PROFILE: Ed TSUWAKI/アーティスト、アーティスティック・ディレクター

小泉今日子から「Tシャツに絵描かない?」。そんな一言から始まったのが、全国ツアー「KK60 〜コイズミ記念館〜 KYOKO KOIZUMI TOUR 2026」のためにEd TSUWAKI(以下Ed)が手掛けた33枚のアートTシャツだ。その全貌を紹介する展覧会「ONCE ON - KK ON STAGE, Ed ON TEE -」が9月30日まで、東京・TEN10 STUDIOで開催中だ。
Edは小泉と約40年にわたり親交があり、これまで数多くのコラボレーションを重ねてきた。Edがその中でも「最大の無茶ぶり」と笑う今回のプロジェクトの背景には、二人の関係がある。制作の舞台裏と、長年そばで見てきた小泉今日子の魅力を聞いた。
一枚の絵から始まった約40年の交流
WWD:小泉さんとは、もう40年近い付き合いになるそうですね。最初の出会いは?
Ed:1980年代の終わりです。そのころ、親しくさせていただいていたミュージシャンの近田春夫さんたちに、小泉さんのイベントに誘ってもらったんです。そのときに、1枚の絵を小泉さんに渡してもらった。その絵がきっかけです。
WWD:どんな絵だったんですか?
Ed:マーカーで描いた、クラブで遊んでいる仲間たちみたいな絵。後になって考えると、自分のタッチが見つかるきっかけにもなった作品でした。自分でも手応えがあったんでしょうね。だから「プレゼントしたい」って思った。
当時、僕はラフォーレ原宿の地下にあった「セルロイド」という店でアルバイトをしていて、絵の裏に僕の名前と店の電話番号を書いておいた。そうしたら1週間後ぐらいに、朝、店を開けてすぐ、小泉さんがマネージャーと一緒に来たんですよ。原宿でドラマのロケをしていて、その前に立ち寄ってくれた。びっくりしましたね。
WWD:その後、その絵が思わぬところに飾られているのを見たそうですね。
Ed:そう。後にミュージックビデオの撮影に呼ばれたとき、移動車のダッジバンの天井に飾ってくれていたんです。それから会う機会が増えて、コラボレーションしてきました。でも今回が、たぶん最大の“無茶ぶり”だったと思う(笑)。
WWD:でも、受けられたんですね。
Ed:受けて立ちました(笑)。
ツアーまで3週間、小泉今日子から「Tシャツに絵描かない?」
WWD:今回のプロジェクトは、急きょ決まったそうですね。
Ed:衣装のスタイリングを担当した山本マナちゃんから、昨年末に「小泉さんがツアーで履くスニーカーに絵を描いてもらえませんか」と連絡があって、「やるよ」って返しました。それで「今年のツアーに少し関わることになったな」と思っていたんだけど、年明けに、キョンちゃんに会ったときに「衣装の中でTシャツを着るシーンがあるんだけど、Tシャツに絵描かない?」って言われたんです。「やるやる」と即答しました。ツアーは1月24日からだったから、3週間後には始まるというタイミングでした。近年作られた小泉さんのTシャツのアーカイブを全部送ってもらって、そこからTシャツに絵を描く日々が始まりました。
WWD:33枚。かなりの枚数ですが、小泉さんから「こういうものを描いてほしい」というリクエストはあった?
Ed:いい質問してくれましたね。それが、何にもないんです。
WWD:何にも?
Ed:丸投げ(笑)。面白いんですよ。ものすごく細かいところまでこだわる部分も持っている人なんだけど、これに関しては特に何もなかった。完全にゆだねられた。
描いたTシャツは、この状態だと折ったり畳んだりできないから、ある程度描きたまったら、僕が行ける会場に手持ちで届けていた。キョンちゃんがそれをパッと見て、「今日はこれ着る」みたいな感じでしたね。
「大喜利ですよね」。下描きなし、一発勝負の33枚
WWD:では、一枚一枚のアイデアはどうやって考えたのでしょう?
Ed:なんだろうね。大喜利ですよね。「このネタにはこれ」みたいな。思いつきです。着る服に絵の具で直接描くって、実は割とコツがいるんですよ。一度しか着ないものだし、あえてインスピレーション一発。「ONCE ON」という展覧会のタイトルはそこからきています。
WWD:制作前の下描きは?
