ファッション

「アクネ ストゥディオズ」はオフィスを遊び場に変え、「アミ パリス」は日常の幸せを描く【2027年春夏パリメンズ ハイライトVol.1】

2027年春夏メンズ・ファッション・ウイークを襲った欧州熱波は、ミラノからパリへ持ち越されただけでなく、フランスの観測史上最高気温を更新するなど、もはや災害レベルに達していました。照りつける日差しを避けるためのショー会場の変更や開始時刻の繰り上げ、会場では冷たいドリンクと扇子を振る舞い、巨大扇風機を設置するなど、各ブランドも暑さ対策に追われていました。

われわれ「WWDJAPAN」の取材班も現地のえげつない暑さにぐったりしながらの取材でしたが、パリメンズはビッグメゾンのデザイナー交代が落ち着き、新体制の本格始動を感じさせる見ごたえあるコレクションが満載でした。現地取材を担当した藪野淳「WWDJAPAN」欧州通信員と本橋涼介ヘッドリポーターによるパリメンズのダイジェストVol.1をお届けします。

その他ブランドのショーリポートは下記のリンクから。

霧に包まれる「サンローラン」で灼熱のパリメンズ開幕 ヴァカレロが示す「抑制」という名の魅惑
「オーラリー」はバカンスの高揚感を日常へ 「旅先で見つけた“新しい自分”を連れ帰って」
「ルイ・ヴィトン」 メンズにビッグウェーブ到来 サーフスタイルと融合するファレルのモダン・ダンディー
「ルメール」の日常着を更新し続ける、ありふれたものへの「好奇心」
「ディオール」が更新するエレガンス ジョナサンは伝統に縛られない男性像をリミックスで表現

「キディル」は服の深さと向き合う
300本の安全ピンと、ひび割れ剥がれる塗装

本橋:「キディル(KIDILL)」が2027年春夏に掲げたテーマは“カオティック・ディスコード(CHAOTIC DISCORD)”。パンクがインスピレーション源の同ブランドですが、今季は全面プリントのグラフィックやコラボレーションといった、パンクを直接的に想起させるような記号からはいったん離れ、末安弘明デザイナーがパターンメイキングと生地加工といった服そのものの実験に集中したシーズンです。「振り返れば、キディルを12年以上やってきました。照れずに言うなら、ようやく服そのものの深さと向き合う準備ができた」と本人は語ります。

ジャケットもトラウザーズもシャツも、内側に複数の隠しダーツを仕込むことで、ねじれながら動く歪んだフォルムに組み替えられます。目を引いたのは、デニムのセットアップとスエットに施したクラックペイント。裁ち落としたパーツを約300本の安全ピンで接ぎ合わせ、その上からひび割れる塗料を何層も重ねる。着込むうちに塗装が少しずつ剥がれ落ち、下に隠れていたバッジやディテールが現れる仕掛けです。一時的な演出ではなく、服の中に時間そのものを埋め込む試みだといいます。

タータンチェックは意図的に拡大して分解し、パッチワークとして再構築したうえで折りたたみ、さらにシルエットを揺らします。シャツやTシャツ、デニムに用いたのは、紙にプリントしたフライヤーのようなグラフィックをシリコンでコーティングし、生地へ直接貼り込む技法。表面が自然に剥がれると、下から別のシルクスクリーンの図像が現れます。

唯一のコラボレーションは「ジューシー クチュール(JUICY COUTURE)」と。スパンコール、ラインストーン、翼のシンボルといった2000年代のセレブリティー・ファッションの視覚的要素を詰め込み、巨大なテディベアーを抱えたルックが象徴的でした。締めくくりは、光沢のある大ぶりのスパイクを全面に生やしたブルゾンとスカート。「いまも服の中に、謎と秘密を埋め込みたい」という末安デザイナーの言葉が、そのまま形になっていました。

「メリル ロッゲ」は顧客から着想
新EC開設でD2Cを強化

藪野:「マルニ(MARNI)」のクリエイティブ・ディレクターも務めるメリル・ロッゲ(Meryll Rogge)。自身の名を冠したブランドでは今季、「らしさ」を見つめ直しながら制作した新作をベルギー大使公邸でのプレゼンテーションで発表しました。着想源となったのは、理想のミューズではなく、実際に「メリル ロッゲ(MERYLL ROGGE)」を愛用している顧客たち。過去数シーズンで支持を集めたアイテムを起点にコレクションを組み立てたという彼女は「ブランドらしい連続性を感じてもらえるシーズンになったと思う」と振り返ります。そんなコレクションでは、襟付きのジップアップブルゾンや襟と袖口が二重になったシャツ、レトロな花柄のドレスやスカート、シャツの袖をドッキングしたTシャツ、フィット感のあるリブニット、ドローストリング付きのチノパンツ、スポーティーなブルマなどを提案。前シーズンの反骨的なムードから一転、より柔らかでロマンチックな空気感を打ち出しました。

