アシックス(ASICS)は10月15日、循環型ランニングシューズ“ニンバスミライ2(NIMBUS MIRAI 2)”を直営店とアシックスオンラインストアで発売する。価格は2万4200円。“ニンバスミライ”は、使用後に購入者から回収し、素材を再利用することを前提に設計したランニングシューズで、2024年に第1弾を発売した。“ニンバスミライ2”は第1弾に比べて約37gの軽量化を実現。温室効果ガス排出量は1足当たり4.9kgCO₂eと、約20%削減した。また、アッパーのアシックスストライプ部分の約1%に、第一弾の回収品をリサイクルして作った再生ポリエステル素材を使用した。
実際に回収・リサイクルまで行ったことで、想定していなかった課題も見えてきた。回収量の不足、リサイクル工程に伴うCO₂排出、地域ごとの循環システムの構築などだ。“ニンバスミライ”は今後、どのように循環の輪を広げていくのか。
パフォーマンスランニングフットウェア統括部デザイン部の安藤良泰プラッシュデザインチームマネジャーとサステナブルプロダクト推進部鈴木千早材料開発チームマネジャーに聞く。
CO₂排出量を約20%削減
植物由来素材と機能性を両立したミッドソール
――第2弾の開発にあたり、最も重視したことは何か。
安藤良泰パフォーマンスランニングフットウェア統括部デザイン部プラッシュデザインチームマネジャー(以下、安藤):2点ある。1点目は、“ニンバスミライ”で一貫して目標に掲げているCO₂排出量の削減だ。“1”では1足当たり6.1kgCO₂eだったのに対し、今回は4.9kgCO₂eまで減らし、1.2kgCO₂eの削減を実現した。一つの目標は達成できたと考えている。削減に貢献した要因の一つがミッドソール素材だ。今回は植物由来のEVA素材を取り入れた。“ゲルライトCM 1.95”のミッドソールと同じ素材をベースにしているが、そのままでは“ニンバスミライ”に求めるパフォーマンスを実現できなかった。そこで硬度や屈曲性などを調整し、クッション性をはじめ、このモデルに必要な性能を発揮できるよう改良した。植物由来材料の採用とパフォーマンスの両立を図ったのが、今回のミッドソールだ。
もう一つは、販売地域の拡大だ。今回は中国を含めて販売地域を広げ、より多くのお客さまに届けられるようにした。一方、循環性の面ではまだ課題が残っている。
「ソールtoソール」実現への壁
クッション性を維持しながら、製法そのものを見直す

――というと?
安藤:現在のミッドソールは、発泡剤などを加える「化学発泡」という製法で作っている。使用済みのミッドソールを細かく粉砕し、再びシューズに配合すること自体はできるが、その割合を増やすとクッション性などの機能が低下してしまう。そのため、現状ではクローズドループのリサイクルを実現できていない。将来的には化学発泡とは異なる製法を採用することも考えている。ただ、“ニンバスミライ”はクッション性を追求したモデルであり、別の製法に変えると特性が変わってしまう可能性がある。次のモデルでは、こうした課題も踏まえながら製法を検討している段階だ。
――使用済みのミッドソールは何に再利用されるのか。
鈴木千早サステナブルプロダクト推進部材料開発チームマネジャー(以下、鈴木):詳細は非公開だが、別の産業の材料として展開するための研究開発は完了しており、リサイクルは可能になっている。こうしたオープンループの循環だけでなく、回収したシューズを再びシューズに生かすクローズドループを促進していきたいと考えており、ソールtoソールの実現に向けた研究開発を進めている。
回収して見えた循環型シューズの想定外
回収量が少なければ、CO₂排出量が多くなる
――第1弾を実際に製造・販売・回収する中で、当初想定していなかった課題や新たな発見はあったか。
鈴木:回収量だ。私たちは製品を長く使っていただくことを重視しており、”ニンバスミライ“も耐久性を備えたシューズだ。その結果として、まだ使い続けていただいている方が多いとも考えられるが、実際に回収量は想定を下回った。ただ、それだけを理由にすべきではないとも考えている。そもそもこのシューズが使用後に回収・リサイクルできるということをお客さまに十分伝え切れていなかったのではないか。今後は回収・リサイクルの仕組み自体の認知をもっと高めていくことが必要だと考えている。
――その結果、“1”で回収したシューズを活用した部位はアシックスストライプ部分の約1%だった。
鈴木:回収量そのものが少なく、使用できた再生材もそれほど多くなかった。本来はもっと多く使いたかったという点は、一つの課題だった。もう一つ、実際に取り組んだからこそ見えてきたのが、リサイクル工程そのものにも電力や熱が必要だということだ。つまり、循環性を高める一方で、リサイクルするために新たな温室効果ガスが排出される。一定の回収量を確保できれば、石油由来の原料から新たに素材を作るよりもリサイクルした方が環境負荷を抑えられると考えられるが、回収量が少なければリサイクルする方がCO₂排出量が多くなるケースもある。
そのため、ある程度の量をまとめてリサイクルする必要がある。回収したシューズをどのように管理し、どの程度の量が集まった段階でリサイクルすれば最も環境負荷を抑えられるのか。在庫管理やリサイクルのタイミングまで考える必要があることは、当初想定していなかった課題の一つだ。
――循環性と、ランニングシューズとしての履き心地や耐久性、機能性を両立する上での課題は?
