であり、その思想や意志を表現する媒体でもある。本展でも、そうした側面が一つの重要なメッセージとして提示されている。また、器についても、器そのものを身体的メタファーとして捉え、それに纏わせる衣服のような存在をつくりたいという意図から、細尾さんとの綿密なディスカッションが重ねられ、最終的には茶入れの仕覆という形式へと結実している。こうした考え方や試みは、個々の作品にとどまらず、会場全体に点在し、空間全体で表現されている。この空間そのものが生み出す体験を、ぜひ楽しんでいただければと思う」。
「ダシキモノ」はアフリカの伝統的な衣装「ダジキ」と日本の「着物」、2つの衣装から派生したもの。「ダシキ」は西アフリカに起源を持ち、民族やコミュニティのルーツと結びついた衣装で、1960年代のアメリカではブラック・パワー運動の象徴として広がった。一方、着物は日本のフォークロアであり、染織にまつわる工芸文化を象徴するものだ。
作陶による「Vessel(器)」は、衣服と同様に単なる実用品にとどまらず、歴史、文化、思想、集いの場、そして人間の精神を内包するものとして非常に重要な意味を持つとし、本展では、世代を超えて受け継がれてきた儀礼や工芸、祭祀の歴史を通じて、衣服と器が共同体の文化と歴史を織り直す身体のメタファーだと示す。
また、本展では黒人解放運動の歴史を着物の帯に織り込んだシリーズ作品を展示している。これらの帯には、60年代に暗殺されたマーティン・ルーサー・キング・ジュニア(Martin Luther King Jr.)、マルコムX(Malcolm X)、メドガー・エヴァーズ(Medgar Evers)ら黒人解放運動の指導者たちを追悼し、象徴的なフィストマーク(握りこぶし)と指導者たちの没年が織り込んだ。帯という日本の伝統的な装束の様式を、共同体の記憶と追悼の媒体として捉えた作品だという。
ホワイト・キューブ・バーモンジー開催したゲイツの個展「1965:マルコム・イン・ウィンター 翻訳の試み(1965: Malcolm in Winter: A Translation Exercise)」で初めて公開されたこれらの作品が制作された背景には、ジャーナリストで翻訳家の長田衛とパートナーの石谷春日が執筆・収集したマルコムXに関するアーカイヴの存在がある。2人は1965年2月21日の 暗殺現場に居合わせた体験を契機に、マルコムXに関する翻訳や伝記の刊行を通じてブラック・アメリカの解放運動を日本に紹介してきた。長田の没後も資料の保存と活用に尽力する石谷の姿勢に共鳴したゲイツは、芸術や美学が政治的・思想的・文化的遺産の形成において果たしうる役割について問いを立ててきたという。本展では、永田と石谷による資料の展示スペースも用意した。
「Obi」や「Dashikimono」はこのアーカイヴに新たな生命を吹き込む探究続けてきた一連のシリーズだ。これらの帯の意匠はHOSOOが所有する約二万点に及ぶ帯図案のアーカイヴから引用した。
会場ではゲイツが作陶した「Vessel」を茶入の仕覆のように織物で覆った作品や、ゲイツとHOSOO両者の協働の契機となった森美術館「アフロ民藝」展に出品された「Banner」と「Kimono」の再制作・再展示を紹介する。また、25年に収録された石谷春日による朗読音源や津軽三味線奏者・小山豊によるゴスペルの演奏を日本で初めて公開するなど、領域を横断する多面的な展示構成になっている。
これまでゲイツは、「アーカイヴに新たな生命を吹き込む」という独自の実践を重ねることで歴史との対話を試みてきた。本展では、ゲイツとHOSOOの協働のなかから生まれた帯や着物といった工芸的実践が、アーカイヴの探究における「精神の器」として提示され、衣服、ひいては祭祀や儀礼が社会における実践的なムーヴメントの形成において果たしうる役割を問いかける。
◾️「Theaster Gates: Glorious Robe」
会期:2026年4月11日(土)~8月30日(日)
会場:HOSOO GALLERY
住所:京都市中京区柿本町412 HOSOO FLAGSHIP STORE 2F
開館時間:10:30–18:00(祝日・年末年始を除く、入場は閉館の15分前まで)
入場料:無料
電話:075-221-8888