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カールステン・ニコライが語るHOSOO——音は織物になり、織物は音になる

PROFILE: カールステン・ニコライ/現代アーティスト、音響作家

カールステン・ニコライ/現代アーティスト、音響作家
PROFILE: 1965年旧東ドイツ、カールマルクスシュタット生まれ。2015年からドレスデン芸術大学タイムベースドメディア科教授。ベルリンを拠点とするアーティスト/音楽家で、視覚芸術、科学、音を横断した活動を行う。数学的なシステム、エラー、自己組織化などの概念を参照し、芸術ジャンルの境界を拡張し続けている。主な展示に「ドクメンタX」(1997年)、「ヴェネツィア・ビエンナーレ」(2001年、2003年)。大規模個展をフランクフルトシルン美術館、ベルリン新国立ギャラリー、ハウス・デア・クンスト・ミュンヘンなどで開催。アルヴァ・ノトの名義では、 電子音楽の第一人者として国際的に活躍し、坂本龍一をはじめとするアーティストとのコラボレーションを多数行う。坂本との共作である映画『レヴェナント:蘇えりし者』の音楽は、ゴールデングローブ賞にノミネートされた

1688年創業の西陣織HOSOOは多様なアーティストとのコラボレーションでも知られる。ドイツの現代アーティストで音響作家のカールステン・ニコライ(Carsten Nicolai/Alva Noto)もそのひとりだ。4月21~26日に開催されたミラノ・デザイン・ウィークでは協働作品「WAVE WEAVE」を発表した。昨年HOSOO GALLERYで展示したテキスタイル、サウンド、映像を横断するインスタレーション作品に、新作のテキスタイル・コレクション「ラスターグラディエント(Raster Gradient)」を加えたもので、音と織物に共通する「波」「反復」「構造」を起点に、可視/不可視、物質/非物質の境界を往還することを試みた。例えば、ソノグラム(電磁波を解析し、時間に沿って周波数とその強度を可視化した図として表すグラフィカルな分析方法)で可視化した音響データを織物に記録した帯などだ。HOSOOの織工房の制作風景の映像作品は、経糸と緯糸が交差する構造をアルゴリズムとして捉え直し、その時間性と反復性を音響と同期させた。HOSOOにとって音と視覚の境界を横断するニコライとの協働は、織物を「構造」として捉え直す機会になっており、染織文化を現代美術およびデジタル技術の視点から更新する試みでもある。

音をテキスタイルへ、テキスタイルから音へと変換する

WWD:「音を布に織り込む」というアイデアはどのように生まれたのですか。

カールステン・ニコライ(以下、ニコライ):一見すると、音とテキスタイルはかなり離れた領域にあるように感じられるかもしれません。しかし、技術を深く見ていくと、いくつかの重要な共通点が浮かび上がってきます。ジャカード織機はコンピューターの原型の一つであると同時に、音楽を記録する仕組み――例えばピアノロールやパンチカード――の原型でもありました。レコードプレーヤーが発明される以前、機械式楽器で音楽を再生するためには、パンチカードやパンチディスクを読み込ませるしかありませんでした。ベルや自動ピアノといった機械式楽器は、そうした仕組みによって音楽を奏でていました。私にとって、このつながりは超自然的な感覚すら伴うものでした。そして、この関係性を改めて掘り起こしたとも言えると思います。おそらく、現代では音楽の聴き方が大きく変わったため、この感覚は少し忘れられているかもしれません。しかし、100~110年程前までは、音を機械的な装置に記録することはごく一般的な方法でした。

私はこうした点をこのプロジェクトの中で強く意識していたのだと思います。そして、音をテキスタイルへと変換すること、さらにはテキスタイルから音へと変換することは、私にとって非常に自然な行為に感じられます。特に電子音楽を制作していると、その感覚はより明確になります。電子音楽のプログラムには視覚的なインターフェースがあり、それは織機のインターフェースと非常によく似ているからです。