鈴木:循環性を高めるためには、大きく3つの軸があると考えている。1つ目は、既存のリサイクル技術でも処理しやすい材料を選び、シューズそのものをリサイクルしやすく設計すること。2つ目は、リサイクル技術そのものの研究開発を進めること。そして3つ目は、この2つの取り組みを業界全体で汎用化し、「循環の幅」を広げていくことだ。
“ニンバスミライ”では、環境への配慮だけでなく、シューズとしてのパフォーマンスとの両立を非常に重視している。その中で難しいのが、既存技術でリサイクルしやすい材料を使うことだ。シューズはさまざまな素材や部材を組み合わせて作る。異なる原料からできた素材同士が接着されていると、既存のリサイクル技術では処理しにくい。そのため、機能を維持しながら、いかにリサイクルしやすい材料や構造に変えていくかが重要になる。できるだけ同じ原料で各部材を作ることが望ましいが、それが機能性との両立を難しくする。例えば、かかと周りのスポンジやかかとを支える硬い部分などは、通常はリサイクルしやすい原料で作られているわけではない。そこで“1”では、こうした部材の材料を一から開発した。リサイクル可能なアッパーを実現できた一方で、従来の製品と比べると、足入れやフィット感には改善の余地があると感じていた。“2”ではさらに川上へさかのぼり、樹脂の段階から素材そのものを見直した。リサイクル性を維持しながら、フィット感をはじめとする機能性でも妥協しないものを目指した結果、通常のシューズと同等の機能性を実現できたと考えている。
一足の循環から、業界全体の循環へ
技術を囲い込まず、「循環の幅」を広げる

――では、その「循環の幅」を広げていくためには何が必要になるのか。
鈴木:リサイクルにかかるコストや、リサイクルを成立させるために必要な回収量など、解決すべき課題がある。一つの企業や一つの商品だけで取り組むのではなく、こうした技術や仕組みを業界全体で汎用化していくことが必要だと考えている。循環のための技術や仕組みをいかに標準化し、より多くのシューズに展開できるようにするかが、今後の大きな課題だ。
私たちは、今回開発した技術をサプライヤーが他社向けに横展開することを制限していない。むしろ、業界全体でこうした技術が使われ、リサイクルが促進されることで、技術の汎用化が進むと考えている。利用量が増えれば、スケールメリットによってコストを下げられる可能性がある。さらに、一定量をまとめてリサイクルできるようになれば、リサイクル工程に伴うCO₂をはじめとする温室効果ガス排出量の削減にもつながると期待している。
“ニンバスミライ”は最初のステップ
地域で循環する仕組みを構築し、他モデルへの展開も
――“ニンバスミライ”で構築した仕組みを、今後、アシックスのほかのモデルにも広げる考えはあるか。循環型シューズを限定的な取り組みではなく、事業としてスケールさせる上で最大の課題は何か。
安藤:“ニンバスミライ”は、単なる限定的なプロジェクトではない。循環型シューズの可能性を検証し、そこで得た知見を将来の製品開発に生かしていくことが、このプロジェクトの大きな目的だ。将来的には、ここで培った技術や仕組みを他のモデルにも展開していきたいと考えている。ただ、循環型シューズを本格的にスケールさせるには、大きく2つの課題がある。1つは回収量。もう1つは、回収からリサイクルまでを担うエコシステムを各地域に構築することだ。一部の地域だけで循環できても、グローバルに展開するシューズとしては十分ではない。
理想は、使用済みシューズをその地域で回収し、その地域でリサイクルする、いわば「地産地消」のような循環だ。そのためには、各地域で回収やリサイクルを担うパートナーが必要になる。一方で、仕組みを整えても回収量が少なければコストがかさんでしまう。地域ごとのエコシステム構築と、十分な回収量の確保を同時に進める必要があり、それが広範囲に展開する上での課題だ。
“ニンバスミライ”は、あくまでそのための最初のステップだ。現在はクッションモデルで取り組んでいるが、将来的には他モデルへの展開はもちろん、別のフラッグシップモデルの“MIRAI版”のような可能性も考えている。現時点で確約はできないが、時間軸としては5年以内を一つの目安にしている。技術は速いスピードで進歩しており、実現できることも増えてきている。