そして新たなECも開設し、プレゼンテーションに合わせて“SEE NOW, BUY NOW(見て、すぐ買える)”形式で新作を発売しました。その変化の背景には、昨年の「ANDAM賞」受賞後から戦略として取り組んでいるD2C(消費者への直販)の強化があり、これまで外部に委託していた卸売業務も内製化したといいます。最近ヨーロッパのインディペンデントデザイナーからよく聞くのは、アジアでは卸売主体のビジネスモデルがまだ成り立っている一方、ヨーロッパではなかなか難しいということ。メリルも、日本のセレクトショップをはじめ信頼関係を築いてきた取引先とのビジネスは続けていくけれど、D2Cに軸足を移すそう。その点でも、実際に顧客のニーズや売れ筋を分析し、それを次の提案に生かしていくというアプローチは理にかなっているように感じます。

彼女は現在、「マルニ」と「メリル ロッゲ」、そしてニットウエアの「B.B.ウォレス(B.B. WALLECE)」という3つのブランドを手掛けていますが、「クリエイティブの根底にある考え方は変わらないけれど、規模もアプローチも全く異なる。それぞれのブランドでやるべきことは自然と切り替えられる」そう。自身のブランドは「クリエイティブな実験を行うラボ」と位置付けており、小さなチームだからこそできることに自由に取り組んでいくといいます。業界や市場の現状は、特にインディペンデントデザイナーにとって楽観視できるものではありませんが、ブランドの未来を見据えて挑戦を続ける彼女をこれからも応援したくなりました。

20周年の「ビューティフルピープル」
皮肉を含んだ自らの名を問い直す

本橋:ブランド設立20周年を迎えた「ビューティフルピープル(BEAUTIFUL PEOPLE)」が掲げたテーマは、“Tuned to a Natural E”。ザ・ビートルズの楽曲『Baby, You’re a Rich Man』に登場するフレーズで、同曲の歌詞にはブランド名と同じ“beautiful people”という言葉も使われています。

その言葉が含んでいるのは、当時のカウンターカルチャーへの賛美だけではありません。そこには、華やかな理想に対する皮肉な視線も重ねられています。今回のコレクションは、そうした言葉の両義性を受け止めながら、20周年という節目に自らのブランド名を問い直す試みでもありました。

熊切秀典デザイナーが目を向けたのは、「自然」「健康」「倫理」「自由」といった価値観までもが、記号として消費される現代です。そのなかで他者の価値基準に合わせるのではなく、服を通して自分たちなりの“基準音”を探ろうとしました。

テーマにある“Natural E”は、ギターが自然に響くよう整えられた音を指します。ここでいう「調律」とは、何かを外から付け加えることではなく、素材や服がもともと備えている性質を見極め、その魅力が最も響く状態へと導くことです。

着想源となったのは、都市で生きる人々が日常のなかで選び取る、「重ねる」「包む」「結ぶ」「繕う」「持ち運ぶ」といった実用的な服の知恵でした。熊切デザイナーはそれらを、ブランド独自の素材使いやパターン、レイヤリングによって再構築しています。

ショーでは、ナイロンブルゾン、テーラードジャケット、シャツを三層に重ね、裾から内側の生地を覗かせる緻密なレイヤードを披露しました。素肌の上にブルーレザーのフード付きハーネスだけを着用したルックは、「包む」という行為を最小限の構造で表現したものです。

また、印象派の絵画を思わせるフローラルプリントを、フィールドジャケットの前立てと襟にだけ配したデザインも印象的でした。別布を接いで修復するようなディテールによって、「繕う」という行為を装飾へと昇華させています。

カラーパレットは黒とネイビーを中心に、蛍光イエローを鮮烈なアクセントとして投入。一見すると即興的で、着古した服のようにも映るアイテムが、実際には上質な素材と精密なパターンによって組み立てられています。自然に生まれたように見えることと、高度に設計されていること。相反する要素のどちらかを選ぶのではなく、矛盾を抱えたまま一着の服として成立させるその姿勢に、「ビューティフルピープル」らしさを感じられました。

リボンを随所に取り入れた「ケンゾー」は
いつもよりロマンチックに

藪野:Nigoさんが手掛ける「ケンゾー(KENZO)」は、髙田賢三さんが1976年に旗艦店を構えたヴィクトワール広場にある会場で、メンズ&ウィメンズのプレゼンテーションを開きました。コレクションは、かつて賢三さんが収集していたというリボンや彼が好んだプレッピー、ミュージシャンのマイルス・デイヴィス(Miles Davis)をはじめとする1970年代のアイコンを着想源に、ブランドのルーツやヘリテージを掘り下げました。

そんな今季はワークウエアやスポーツウエア、テーラリング、デニムといったモダンなワードローブをベースにしつつ、カレッジストライプのグログランリボンや可憐な花刺しゅうのチロリアンテープなどに見られる要素を融合。カスタムリボンをはぎ合わせたコートやドレスから、リボントリムをあしらったアウターやジーンズ、リボンのストライプや花をモチーフとして取り入れたアイテムまでがそろいます。ウィメンズではオーガンジーのシアードレスやスカート、ティアードのマキシスカートも登場し、これまでよりもロマンチックなムードが印象的でした。そして「ケンゾー」と言えば西洋と東洋の融合ですが、今回は盆栽をカモフラ柄の中にミックス。和の要素をキャッチーにデザインに取り入れました。