WWD:西陣織は経糸と緯糸による構造体ですが、その構造はあなたにとって“コード”や“アルゴリズム”のように感じたと。

ニコライ:私はこのプロジェクトで、映像作品にサウンドトラックを反映させること、そのサウンドトラックを再びテキスタイルへと変換することに強い関心を持っていました。それは単なるフィードバックループを生み出すだけでなく、時間の観点から見ると、ある種のパラドックスのようなものでもあります。というのも、そのサウンドトラック自体が、すでに映像の中で“織り込まれている”からです。ある意味では不可能な試みですが、ちょっとしたトリックによってそれを可能にしました。サウンドトラックの一部をすでに作曲しておいたのです。

ただ、このプロセスを100%理解するのは簡単ではないと思います。ソノグラムが織物として表現され、それが同時に映画のサウンドトラックの“スコア(楽譜)”のような視覚的な表現でもある。そしてそれが映像と並行して進行していく――そうした構造は説明を受けないと気づきにくいかもしれません。

ただ、私はこうした少しフィードバックシステム的なループのアイデアが好きなんです。これは私の制作原理の一つでもあります。私は常に、異なるメディアを自在に切り替えたり、互いに接続したりすることに魅力を感じています。そして今回のケースでは、それがとても自然なものに感じられました。

「私の表現領域全体にとても自然な形で新しい要素が加わった感覚がある」

WWD:HOSOOとの協働のきっかけを教えてください。

ニコライ:HOSOOのキュレーターであり、YCAM(山口情報芸術センター)のディレクターだった阿部一直さんから招かれました。彼とは20年以上にわたり、複数のプロジェクトで関わってきました。おそらく彼は、染織技術と私を結びつけることに関心があったのだと思います。ただ、私がテキスタイルと強い結びつきをあることまでは知らなかったと思います。

この素晴らしいオファーを聞いたとき、とても興味を持ちましたし、実際に工場やそのプロセスを自分の目で見てみたいと強く思いました。私は織物産業がさかんな工業都市(旧東ドイツ・カール=マルクス=シュタット、現ケムニッツ)で育ちました。ですから、織物は私にとって非常に身近なものです。同時に、ヨーロッパよりもはるかに長い歴史を持つ、日本と織物との独自で特別な関係性に強い関心を抱きました。

私はこれまでにパターンメイキング、具体的にはセル・オートマトン(格子状に並んだ多数のセルが、近隣セルの状態に基づき単純なルールに従って時間的に状態を変化させる離散的計算モデル)に基づく作品を制作しています。それは織物と関係するもので、もともと接点や関心があったわけです。もし織機を見たことがあれば、そこからデジタルアートやコンピューターとのつながりを容易に見出せると思います。先ほどもお話したとおり、ジャカード織機は計算機科学の歴史において、コンピューターの原型の一つと見なされているからです

WWD:2014年の出会いから25年の協業作品の展示、さらには26年のミラノ・デザイン・ウイークでの発表と協働を続けています。

ニコライ:今回のミラノ・デザイン・ウイークでの発表自体が一つの挑戦でした。というのも、当初は京都のHOSOO旗艦店のギャラリーでの展示を前提に設計されていたからです。しかし、細部をさらに詰めていく機会として捉え、結果として作品をより洗練させることができました。もちろん、京都で行ったような大規模なインスタレーションを、そのままミラノで再現はできませんでした。そこで私は、ミラノの文脈に適した別のバージョンを制作し、新たな作品を追加しました。

例えば「ラスターグラディエント(ドットの密度や色の変化で表現されるグラデーション)」は、このプロジェクトのために加えた作品の一つです。これは壁掛けのタペストリーとして機能するもので、過去の私の作品の文脈から生まれています。ただし、それを織物に変換したのは今回が初めてでした。さらに、録音素材やスチル、そしてテキスト解説を含むレコードエディションを制作することもできました。これらのテキストは、もともと展示に付随するフライヤーとしてのみ提供されていたものです。つまり、今回初めて体系的なドキュメンテーションが整えられたことになります。これらが今回の挑戦であり、同時にミラノ・デザイン・ウイークで実現できたことの価値でもあります。

