ファッション

「アイム メン」は竹林の陰影を、「アミリ」はハリウッドの夜の幻想を描き出す【2027年春夏パリメンズ ハイライトVol.2】

2027年春夏メンズ・ファッション・ウイークを襲った欧州熱波は、ミラノからパリへ持ち越されただけでなく、フランスの観測史上最高気温を更新するなど、もはや災害レベルに達していました。照りつける日差しを避けるためのショー会場の変更や開始時刻の繰り上げ、会場では冷たいドリンクと扇子を振る舞い、巨大扇風機を設置するなど、各ブランドも暑さ対策に追われていました。

われわれ「WWDJAPAN」の取材班も現地のえげつない暑さにぐったりしながらの取材でしたが、パリメンズはビッグメゾンのデザイナー交代が落ち着き、新体制の本格始動を感じさせる見ごたえあるコレクションが満載でした。現地取材を担当した藪野淳「WWDJAPAN」欧州通信員と本橋涼介ヘッドリポーターによるパリメンズのダイジェストVol.2をお届けします。

その他ブランドのショーリポートは下記のリンクから。
「ドリス ヴァン ノッテン」の成熟の物語はひとときのまどろみへ ジュリアンが描く官能的な夢想
黒から解けていく「ヨウジヤマモト」は、緊縮する世界への静かなる抵抗

「リック・オウエンス」は「アディダス」と再び協業
過酷な環境下で光る美学とパフォーマンス

藪野:「リック・オウエンス(RICK OWENS)」は熱波の影響を受け、12時半から予定していたショーを10時に変更しました。それもそのはず。春夏シーズンの定番会場となっているパレ・ド・トーキョーの中庭は昼間に日光を遮るものがないからです。「これはヤバいかもなぁ」と思いながら会場に着いた時には、すでに用意されていた日除け用の黒い傘はなくなっており、ギリギリまで端の方の日陰に避難。そして、氷水でキンキンに冷やされた缶入りの水が救世主になりました。

熱くなったメタルのベンチに座り、強い陽射しで肌がジリジリ焼かれるように感じる中、ショーはスタート。会場中央の水盤の上に設けられたスロープ状のランウエイをモデルたちがゆっくりと下りてきます。デザイナーのリック・オウエンス本人が米「WWD」に語ったのは、「プレッシャーの中でのパフォーマンス」。傾斜と高さのあるスロープをモデルたちがプラットフォームブーツを履いて歩く姿は、まさにそのメッセージを体現するかのよう。さらに中盤からは空高く噴水が上がり、モデルは水を浴びながら濡れた地面を歩きました。観客にとってはミストが一気に体感温度を下げてくれるありがたい演出でしたが、モデルたちは相当なプレッシャーを感じていたに違いありません。

そんな今季最大のトピックは、「アディダス(ADIDAS)」との新たなコラボレーションです。多くのモデルが着用していたのは、スリーストライプがあしらわれたトラックパンツやランニングショーツ。そこにパワーショルダーのテーラリングやレザージャケット、細身の長袖トップス、シアーニットのタンクトップ、ロングケープなどを合わせることで、ランニングウエアを「リック・オウエンス」のダークモードな世界と融合しました。縦のラインを強調したシルエットが軸となる中で目を引いたのは、作業着の「空調服」のように腰に備えた小さなファンで丸く膨らんだジップアップブルゾンやショーツ。これはランナーの体温上昇を抑える「アディダス」の“クライマクール(CLIMACOOL)”テクノロジーを採用したアイテムで、内側には冷却ベストも備えています。見た目のインパクトもさることながら、猛暑の中で着用したモデルはその恩恵を存分に感じたでしょう。また、今回はコラボでは初となる本格的なパフォーマンスランニングシューズもお披露目。「リック・オウエンス」らしいシャープで彫刻的なフォームでありながら機能性も追求した一足は、ファッションとスポーツの世界の距離をさらに縮める存在になりそうです。

竹の影を礼賛する「アイム メン」
霞の向こうから現れる輪郭

本橋:「アイム メン(IM MEN)」は、パリ5区の大学キャンパス跡地を活用した文化施設セジュール(Césure)で2027年春夏コレクション“竹翳礼賛(In Praise of Bamboo Shadows)”を発表しました。着想源となったのは、デザインチームがパリ装飾芸術美術館で目にした、竹をモチーフとする東洋の工芸美術です。水墨画に描かれた霞がかった竹林の風景と、着物の型染めに用いる型紙が映し出す枝葉の重なり。会場には黒い竹と影が織りなす架空の風景が広がり、霞む景色の向こうを行き交う不鮮明な像が、進むにつれて次第に輪郭を現していきます。

主役は、グラフィックデザイナーの長嶋りかこによる“竹翳”柄のシリーズ“バンブーシャドウズ”。竹繊維とオーガニックコットンで織った布地に「色泣き」の技法で捺染し、竹の陰翳がもつ仄かな輪郭を表しました。ダブルフロントかつドルマンスリーブのコートは、ピークドラペルと繋がったフードを被ると、全身が柄に覆われます。

