ジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)による「ディオール(DIOR)」の2027年春夏メンズ・コレクションは、現代の若者たちが持つ自由なミックス感覚と伝統あるメゾンを結び付けた。歴史や格式を否定するのではなく、軽やかに着崩して自分らしく取り入れる。そんな完成された美をあえて崩すというアプローチを通して、エレガンスを表現した。
会場となったのは、現在修復工事中のニシム・ド・カモンド美術館。ファーストルックのモデルがスマートフォンをスピーカーのコードにつなぐところから始まったショーは、英国人音楽プロデューサー兼DJのフレッド ・アゲイン(Fred again..)によるオリジナルのリミックスが流れる中、モデルが邸宅のような館内と緑に囲まれた中庭を歩く。ジョナサンが今季イメージしたのは、「ソワレ(夜会)が終わった後のハウスパーティー」だ。格式高い空間からそのまま夜明けまで続くカジュアルなパーティーへ。そんな情景を思い描きながら、音楽のサンプリングやリミックスのように既存のものを引用し新たな意味を与えるという考え方を服作りに取り入れた。結果生まれたのは、クチュール的な美学やフォーマルウエアとしてのテーラリング、そして現代的なストリートカルチャーが混じり合うワードローブだ。
ファーストルックは、ピンストライプ柄をプリントしたシアーなシルクシフォンで仕立てたスーツ。これは、ジョナサン自身が購入したマルク・ボアン(Marc Bohan)によるビンテージジャケットのシルエットからインスピレーションを得たものだという。柔らかくルーズなフィットと中に合わせたドレスシャツのくだけた着こなしでリラックス感を漂わせる。その後もカギとなるのは、フォーマルウエアの要素とカジュアルウエアの要素の交差。1年前のデビューシーズンに見せた若い貴族や良家の子息のようなムードを引き継ぎながら、よりラフな印象に仕上げている。例えば、ワークウエア風のジップアップブルゾンにショールカラーを取り入れたり、毛羽立ったようなテクスチャーのフロックコートには洗いをかけたローズピンクのデニムショーツを合わせたり。ダメージデニムで仕立てたタキシードジャケットには、1979年のオートクチュールから着想したスカーフをビーズ刺しゅうのトロンプルイユ(だまし絵)で描いたシルクシャツとスリムなテーラードパンツをミックスすることで、今季らしいバランスを体現する。そこにメタリックなパイソン柄や総スパンコールのパンツ、招待状と共に届けられた黒のミラーボールを模したショートブーツで、半年前の2026−27年秋冬に通じるグラマラスな感覚を加えた。
また、裾がほどけるようにフリンジ状になったツイードの“バー“ジャケットや裂けたデニムの横糸部分にチェーンがきらめくジーンズ、コートなどに用いたチェック柄のシフォンなどは、5月にロサンゼルスで披露した2027年クルーズ・コレクションのウィメンズウエアに通じるデザイン。10年以上前から「シェアド・ワードローブ(共有のワードローブ)」という概念を提示し、一つのアイデアを使い捨てずに発展させることを好むジョナサンは、自身のブランドや前職の「ロエベ(LOEWE)」に続き、「ディオール」でもメンズとウィメンズで共通するデザインや素材、ディテールのアイデアを生かしている。
そんな新生「ディオール」のメンズもメインとしては3シーズン目を迎え、メゾンの新たな男性像やコードがより明確になりつつある。ジョナサンが挙げたのは、「フォーマルさ、イートン(英国の名門全寮制男子校)、パーティー、社交、ドレスアップ」というキーワード。そして、“シンボル“的なルックという考え方は好きではないと明かす彼は「単なるマーチャンダイジングではなく、大事なのは異なる年齢層にアピールできるようにいかにキャラクターを作り上げるかということ。美しいスエードのコートをゴールドのパイソンパンツやショーツと合わせることもできるけれど、同時にそれぞれのアイテムとして考えれば、私の父のための服にもなるし、夏に自分が着るものにもなるだろう。自分のスタイルを定義するには、時間がかかる。けれど、ゆっくり少しずつピースがはまり始めていて、それを楽しんでいる。ファッションは楽しいものであるべきだと思う」と説明した。由緒あるクチュールメゾンを背負いながらも、その伝統や格式を守るだけではなく異なる要素を織り交ぜることで「ディオール」のエレガンスを着実に更新している。