人口6万人強の長野県伊那市には、年商は約10億円、年間50万人のレジ通過数を誇る直売所がある。「産直市場グリーンファーム」だ。売り場には野菜と果物とともに、なぜか骨董と古道具も一緒に売っている。約400坪の店内には野菜・果物、食品、花&野菜の種、切り花、惣菜、昆虫食、骨董、古道具が所狭しと並べられ、骨董/古道具の一部は店舗からはみ出している。すぐ隣にはヤギと触れ合えたり、貸し出しもする牧場がある。
このユニークすぎる小売店の実質的な創業者が、小林啓治社長だ。伊那市では知らぬものがいないほどの知名度を持ちながら、長野県の外ではほぼ無名。地元民をターゲットにしているためだ。「産直市場グリーンファーム」とは、どのように誕生し、何を目指しているのか。「グリーンファーム」をまさに体現する、異色の小売経営者である小林社長のインタビューをほぼノーカットでお届けする。
PROFILE: 小林啓治/産直市場グリーンファーム社長

野菜の直売所なのに
なんでもある店
WWD:野菜と食品の売り場に、なぜか熊の剥製や掛け軸を並べている。なぜ、こんな並べ方を?客からのクレームはないのか?
小林啓治社長(以下、小林):なぜかって?面白いでしょ。客からのクレームもないですよ。そもそもどんなクレームがあると思って聞いてます?
WWD:野菜の近くに、古い掛け軸とかあったら嫌な人がいそうだなあ、と。
小林:そんな人はいないですね。骨董品やリサイクル品は持ち込みも多く、処分にお金のかかる家電などは断る場合もあるけど基本的には「オールOK」。1日に15件くらいはくるかなあ。
カブトムシから古道具まで
持ち込み品は「全部引き取り」
WWD:リサイクル品はセカストなどでも売ってそうなアウトドアグッズや古い扇風機もあれば、近所の農家から持ち込まれたらしき壊れたトラクターや農具まで、多種多彩だが、場所を取るリサイクル品はもはや店舗からはみ出していて、中には「無料で持ち帰りOK」もある。かと思えば、ボロボロの人力車がなぜか30万円もする。さっきは近所に住んでいる子どもがカブトムシを売りに来ていた。一体どうなっているのか。
小林:「捨てる」と「ゴミ」という言葉が嫌いなんですよ。誰か一人でも欲しい人がいれば「ゴミ」じゃない。ここに置いておけば、欲しい人が必ずいる。ちなみに地元では親が子どもに「言うことを聞かないとこのおもちゃ、グリーンファームに持っていくわよ」と言われてるらしい(笑)。
WWD:何を目指している?
小林:考え方はシンプルだ。老若男女、全員に来てほしいし、買い物を楽しんでほしい。「グリーンファーム」には150台ほどをとめられる駐車場があるけど、平日、休日にかかわらず、駐車場が足りていない。駐車場を広げるべきではあるものの、でも本当にそれが本質的な解決かというと、それは違うと思う。重要なのは、1台の車に満席で来てもらうこと。たとえば普通の食品スーパーなら家事を担う母親、あるいは父親だけで来ることが多い。女性物の服や化粧品の店舗であれば、女性一人で来ることになる。でも、「グリーンファーム」は違う。母親は野菜を、父親は骨董を、お祖父さんは骨董を、お祖母さんは切り花を、子どもたちはヤギや花火を買いに来る。1台の車に家族全員が同乗して来る、そういった店を目指している。
WWD:商品構成比は?
小林:正確にはわからない。骨董品は場所を取るので多く見えるけど、売り上げベースで見ると全体の3割くらい。野菜が4割、食品が2割。その他の花火などの物販やヤギ、切り花・鉢花などで1割。来店客数はカウントしていないのでわからないけど、年間のレジ通過客数は50万人。年商は10億円ほど。店舗のサイズや駐車場のスペースを考えると、この店舗ではこれがマックスくらいかな、とは思っている。
WWD:ちなみに、この不思議なクロスMDの発案者は?