技法の引き出しは今季も豊富です。紙のような張りのある高密度ナイロンに染料をかけ流した“ブルームナイロン”は、タックの重なりでつくる衿を「竹取物語」のかぐや姫がまとう十二単から起こしたもの。竹細工の「ござ目編み」をジャカード織りで再現し、一枚の布に最小限の切り込みを入れて形づくる“バスケットジャカード”や、職人が一点ずつ手作業で抜染し、構造線に地色を残して水墨画のような濃淡を生む“バンブーブリーチ”。それから谷折りを繰り返して竹の連なりを表す“バンブープリーツ”に、節のリズムを写した“ノードプリーツ”。ポケットを取り外して生まれた“空白”の奥に、身体や別の衣服が覗く“ボイドコットン”も登場しました。

足元には、MDS(三宅デザイン事務所)とアシックスの共同開発による“イッセイ ミヤケ フット”の第二弾“ソルティ ヴェールド”が登場。1980年代のマラソンシューズ“ソルティ”を基調に、補強材や構造要素を一枚の生地の内部へ封入しています。

「毛皮の朝食」に倣う「ヨーク」
見た目と手触りのズレが新鮮

本橋:「ヨーク(YOKE)」の2027年春夏のテーマは“Dépaysement(デペイズマン)”です。シュルレアリスムを代表する芸術家メレット・オッペンハイムが探求した表現手法で、ものや人を本来あるべき場所や日常の環境から切り離し、まったく別の意外な文脈に置くことで、見る人に強い違和感や驚きを与えるというもの。会場では、毛皮をプリントした扇子がフェイクファーのケースに入れて配られ、さっそく意表を突かれました。涼を得るための道具である扇子がフカフカした質感なのは、まさしくデペイズマンです。

コレクションの起点となったのは、オッペンハイムの代表作「毛皮の朝食」。ティーカップとソーサー、スプーンを毛皮で覆い、冷たい磁器や金属の日用品を温かく動物的な質感で包むことで「飲む」機能を奪い、まったく別の存在へと生まれ変わらせた作品です。そこから着想を得た寺田典夫デザイナーは、本来は秋冬を象徴する毛皮や毛足の長いファブリック、レザー、ウールを、あえて春夏へ置き換えました。超絶酷暑のパリではちょっと暑苦しくも感じられましたが、哲学科出身の僕には個人的に刺さったコレクションでした。

見どころは素材の妙。冷たく無機質なナイロンをベースに、温かみのあるウールアクリル糸でヘリンボーン柄を全面刺繍したテキスタイル。一見デニムにしか見えないレザーは、日本の職人によるエンボス加工と中白染めで、本物のデニムにはない表情を得ました。軽やかで清涼感のあるキュプラにフロッキープリントを重ね、コーデュロイのような重厚感と美しいドレープを両立させたハイブリッド素材も。ニットは、紙のようなシート状に加工したキュプラを細く裁断して糸にし、キッドモヘアを撚り合わせることで、和紙のような清涼感とモヘアの温かみを共存させました。見えている質感と、実際に触れたときの質感のズレ。その違和感こそが今季の核です。前回、1月にパリで初披露となった2026-27年秋冬コレクションは、会場が暗すぎてよく見えなかったのが惜しかったのですが(笑)、今回は細部まで目を凝らすことができました。

昨シーズン始動したウィメンズラインは、メンズとグラデーションのように緩やかに接続。「男らしさ」「女らしさ」という固定観念を拒み、「精神に性別はない」と告げたオッペンハイムの美学に呼応した構成です。「ポジタム(Pøsitum)」と協業制作した、マルセル・ブロイヤーによる名作“ワシリーチェア”をモチーフにしたバッグは、個人的にもグッと来ました。ワシリーチェアは高すぎて買えないので、まずはバッグから挑戦しようかな!?

「ジバンシィ」は初のメンズプレゼン開催
ウィメンズに通じるモダン・エレガンスを表現

藪野:「ジバンシィ(GIVENCHY)」は、サラ・バートン(Sarah Burton)=クリエイティブ・ディレクターの就任後初となるメンズのプレゼンテーションを開催しました。会場となったのは、ウィメンズのデビューショーも行ったジョルジュ・サンク通りにあるメゾン所有の邸宅。今回は「私的な空間。家の中の家」をテーマに3つの部屋で構成した親密な空間にマネキンを配し、英国人アーティストのレイチェル・ホワイトリード(Rachel Whiteread)の彫刻作品とともに、新しい男性像を示すコレクションを披露しました。

ようやく全貌が明らかになったメンズから感じたのは、ウィメンズに通じるモダン・エレガンス。大胆にアレンジしたラペルや力強いショルダーが特徴のテーラードジャケット、カーブシルエットを描くパンツ、クチュールのような花モチーフの刺しゅうを施したコートにボンバージャケット、レザーのスカーフ、大ぶりなジュエリーモチーフのカフスなど、これまでにウィメンズで用いてきたデザインやクラフツマンシップをメンズに応用しました。一方、レザーのラグビーシャツやトラックスーツ、ワークウエアといったメンズならではの日常着もラインアップ。フォーマルからカジュアルまでをそろえる現代男性のためのワードローブを提案しました。