Ed:ないです。おもむろに描き始めます。
WWD:展示を見ると、ネズミと黒ネコを描いたユーモラスなTシャツがあったり、小泉さんのプロフィールが英語でハンドライティングされていたりと、モチーフもさまざまですね。
Ed:ネズミのやつなんて、本当にふざけてる(笑)。黒ネコがネズミを見て「うまそうだな」ってよだれを垂らしていて、背中に「ごちキョンさま」って書いてある。それぐらい無責任(笑)。スニーカーやTシャツには、キョンちゃんのウィキペディアにあるプロフィール情報をもとに、英文に書き起こしたり。「She is widely known by the nickname Kyon Kyon」とかね。
WWD:デヴィッド・ボウイの「Let’s Dance」をオマージュしたものもありますね。
Ed:そう。“DAVID KYOKO”って描いていて……どっちが名前やねん!というツッコミ待ちのネタです。
WWD:実際に、Tシャツを着た小泉さんがステージに立つ姿を見てどうでした?
Ed:ツアーは本当に素晴らしかったですよ。彼女のファンの皆さんは、きっと100%満足していたんじゃないかな。絵付けしたTシャツも、ショーを構成する一つの要素だったんだと思います。
WWD:特に思い入れのある一枚は?
Ed:みんな、それを聞き出そうとするんだけど、これという特別なものはなくて。全部等しく愛着があります。
「どうしようもなく、みんなが引きつけられる人」
WWD:小泉さんは今回の展覧会で、企画段階から関わっていたとか。
Ed:そもそも「Tシャツに絵を描いて」と頼まれた段階で、「ツアーの後で、その展覧会やろうよ」と提案したのも彼女でした。彼女の全国ツアーは確かにビッグプロジェクトでしたが、この「ONCE ON」はそのツアーの副産物として、「KK60」のデザートのような位置づけで捉えています。
キョンちゃんは設営時も会場に来てくれて、急にライブ配信もし始めて。「ほぼすっぴん!」ってネットでも話題になっていましたね(笑)。
WWD:これだけ長く第一線にいらっしゃると、現場の細かなことはスタッフに任せる方もいらっしゃると思いますが。
Ed:彼女の会社が制作した舞台を何本か観に行きましたが、受付に立って来場客を出迎えることもある。表舞台に立つことも、裏方も等しくやるんですよね。
WWD:約40年、小泉さんを近くで見てきたEdさんにとって、彼女の魅力とは。
Ed:あらためて聞かれると……。すごい運命を背負って生まれてきた人なんだろうと思います。どうしようもなく、みんなが引きつけられるというか。そして、それを引き受けている覚悟は若くして持たれたんだろうなと思います。本人は、そういう話は一切しないけどね。
今回のツアーにも、本当に感動しました。60歳で何万人もの人を動員するツアーをやる。世界で一番かっこいい60歳の女性アーティストのコンサートを観たかった。それが見事に実現したんじゃないかな。オープニングなんて、何度見ても、毎回鳥肌が立ちました。過去の曲を“懐メロ”としてではなく、2026年の今にアップデートさせている。長年のファンの皆さんも、新しい表現に触れることで自然と感覚が鍛えられるような、最新型のショーだったと思います。
「無茶ぶりには、いつもフルスイングで打ち返す」
WWD:長年の友人と、こうしたプロジェクトを一緒に作れたことについては?
Ed:仕事量としては確かに多かったけど、「大変だな」という感覚はなかったんですよ。もう耐性がついているというかね。キョンちゃんからの無茶ぶりには、いつもフルスイングで打ち返す準備はできている。やったことのないことができるっていうのは、幸せなことですよ。いくつになっても。
WWD:また小泉さんから「これやらない?」と声がかかったら?
Ed:受けて立ちますよ(笑)。いつでも。
■開催概要
会期:9月19〜30日
開場時間:11:00〜19:00
※9月30日のみ16:00まで
会場:TEN10 STUDIO
住所:東京都渋谷区代々木3-36-8 東高代々木ペアシティB棟 地下1階 001
入場料:2500円
※「ONCE ON 図録」付き
主催:明後日/エディション
協力:BJ/ビクターエンタテインメント
■チケット概要
対象日:9月24〜30日
日付指定チケットをLivePocketで販売中
※時間枠の指定はなく、購入した日の開場時間内に入場可能
※滞在時間は1時間まで
※9月27日はトークショー開催に伴い、14:30〜16:00は展示を一時休止する
※予定枚数に達し次第、販売を終了する
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