
1993年から上海在住のライターでメイクアップアーティストでもあるヒキタミワさんの連載「水玉上海」は、ファッションやビューティの最新トレンドや人気のグルメ&ライフスタイル情報をベテランの業界人目線でお届けします。今回は中国の化粧品を選ぶ際の価値基準の変化とその裏側について。驚きの独自のメソッドが発展しています。
日本以上にシビアな中国人のコスメ選び
中国人のコスメ選びは、日本人が想像する以上にシビアだ。もちろん個人差はあるが、日本人が「口コミで評判がいい」「広告で見かけた」「好きなブランドだから」といった感覚的な要素も含めて商品を選ぶ傾向があるのに対し、中国ではまず「安全性」が判断基準の出発点になる。ここでいう安全性とは、単に肌に優しいという意味ではない。安心して使えるかどうか、その一点に集約される。
この背景には、中国市場が歩んできた歴史がある。現在でこそ中国ブランドの存在感は大きくなったが、かつては「国産品は信用できない」と考える消費者が少なくなかった。表示されている成分や効果が本当なのか分からない、本当に品質基準を満たしているのか不安、さらには購入した商品そのものが偽物かもしれない。そうした不信感から、特に現在の40代後半以降の世代は海外ブランドを信頼してきた。しかし海外ブランドであっても偽物や模倣品は存在し、現在もその問題が完全になくなったわけではない。そのため中国の消費者は、「この商品は本物なのか」「表示されている内容は正しいのか」を確認しながら商品を選ぶ習慣を身につけていった。海外旅行先で大量に化粧品を購入する、いわゆる“爆買い”も、中国国内で購入するよりも安い、という理由もあるが、「海外で買えば本物だろう」という安心感が背景にあったからだ。
「成分のみ重視派」から「処方の完成度を重視派」へ
こうした環境の中で、中国では早くから「成分を見る文化」が発達した。SNSでは2015年前後から「成分党」と呼ばれる人たちが影響力を持つようになる。広告やブランドイメージよりも、何が入っているのか、どれだけ入っているのかを重視する考え方だ。その流れの中で人気を集めたのが「原料桶(原料系コスメ)」である。これは特定のブランドではなく、高濃度成分を前面に打ち出したスキンケアカテゴリーを指す。実験室のようなシンプルなパッケージに成分名や濃度を表示し、高いコストパフォーマンスで支持を集めた。
中国で人気急上昇の「処方党」ブランド
ただし近年、中国市場では変化も起きている。以前は人気成分の配合量が重視されたが、現在は「成分党」から「処方党(処方式スキンケア)」へと関心が移りつつある。高濃度の成分だけではなく、成分同士の組み合わせや浸透技術、使用感まで含めた処方全体の完成度を見る消費者が増えている。また、「配合しています」という宣伝文句だけでは納得されにくくなった。臨床試験や安全性データなど、客観的なエビデンスを求める傾向も強まっている。
高い使用期限への意識
もうひとつ、日本人との違いとして興味深いのが使用期限への意識だ。中国では化粧品の製造ロット番号を入力すると、製造日や使用期限を調べられるアプリやミニプログラムが数多く存在する。成分解析アプリや、中国国家薬品監督管理局(NMPA)の公式アプリを利用し、成分情報や登録情報を確認する消費者も少なくない。店頭で販売されている商品をそのまま購入するだけでなく、「いつ製造された商品なのか」を確認する習慣が根付いている。中国では「新鮮な商品」が販売時の訴求点になることもあり、製造日の新しさ自体が価値として認識されている。
現在の中国コスメ市場を象徴するキーワードは、「安全性」「効果」「コストパフォーマンス」の三つだ。まず安全であること。そのうえで効果があること。そして価格に見合った価値があること。中国人のコスメ選びを観察していると、美容への関心の高さだけではなく、消費者としての合理性の強さが見えてくる。それは市場の歴史の中で形成されてきた独特の消費文化なのである。