サラはメンズとウィメンズのデザインチームを隣り合わせに配置し、両者が常に対話しながらアイデアを共有する体制を築いているそうで、ジェンダーの垣根を超えてアイデアを共有し一つの世界観を確立しています。そして、プレゼンテーションに先駆けて公開した写真家のドン・マッカリン(Don McCullin)や画家のダニー・フォックス(Danny Fox)らを起用したキャンペーンからも分かるように、彼女が思い描くのは「一人の男性」ではなく「多面的で多世代の男性像」。異なる世代や個性を思わせる人物像を提示することで、一つの理想像を提示するのではなく、それぞれの人生や価値観に寄り添うワードローブを提案するという姿勢は、ウィメンズで一貫して掲げているメッセージとも重なります。

庭園の花で彩られる「ベルルッティ」
「星の王子さま」の世界とも共鳴

藪野:「ベルルッティ(BERLUTI)」は、今季も19世紀に建てられた邸宅を舞台にメゾンの独自性を伝えるプレゼンテーションを開催しました。テーマとなったのは、「庭園」。花の刺しゅうを施したアイコンの“フォレスティエール”ジャケットをはじめ、手描きのイラストのような花を刺しゅうで表現したスエードジャケットやスキッパーシャツ、メゾンを象徴する染色技法“パティーヌ”を生かして印象派の絵画を思わせる柄を描いたバッグ、花びらをイメージした有機的な曲線をアッパーに取り入れた“ブルーム”ローファーなどが登場しました。

それに加えて、今回はアントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ(Antoine de Saint-Exupéry)の名作「星の王子さま」との対話により生まれた10月発売予定の限定コレクションも発表。会場には作者の書斎を再現したセットを設け、彼の創作プロセスを職人たちが追体験することによって制作されたというアイテムを展示しました。その根底にあるのは、自然に対する注意深い観察や生命の尊重、そして物事に意味を与える細部へのこだわりという作品世界とメゾンの価値観の共鳴。単に有名なシーンやキャラクターを用いるというアプローチではなく、作品をよく知っている人でなければ分からないようなシーンやモチーフを選び、アントワーヌのスケッチを卓越したサヴォアフェールによってレザーの上で表現しているのが、なんとも「ベルルッティ」らしいと感じました。

「アミリ」は夜のハリウッドへ
ギラつきを脱ぎ、月明かりのエレガンスへ

本橋:ヒップホップやブラックカルチャーの人々からの支持も厚い「アミリ(AMIRI)」は、会場の熱気とギラつきに、いつもショー会場では少し気圧されてしまうブランド。そんなムードにいつも自然に馴染んでいるのが、グローバルブランドアンバサダーを務めるNumber_iの神宮寺勇太さん。さすがです。

今季のテーマは“アメリカンプレジャーズ”。デザイナーのマイク・アミリが描いたのは、欲望と官能、快楽の追求に満ちたロサンゼルスの夜です。夕暮れのマリブから真夜中のビバリーヒルズまで、日没後の旅へと誘う構成。映画「アメリカン・ジゴロ」(1980年)を着想源に、ブランドの故郷を異なる時代のレンズで再解釈しました。会場のカロー・デュ・タンプルには、ヤシの木と山並みを描いた巨大なパノラマ幕が立ち、昼間のパリに夜のハリウッドの幻想を持ち込みました。

「私はいつも気楽さという概念に魅了されています。その気楽さを男性にも女性にも常にグラマーと融合させたい」とマイク。夜を彷徨う刺激的なキャラクターを描きながら、誘惑と洗練の間にある緊張感を柔らかなテーラリングで表現します。肩のラインはなだらかに落ち、絶えず動き続ける身体を流れるように包み込みます。

デニムにテーラードジャケットを合わせ、千鳥格子やヘリンボーンに刺しゅうを重ねる。月光の煌めきに着想したラミネーション加工が光を放ち、シルクやリネンにルレックス糸が織り込まれます。ツイードやグレンチェック、メタリックピンストライプには繊細な虹彩効果。色は月明かりに彩られ、ヴェノムグリーンやバーントサンセット、ラベンダーにシルバーとゴールドが差し込まれます。

新作バッグ“アミリ ビスコット”は、フォーチュンクッキーのように折り畳まれたフォルムが名の由来です。ロサンゼルス発の「スピネリキルコリン(SPINELLI KILCOLLIN)」との協業で、初のファインジュエリーにも踏み出しました。

色彩のギラギラ感はいつもより抑えられ、エレガントなムードに寄った「アミリ」。従来より商品全体のプライスラインもやや下がりつつあり、日本の消費者ともより目線が合ってきているのではないでしょうか。

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