セイコーウオッチは7月10日、「セイコー プレザージュ(SEIKO PRESAGE)」のクラシックシリーズから、群馬県富岡市の富岡シルク「ぐんま細(ほそ)」の美しさに着想を得た新作を限定販売する。発売に先立ち、富岡製糸場・国宝「西置繭所」多目的ホールで寄附受納式を開催し、地域の技と文化を国内外に伝えるとともに、次世代へつなぐ継続的な支援を表明した。
富岡シルクの歴史と価値、
地場産業を次代へつなぐために
今回のプロジェクトの核となるのは、2021年に設立された「富岡シルク推進機構」とのパートナーシップだ。同機構は、富岡産の繭を100%使用し、生産から製品になるまでの全工程を国内で行う “ 純国産 ” シルクの普及を通じて、地域の養蚕技術とシルク文化の継承を目的としている。
セイコーは、1872年(明治5年)に官営工場として創建された富岡製糸場と、81年(明治14年)に創業した自社の歴史的な親和性、そして「日本の美意識を次代へつなぐ」という志の共鳴から新作モデルの企画に至った。

「プレザージュ」はこれまでも、有田焼や漆、七宝など、日本各地の伝統工芸と協業してきたが、本作では売上の一部を同機構へ寄付し、地域の産業や日本が世界に誇る文化の継承を直接的に支援する。日本ならではの技術や産業の源流を守り、育む仕組みを構築することは、固有のストーリーやナラティブ、ブランドの姿勢が価値となるラグジュアリーウオッチ市場において、大切な取り組みと言えるだろう。
“ 純国産 ”はわずか0.1%以下
希少な美を表現した限定モデルと伝統色で展開
国内500本限定の「富岡シルク推進機構 限定モデル(HCC010J)」最大の魅力は、吸い込まれそうな富岡シルクの光沢を表現した、金属製ダイヤルの表情だ。まるで発光しているかのような質感は、世界でわずか数戸の農家でしか生産されていない、群馬県オリジナルの最高級蚕品種「ぐんま細」シルクだけが持つ美しさを、同機構とセイコーの開発担当者が打ち合わせを重ねて追求した。
非常に細い繭糸を丁寧に撚り合わせて生まれる「ぐんま細」は、透明感のある白色で染色性に優れ、最高級の名にふさわしい艶やかさが魅力だ。特有のなめらかなドレープを表現すべく、新たな金属加工の技術を開発。精緻で有機的な型打ち模様とパール調塗装で仕上げたダイヤルは、腕元に洗練された印象をもたらす。
限定モデルのケースは柔らかな印象のピンクゴールドカラーを採用し、ストラップには富岡製糸場の象徴的なレンガ造りの外観をイメージしたダークブラウンのレザーを組み合わせた。裏ぶたには同機構のロゴマークとシリアルナンバーを刻印し、このモデルのために仕立てられた「ぐんま細」のポケットチーフも付属する。
国内で流通する絹製品全体のうち“ 純国産 ” シルクの割合はわずか0.1%以下。 “量より質” を追求した「プレサージュ」のブランドイメージや哲学とも重なり、本シリーズが富岡シルクの価値を国内外に広く伝えるきっかけになり得そうだ。

同時発売するレギュラーモデルでは、シルクそのものの色彩や、着物に用いられる伝統色をセイコー独自の解釈で表現。絹糸を精練した純白の「白練(しろねり)」、みずみずしい緑の「若竹色」、そして淡いピンクの「桜色」の3種を展開する。
いずれのモデルも、現行ラインナップで初めて38mm径のケースを採用。従来の40mm径よりも一回り小ぶりで、性別を問わず品よく着用できそうだ。そしてムーブメントは、約72時間のパワーリザーブを誇る自動巻き「キャリバー6R51」を搭載。金曜日に外しても月曜朝にそのまま使える実用性もしっかり確保している。
なお「富岡シルク推進機構 限定モデル(HCC010J)」は14万8500円、レギュラーモデルが12万9800円〜13万2000円(税込)。全国のセイコーグローバルブランドコアショップで発売する。
寄附受納式の後、「WWDJAPAN」は内藤昭男セイコーウオッチ社長に話を聞いた。
「WWD」:テキスタイルをダイヤルのデザインモチーフにしたことはこれまでにもあったのか。最高級のシルクが持つ独特の光沢や質感を金属加工の技術で表現するのは、非常に難しかったのでは?
内藤昭男セイコーウオッチ社長(以下、内藤):テキスタイルをモチーフにしたダイヤルのモデルは、2022年に「プレサージュ」シリーズで発表してはいたが、今回はそれとは全く異なる金属加工技術を新たに開発し、非常に力を入れて制作した。おかげさまで富岡シルク推進機構の皆さんにも喜んでいただけるものができた。
「WWD」:工業製品として最適化しながら、手作業や工芸ならではの表現も取り入れて作り上げている。そのバランスやどちらの手法で表現するのかを見極めるポイントは?
内藤:我々は時計の会社だ。正確性や視認性、堅牢性といった時間を測る “ 道具 ” としてのベースは絶対に妥協せずに、その上でさらなる美しさを追求していっている。
「WWD」:今回、売上の一部を寄付する背景は。
内藤:セイコーグループ全体でサステナビリティ戦略を推進しており、地域振興や社会貢献の側面はもちろんある。それ以上に、日本固有の素晴らしい産業を、私どもの製品を通じて国内外に発信し、次代へ継承していくことに寄与したい。「プレサージュ」では、有田焼ダイヤルを手がける方とは10年以上、ホーローダイヤルは20年以上ご一緒してきて、それぞれ手掛けた方のお名前を記した特別なタグをつけているが、彼らの後継者の育成も継続的にサポートさせていただいている。
「WWD」:海外市場においても「プレザージュ」は、 “Japanese elegance” を象徴する機械式ドレスウォッチとして高い人気と評価を受けている。市場が成熟する中、ブランドを今後どのように進化させていくのか。
内藤:我々のブランドのポートフォリオで申し上げれば、「グランドセイコー(GRAND SEIKO)」「クレドール(CREDOR)」に次ぐプレミアムセグメントに位置付けているのが「プレサージュ」だ。ブランドとしてどうあるべきかを軸に、企画担当と設計者、デザイナーが丁寧にコミュニケーションを重ねて作りこんでいくモデルを、魅力的なストーリーと幅広い価格帯で展開し、ブランドの個性を極めていきたい。