PROFILE:ラグジュアリー・ファッション業界で20年以上の経験を持つ。アクリス・アメリカズCEO、アレキサンダー・マックイーンのアメリカ地域プレジデントなどを歴任。ニーマン・マーカスやサックス・フィフス・アベニューで培ったマーチャンダイジングの経験を生かし、クリエイティビティとビジネスの両面からブランド戦略を推進している
創業以来クオリティから
女性ファーストまで価値観を重視
メリッサ・ベステ=グローバル最高経営責任者(以下、ベステCEO):大別すれば、2つ。まずは創業当初からトレンドよりも独自の価値を重視し、一貫性を大切にしてきたから。独自の価値は、素材のクオリティやクラフツマンシップはもちろん、着心地やフィット感、何より女性ファーストの姿勢まで多岐に及ぶ。そして、そんな価値観が常に社会とフィットしていることも大事。「『アクリス』とは、何者なのか?」はクリームラー一家が体現し続けており、それがタイムレスなモダニティへと結実している。
WWD:3代にわたり同じファミリーによる独立経営が続いている。
ベステCEO:家族経営の企業は、来年・再来年ではなく数十年先を考え、市場ではなく顧客を考え、効率よりも品質を考えることができる。クリームラー一家は現在、兄のアルベルトがクリエイティブ・ディレクターを務め、弟のピーターがグループとアクリスの社長を務めている。2人は、アクリスが進化している姿そのもの。ピーターはクオリティに妥協せず、一方で「どうしたら、顧客にさらに上質で価値ある洋服を届けられるのか?」を考え、組織を次の時代に継承していく存在だ。一方のアルベルトはファッションと、アートやカルチャーとの融合を創造の原動力にしている。顧客ファーストな姿勢、ファッションとカルチャーの融合は、いずれも今、ファッション業界が向き合うべき課題。2人が、「アクリス」を常に現代的なブランドへと進化させ続けていることが感じられると思う。
大事なのは「取引数」
ではなく、より深い「関係性」
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ベステCEO:端的に言えば、2人が体現する現代性を特に新しい顧客層に届け、「アクリス」というブランドをさらに成長させること。2人の間に立って、商品から小売、マーケティング、顧客とのコミュニケーションなど、あらゆる場面で進化のための施策を実行している。2009年にアメリカのCEOとしてアクリスに入社して以来、クリームラー一家とは、まさに家族のような関係を築いてきた。と同時に、顧客とも家族のように接している。そしてアクリスがユニークなのは、社内のスタッフもまた、家族のような存在であること。先述した100年企業の一番の理由は、「『アクリス』は商品にも妥協しないし、人間同士のコミュニケーションにもまた妥協しない」ことかもしれない。円滑なコミュニケーションのおかげで、組織は上下ではなく横に広がっているから、皆が声を出しやすいし、耳を傾けてくれる。私も、世界各国の異なるニーズに耳を傾け、成長のために叶えようとしている。各国のニーズに応えることは、さまざまなカルチャーと繋がることだ。そして「トランザクション(取引数)ではなく、より深い関係性」を求める姿勢は、顧客にとって「アクリス」を特別なものにしていると思う。
特に私は、アルベルトから多くを学んだ一番弟子のような存在だ。アルベルトは「投資に値する洋服」を考え続けている。エレガントであり着心地も最高だから、ずっと着られる、着ていたい服。いつも女性のライフスタイルに想いを馳せているから、忙しい彼女たちのために常に機能性も重視している。
創業者が「目的を持つ女性」
洋服で女性に自信を与えたい
ベステCEO:作り出したものではなく、メゾンにすでに存在する信念を具現化したものだ。そもそもアクリスを創業した、アルベルトとピーターの祖母であるアリス・クリームラー=ショッホが「目的を持つ女性」だった。彼女は11人兄妹という大家族で育った。兄弟が縫製工場を継ぐと、彼女は家庭用のミシンを使って、今でも本社を置くスイス北東部の街、ザンクト・ガレンの名産である刺しゅうを使ったエプロンを作る工房をスタート。刺しゅうを選んだのも、ささやかでも一人ひとりの女性を思って施した刺しゅうのあるエプロンは、彼女たちにとって忙しい日々と対峙する鎧のような存在になると信じたからだった。1922年に創業し、信念で自分の未来を導いたアリスは、まさに「目的を持つ女性」だろう。そして私たちは、未来はもっと「目的を持つ女性」が増えると信じている。ビジネスの世界でもカルチャーの領域でも、声を出してインパクトを与える女性が増えている。「アクリス」は、そんな人生の主役を生きる彼女たちの旅をサポートする存在になりたい。「目的を持つ女性」同士を結びつけ、その声を増幅させたい。日本はまだ女性が声を大にして主張する場面が少ないかもしれないから、どうしたら彼女たちの存在が可視化できて、ストーリーを届けられるのかを考えている。このイニシアチブは2020年にスタートしたが、「アクリス」は元来、「目的を持つ女性」を支えてきた。「アクリス」の洋服は一度袖を通すと、自信が持てる。そして私たちは、エレガントな洋服は、その自信を美しく磨き上げると信じている。だから「アクリス」の洋服には、ロゴがない。そして厳選された素材選びと今を感じながらもタイムレスなスタイルは、女性に内なる強さを与える。アルベルトは、「アクリス」というブランド名よりも、それを着る女性がまず注目されるべきと考えている。
アートとのコラボレーションは
洋服をパーソナルにする挑戦
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ベステCEO:「アクリス」とアートの対話は20年以上にわたる。熱心なアートコレクターのアルベルトにとって、アートへの情熱は創造の源で、その関係はとても自然なもの。唯一無二なのは、作品をそのまま引用するのではなく、背景にある思想や感情までを独自に解釈し、服やバッグの個性へと昇華させること。自由に解釈できるアートは感情と同じように、宿ると洋服がパーソナルになる。それが、アルベルトならではの「知的なクリエイティビティ」。彼は長年にわたるアートとの対話を、より洗練された方法で進化させ続けている。
WWD:日本市場に期待することは?
ベステCEO:今年1月に塩山興樹社長が着任し、日本市場でもこれまで築いてきたものを大切にしながら、「アクリス」をさらに進化させていくだろう。特に「アクリス」のコレクションが本来持つ価値にふさわしい認知度や魅力をさらに高めていくことが重要。既存のお客さまとの関係をより深めながら、新しい人にも「アクリス」、そして今後ジャパン社が中心となり運営する「アクリスプント」の価値を届けてほしい。「まず未来を見る」という姿勢で、日本ならではの新しい発想や試みも積極的に取り入れてほしい。「アクリス」の洋服を通じて、一人ひとりの個性や生き方をより輝かせ、新たな「目的を持つ女性」との出会いを広げる。そして、これまでのつながりを、より豊かなコミュニティへと育てていくことを期待したい。
アクリスジャパン