私にとっては、この作品を初めてヨーロッパで発表できたことも非常に重要でした。そして、普段私が活動しているアートや音楽の伝統的な文脈の外側に、表現を少しでも広げられたことはとても興味深い経験でした。

WWD:HOSOOのテキスタイルに初めて触れたとき、あなたの中でどのような“現象”が起きましたか?それは視覚的なものだったのか、構造的な認識だったのか、あるいは別の感覚でしょうか?

ニコライ:HOSOOのテキスタイルには非常に特有のつながりを感じましたし、テキスタイル自体はかなり独自性の高いものだと思います。私はまず、その視覚的なコンセプトや、どのようにパターンが生み出されているのか、そしてこのブランドの本質がどこにあるのかを理解しようとしました。私はデザイナーではないので少し異なる立場にいますが、最初にそのテキスタイルに触れたとき、純粋に強い魅力を感じ、完全に惹き込まれました。コンセプトをまとめたり、後にスクリプトを書くために、多くの写真や資料も収集しました。そうした感覚や興奮は、最初の瞬間からずっと存在していて、このようなクラフトマンシップとつながること自体をとても素晴らしいと感じていました。

WWD:細尾さんとの協働を通じて得た新しい視点があれば教えてください。

ニコライ:これまでテキスタイルは私の主要な領域ではありませんでした。あまりにも自然すぎて近すぎる存在だったからこそ、逆にメディアとして強く意識してこなかったのかもしれません。もちろん、関心がなかったわけではありません。

ただ、このコラボレーションによって、私の表現領域全体にとても自然な形で新しい要素が加わった感覚があります。テキスタイルの触覚性、制作工程、さらに12代続く染織に携わる企業の伝統——そうしたものに私は深く敬意を抱いていますし、支えていきたいとも思っています。

また、デザインとアート、音楽を橋渡しするような試みは非常に実りあるテーマだと思います。と同時に、それはHOSOOという会社そのものも映し出しているように感じます。彼ら自身もまた、そうした領域横断的なつながりを持っているからです。過去数十年では、それがそこまで強く可視化されていなかったかもしれませんが、今の若い世代は、アートや音楽、デザイン、サウンド、インスタレーションなど、さまざまな領域をつなぐ「橋」を築くことに本当に関心を持っているように思います。

WWD:あなたの活動とHOSOOのものづくりには、どのような共通点があると感じますか?

ニコライ:私が細尾さんとの協働で本当に興味深いと思っているのは、その時間的な広がりです。始まりから現在に至るまで、ほぼ4年かかっていますし、今もなお進行中です。というのも、ひとつのプロセスが終わった後も、私たちは新しいアイデアを次々と発展させ続けているからです。

その中には、当初のプロジェクトの枠を超えたものもあります。たとえば、私のランドスケープデザイナーとしての背景を生かした庭園のデザイン構想や、レコードレーベルのエディションでの協業などで、これは年末には発表予定です。また、「ラスターグラディエント」のデザインを発展させるアイデアも継続しています。私たちは本当にこの協業を続けていきたいと思っていますし、それはおそらく双方に共通する願いだと思います。

現在は、小さなプロジェクトを一歩ずつ積み重ねている段階ですが、それが今後数年にわたって非常に実りある協働関係へと発展していく可能性を感じています。そうなれば、私は本当にうれしく思います。それほどまでに、この関心は強いものなのです。それは単に日本や日本文化への関心だけではありません。日本庭園への興味、さらにはこのようなものづくりのプロセス——織機そのものにも深い関心があります。それらは今や自分の制作プロセスの中にごく自然に入り込んできている感覚があります。

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