またパリメンズの期間に合わせて、「ケンゾー」は会場と同じ広場にカフェやコンビニなどを期間限定オープン。カフェに抹茶かき氷があると聞いて、「絶対に食べたい!」と意気込んでいたのですが、スケジュールが詰まっていたので断念。強い日差しが容赦なく照りつける中、次の会場へ急ぎました。

オフィスを遊び場に「アクネ ストゥディオズ」
ネクタイもポケットも、だまし絵で描いて

本橋:「アクネ ストゥディオズ(ACNE STUDIOS)」が2027年春夏の舞台に選んだのは、オフィスでした。「最近では、日常の社会実験のような場でもあるオフィスにおける個々の自己表現に魅了されています。私にとってオフィスは堅苦しい場所ではなく、ワードローブのコードを覆しながら想像力を働かせるための遊び場です」とデザイナーのジョニー・ヨハンソン。ルックの撮影も、黄緑のカーペットに白黒ストライプのソファという、少し現実離れした執務室を模したセットで行われたようです。

堅苦しいイメージを連想するオフィスも、さまざまな役割を担う人々が集う場所と捉えれば、それぞれの「制服」がひとつの完成されたリミックスのように融合する。なんとも「アクネ」らしい発想、遊び心です。その遊び心を宿したのはトロンプルイユ。オフィスの落書きのようにTシャツへ描かれたネクタイ、ツイルショーツの裾からのぞくポケット裏地。だまし絵が、仕事場での厳格な装いのルールを茶化します。

年齢や立場を示す従来のオフィスでの装いのルールは、「アクネ」の世界ではもはや意味を持ちません。多面的なスタイルは、オフィスという枠を超え再定義されています。アーガイル柄の大胆な組み合わせやスーツの分解でクラシックを再解釈し、スタッズ付きデニムや1950年代を思わせるムードがロックンロールのエッセンスを添える一方、コーポレートベストやサテンのブルゾンも新たな文脈で提案していました。

デニムはブランド定番である“1996”と“1979”に加え、鮮やかなカラーのスリムシルエットや、1980年代半ばのスラックスを思わせるプリーツ入りのハイブリッドデザインも登場。レザージャケットはスーツの代わりとして機能し、マイクロジャージーは二重、三重にレイヤードされます。色はモノクロームのホワイトから、ジェラートのようなピンクやピスタチオまで。足元はソックスと合わせた装飾的なサンダル、カラーブロックのブローグ、キューバンヒールのアンクルブーツ、クロコ型押しのカウボーイブーツと幅広くそろっていました。

日常の幸せを描く「アミ パリス」
次に来そう!なアクセサリーも発見

藪野:「アミ パリス(AMI PARIS)」がショー会場に選んだのは、旧カルティエ現代美術財団でした。20時からショーとはいえ、まだまだ明るく暑いパリ。熱気に満ちたガラス張りの建物の中、用意されていた冷たいドリンクや扇子、そしてちょうどいい場所に置かれていた巨大扇風機の風に救われました。

「私がどう生きたいかを映し出したもの」とアレクサンドル・マテュッシ(Alexandre Mattiussi)が語る今季のコレクションで描いたのは、日常の幸せ。「服は人を縛るものではなく、自由や心地よさ、自信をもたらす存在であるべき」という考えのもと、朝起きて服を選ぶ喜び、街を歩く楽しさ、友人と会うひとときといった何気ない日々の中にある“幸福感”をワードローブに落とし込みました。スタイルは、よりシンプルな構造で柔らかな着心地に再解釈したテーラードジャケットや共地のネクタイを締めたシャツに、ナイロンのランニングショーツやウィンドブレーカー、バスケットショーツ、ラガーシャツ、スラックスとハイブリッドしたトラックパンツなどを組み合わせたテーラリングとスポーツウエアのミックスが中心。クロップド丈のニットやポロシャツのレイヤード、ハートとAを掛け合わせたロゴマークを取り入れた「I LOVE PARIS」Tシャツなども加え、若いパリジャンたちの感性を映し出すような自由で肩肘張らないリアルな着こなしを打ち出しました。

そして、近年はバッグやシューズの提案も充実しています。バッグはトレンドど真ん中の柔らかな素材使いでくたっとシェイプで仕上げたさまざまなデザインをジェンダーレスに提案。足元もクラシックなスケートボードシューズのようなロープロスニーカーやアスレチックなランニングシューズから、タッセル付きのスリッポン、レースアップシューズ、加えてウィメンズ向けのヌーディーなサンダルまでがそろいました。スタイリングで気になったのは、パリを象徴するモチーフがいくつもついたネックレス。初日にも「オーラリー(AURALEE)」にはフルーツモチーフのビーズネックレスやアンクレット、「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」が巻貝やサンゴなど海のモチーフのブレスレットが登場しましたが、次の春夏は遊び心あるモチーフアクセサリーがメンズでも広がるかもしれません。

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