PROFILE: 細尾真孝/HOSOO 12代目社長

HOSOOはなぜ、「生地を織る会社」から「関係を織る会社」へと発想を広げたのか。江戸時代の絹(シルク)や大麻(ヘンプ)に未来への手がかりを見いだし、多様なパートナーと協働しながら最先端技術を掛け合わせ、新たな産業を構想する。その思想とビジョンを細尾真孝12代目社長に聞いた。(この記事は「WWDJAPAN」2026年7月13日号からの抜粋で、無料会員登録で最後まで読めます。会員でない方は下の「0円」のボタンを押してください)
―2011年にビジョン「More than Textile」を掲げ、新しい織物を追求してきたHOSOOが、江戸時代の絹や大麻へたどり着いた経緯は?
細尾真孝社長(以下、細尾):起点は(自然布の蒐集家で美術家の)吉田真一郎さんから見せていただいた江戸時代の着物だ。実際に手に触れたとき、その品質は現代のものを上回るほど圧倒的で、大きな衝撃を受けた。吉田さんはよく「織物は糸が全て」と言うが、当初はその意味を十分には理解できなかった。しかし、「何が違うのか」と探る中で、カイコの品種や糸づくりをはじめ、多くの要素が積み重なっていることが分かった。吉田さんの姿勢に大きな影響を受けた。
―なぜ原料生産まで担うのか。
細尾:素材は織物の源流にある。モノ作りの品質を突き詰めると、素材に行き着く。一流のシェフが食材にこだわるように、技術や創造性だけでなく、素材そのものの質が美しさを左右する。私たちにとって、素材はシルクやヘンプだ。シルクは、カイコのDNAだけでなく、桑の品種や土壌、水、光、さらには桑を育てる人の技術まで、無数の要素が品質に影響する。センシングやAIなどのテクノロジーを活用し、全てを制御することはできなくても、複雑性をできる限り理解し、美しい素材作りにつなげていきたいと考えている。
私たちは、ただ美しい織物を作りたいだけだ。そのために、素材や自然、技術、人、文化の美しい関係性を織らなければいけない。そう考えるとこの世界全体が織物のように感じられるようになった。つまり、人と人、人と文化、過去と未来、伝統と革新、テクノロジーとクラフト、自然と人、文化と産業といったさまざまな関係性を「織る」ことこそが、私たちの役割なのではないかと考えるようになった。その意味で今のHOSOOは「Weaving Relations」と言い表すことができる。シルクやヘンプへの取り組みも、全てその思想の延長にある。
着物もまた「モノ」ではなく、「関係」を生むものだと考えている。着物を着ることで、お茶や食、日本の美意識や暮らしに触れるきっかけが生まれる。着物は日本文化に人を接続できるデバイスであり、パスポートだと捉えている。
“歴史も文化も土地も人も、
全ては1本の「糸」”
―「関係を織る」ときに、歴史や文化は新しい産業を生み出す「資本」になり得るのか。
細尾:私たちは「関係」を広い意味で捉えている。例えば、先人の知恵や営み、土地、そして未来の世代も含めた多層的な関係を含み、それをどういうバランスで織り進めていくかが重要になる。そう考えると、歴史や文化、土地、人などあらゆるものが資産といえる。1200年の歴史を持つ西陣織の本質には美の追求がある。その過程で培われたのは、多様な種類の糸を複雑な構造の中で調和させる技術だった。要素が増えるほど調和は難しくなるが、複雑さが奥行きとなり、見る角度や光によって表情を変える豊かな美しさが生まれる。それと同じように、多様な資産をどう織り上げるのかは私たちの美意識にかかっている。私たちにとって歴史も文化も土地も人も、全ては「糸」。歴史そのものも1枚の大きなタペストリーのようなもので、時間の流れが経糸だとすれば、私たちが生きる現在は緯糸だ。私たちはその緯糸を織りながら、未来の人たちがさらに新しい糸を重ねられる余白をつくっていけるか。この営みこそが私たちの仕事なのだと今改めて実感している。
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