小林:大枠は僕が決めたけど、基本的には担当者に任せている。ただ、マニュアルはないし、POPの書き方などにも一切口を出しません。むしろ「悪ふざけを楽しもうぜ」と。食品売り場にクマがいる。絶対に楽しいでしょ。唯一のルールは「お客さんが不愉快に感じないこと」。例えば「エログロ」はNGです。
究極のクロスMDはどう生まれた?
WWD:直売所に骨董。どういう経緯?
小林:単純に相性が良かった。農家は春夏秋に忙しいけど、冬に野菜を作れない。伊那の冬はマイナス10度の世界なので。だから野菜が売れない冬に来てもらうためになにか売ろうと考えて、行き着いたのがリサイクル品だった。骨董やリサイクル品には賞味期限がないからちょうどよかった。
WWD:ならば他の直売所や道の駅に、類似の業態がないのはなぜ?
小林:本来、直売所は国や自治体から補助金がもらえる代わりに、農家の持ち込み品以外は売っちゃダメなんです。でも、それってお客とニーズを無視しているじゃないですか。「グリーンファーム」は、必要があれば市場からも仕入れるし、加工食品は全日食チェーンから仕入れて販売している。野菜だけ買っても夕食は作れないでしょ。調味料やインスタント食品だって時には必要になる。だから売っている。正直、地産地消にこだわっていないわけではない。農家の方々とは強い結びつきもある。それでもグリーンファームが「地産地消の店」と言われることにはすごい抵抗がある。
WWD:それはなぜ?
小林:「お客さまを満足させたい」が大前提だから。「グリーンファーム」は、売り上げの4割が野菜で、その大半が地元の農家から仕入れている野菜になる。直売の野菜は、価格が安いので、物量ベースにすると実際はもっと多い。直売品は新鮮なのに信じられないくらい安いからね。直売品は消化仕入れなので値付けも農家が行い、売れ残ったら農家が持って帰らないといけない。うちも利益率は低い。でも、うちは本気で売ります。普通の直売所ではやらないけど、売れ残り品は値段を下げてでも売る。農家は新鮮で美味しい野菜を作り、うちはお客を集めて売り切る。でも、それはあくまで結果。「地産地消」が目的ではない。小売業なんだから、集客と来店頻度を常に高めていないと続かない。骨董なら売れ残っても腐らないので野菜がたくさん出る時期は倉庫に詰めておいて、野菜が切れたらまた出せばいい。小売業として真っ当にやっていればそういう形になる。ただ、補助金をもらっている直売所はそれができない。
都会にシッポは振らない
WWD:5000円でヤギの貸し出しもしている。何のため?
小林:ここらへんの農家だと、草刈りが大変だからヤギに草を食べてもらって草刈りの代わりにする需要が多いんですよ。けど普通に一般の家庭が犬を飼うみたいなノリで借りていく人も多い。気に入ったら買い取りも可能なので。実はそういった需要は多くて、東京の小学校や自治体に貸し出すこともある。ヤギは普通の乗用車にもシートを敷けば載せられるので、名古屋や三重からも借りに来る人もいます。もともとは生き物がいると子どもが来るので、「グリーンファーム」の隣に牧場を作ったんだけど、それなら人間の言うことを聞かない生き物を飼ってみてほしいとも思って貸し出しを始めた。所有しているのが今は90頭くらい。常時30〜40頭が出ていて、年間の延べでは70頭くらいが動く。ただ、5000円なので全然儲からないですね。
WWD:レジ通過客数は年間50万人。大半は地元の人?
小林:調査したわけではないけど、駐車場の車を見ると夏や秋は県外ナンバーも多い。季節になれば松茸もガンガン売るからね。半分くらいは県外かなあ。ただ、「グリーンファーム」は観光施設にはなりたくない。だから土産物は置かない。都会に尻尾を振る店にはなりたくない。
WWD:どういうことでしょう?
小林:うーん。来てくれるのはもちろん嬉しいけど、そもそも(都会に尻尾を振る)意味がない。面白くないし、そういった姿勢を出した瞬間に、主力のお客である地元の人が来てくれなくなるでしょ。
WWD:これまでにピンチは?
小林:6年前に諸事情で店舗を移転したとき。すぐ隣の敷地で営業していたのだけど、移転費用が4億5000万円、それまでの借り入れと合わせて、最終的に7億5000万円にまで借金が膨らんだ。当時の年商が8億円くらいだったので、さすがに「これはマジでやばい」と。今はなんとか4億円台まで減らしたけど、今年もまた1億円くらい借りた。若い子のスポーツ施設を作りたくて。
WWD:よく借りられましたね。
小林:これは持論だけど、「お金はトンカチ。置いておいてもしょうがない。使わないなら俺が使ってやる」。金庫に貯め込んだって、何の価値もない。トンカチなんだから、必要な人が使うべきだと。都会の人にはわからないかもしれないけど、トンカチを寝かせておくバカがいますか?
WWD:ちなみに銀行の担当者にも、そんな感じですか?
小林:銀行の担当者には「貸したいんでしょう。だったら事業計画を、君たちが書けばいいじゃないか」と。
WWD:よく貸してくれましたね。
小林:いやいや相当渋いですよ。そもそもグリーンファームは、内部留保もゼロなんで。有利子負債しかない。キャッシュフローで勝負してます(笑)。でも不安は全然ないですよ。まだまだいけます。もっと借りたい。実際に、水面下ではいくつか新規事業を考えている。商売は好きなんで。
AIにはどう対抗?
WWD: ECやAIで何でも買える時代です。危機感は?
小林:ライバル視も危機感も、まったくない。そもそも対抗しようと思ってない。そりゃあ品ぞろえや便利さみたいな、同じ土俵で戦おうとしたら負けますよ。商売って限られた椅子をみんなで奪い合う、椅子取りゲームだと思うんです。でも同時に、一番座り心地のいい椅子を自分で作って日陰で休んだっていいじゃないとも思う。戦ったり、対抗したりする必要なんて本当はないんですよ。高校生がスポーツをやるとなると、みんなサッカーと野球をやるじゃないですか。なんで?って思う。僕だったら「全日本へそで茶を沸かす大会」だったら、絶対優勝できる。だったらその大会を作っちゃえばいい。
WWD:先ほども触れていたが、新規事業も結構やっている。
小林:最近だと「コカゲ」というコミュニティスペースを始めた。1円も使わずに1日いられる場所です。漫画や絵本がいっぱいある。子どもの頃に買ってもらえなかった漫画を、復讐のごとく置いているんですよ。子どもの頃に欠損した部分は、大人になってから埋めようとするものでしょう。
WWD:「コカゲ」の収益は?
小林:もちろん赤字。子どもの居場所で、どうやってお金を稼ぐんですかって。とはいえ、8月からは収益の底上げのため毎週日曜にマルシェをスタートする。あと、いま考えているのはアパート経営。DVや自死のリスクがある人が入れるアパートにする。社会的弱者に寄り添うライフラインとしてのアパートだ。補助金は嫌いなので使わない。人の金を使わず堂々と戦う。
WWD:とはいえ、その資金も銀行からの借金なのでは…?しかし、なぜ儲からなそうな事業を?
小林:おしゃれなレストランやカフェがたくさんあるのが本当にいい街か?といえばそれは違う。困っている人がゼロになることが本当のいい街でしょ。そう思いません?
年間売上高:約10億円 店舗面積:400坪住所:長野県伊那市ますみヶ丘351-7 電話:0265-74-5351 営業時間:8:00-19:00(夏季:4-10月)/8:00-18:00(冬期:11-3月) 定休日:元日のみ(ほぼ無休) 商品点数:約1万点 取り扱い:野菜・果物/松茸・きのこ・山菜/切花・鉢花/野菜苗・種/惣菜/大学イモ/信州の昆虫食(ざざむし・蜂の子・イナゴ)/骨董・古道具/農機具/日用品/薪/動物コーナー/ヤギレンタル/ネコの里親探し