ファッション

「オーラリー」はバカンスの高揚感を日常へ 「旅先で見つけた“新しい自分”を連れ帰って」

国際色豊かなブランドが名を連ねるパリ・メンズ・ファッションウイークは、デザイナーにとって世界へ向けた最大のアウトプットの場である。同時に、年に2度訪れるこの地は、インスピレーションを得るインプットの場でもあるようだ。「オーラリー(AURALEE)」の岩井良太デザイナーもその一人。街角で見かけたパリジャンのスカーフ使いをスタイリングに反映させたり、パリで出会った人の愛着あるアイテムを使った装いから着想を得たこともある。6月23日(現地時間)に発表した2027年春夏コレクションでは、これまで5度過ごしてきた6月のフランスで感じた人々のマインドが出発点になったという。「この時期は、夏に控えたバカンスのことを考えながら仕事をしている人が多い気がして。頭の中は半分、旅行のことだったり。仕事とバカンスの間を行き来しているような心情が素敵だと感じたところから始まった」。リハーサルを終えた直後、時折汗ばむ額を拭きながら岩井デザイナーはそう説明した。

パリ6区にある国立劇場オデオン座の回廊を会場に選んだ今季。プレゼンテーションを含めパリでの発表も12回目となり、ルックブック撮影からリハーサル、本番前の微調整まで、すべてが滞りなく進んでいく。岩井デザイナーはいつものようにスタッフと並んでゲスト席に腰掛け、本番さながらのランスルーを見守る。はみ出したシャツの襟をさらに無造作に崩し、モデルごとにパンツのウエストを細かく調整する。その後は本番を迎えるまで、バックステージを行ったり来たり。不安気な様子は今ではおなじみの光景だ。これまでと違っていたことがあるとすれば、フランスで記録的な熱波が襲ったこの日は、モデルの体調に配慮してショー開始直前までルックの着替えを控えていたこと。岩井デザイナーもショーツとサンダルという軽装から、ジーンズとレザーシューズへと履き替え、いざ本番へ。

仕事へ向かう装いに、
旅の高揚が忍び込む

回廊に面した大通りでは車が絶え間なく行き交い、街の喧騒が響く。一方でランウエイには、「オーラリー」らしい穏やかな空気が流れ、ゆったりとしたテンポでショーは幕を開けた。コレクションはサウンドトラックの変化とともに、3章構成で展開された。序盤は今季の出発点となった、仕事とバカンスの狭間にいる人々の心情を描く。オフィスウエアのスーツセットアップにボストンバッグを抱え、浮き立つ気持ちを映し出すように、ビーチサンダルやバスタオルがバッグから顔を出している。仕事へ向かう装いでありながら、心はすでに旅先にあるようだ。ウールリネンやシルクヘリンボーンといった軽やかな素材はパリの夏の風をはらみ、端正なジャケットもどこかリラックスしたムードを漂わせていた。テーラリングを軸にした「オーラリー」らしいルックは、細身のスラックスやわずかにフレアしたシルエットなど、新たなバランスも取り入れられていた。

旅先で出会った文化を
素直に楽しむ

最も新鮮に映ったのは、旅先での装いを描いた第2章だった。マルチボーダーのニットTシャツ、フラワーモチーフのシルクシャツ、シルクとカシミヤの糸をこんにゃく加工で仕上げたフェアアイル柄のベストやカーディガン。「印刷屋で古いサンプルをひたすらリサーチした」というモチーフは、ランウエイに登場した以外にも多彩なバリエーションが用意されているという。南国のリゾート地かヨーロッパ、チャイナボタンのモールスキンジャケットはアジアを想起させる。バナナモチーフのシルバーネックレスや、トロピカルフルーツを手編みしたアクセサリーは、旅先の土産物店で思わず手に取ってしまうような、どこか愛嬌を帯びたディテールも印象的だった。岩井デザイナーにとって初挑戦となったジュエリーは、「制作に苦労した」というが、その苦心を感じさせない軽やかな遊び心に満ちていた。お守りのようにバッグへ添えられた動物のチャームは、ショーのために社内スタッフが手作りしたもの。彼はこの章について、「旅先ではその土地に合った、普段は着ない洋服にチャレンジすることがある。バカンスの高揚感がそうさせるのかもしれない。素直に、その場所の文化を楽しもうとするオープンマインドな姿勢に惹かれた」と語る。

彩りを洋服にまとい、
旅の余韻を日常へ

そして最終章では、バカンスが明けて再び日常へ戻るが、そこには旅の記憶が刻まれている。色を小物で取り入れていた序盤とは対照的に、ターコイズとアップルグリーン、レッドとパープルを洋服で組み合わせ、バカンスの余韻を漂わせた。柄と柄の大胆さも、タオルをスカーフのように扱うのも、旅先で見つけた新しい自分をそのまま日常へと持ち帰ったようだ。復刻モデルと昨シーズンからの継続が並ぶバッグに対し、シューズはバリエーションが拡張された。ソールの厚いダービーシューズに、街でもリゾートでも履けるデッキシューズやモカシン、サンダルをラインアップ。長年協業を続ける「ニューバランス(NEW BALANCE)」とのコラボレーションでは、“574”をベースにナイロンとヌバックを組み合わせたブラックとブルーの新作も披露した。

モチーフや色彩、ジュエリー、シューズと挑戦が見られたシーズンだった。新たなデザインが生まれた一方で、全体のバランスを保つべく、あえて生産をストップした製品もある。東京の旗艦店や公式オンラインストアでは完売を繰り返す人気アイテムも少なくないが、定番を漫然と積み重ねることなく、継続した製品をあえて手放しながら更新を重ねるのが彼の姿勢である。「売れ行きがいいからどんどん生産数を増やして売るというやり方ではなく、本当に必要としてくれる人に届けることを常に考えながら微増させている。時には、国内外のバイヤーから『売りやすい』と評価してもらえたアイテムを、あえて次シーズンには外したりもする。無難に“置きに行く”デザインをやりたいわけではない」。

優しさ故に言葉を選びながら語ることの多い岩井デザイナーだが、この時ばかりは迷いなく言い切った。「チャレンジして、新しいデザインを提供し、過去のコレクションと新作を自分らしく合わせたりしながら、装いを通して“新しい自分”になる感覚を味わってもらえるのが理想。だから今季も、旅先で少し大胆になった気持ちのまま手に取ったアイテムが気に入り、日常の一部となっていくように、背中をそっと押せるようなコレクションにしたいと思い制作に臨んだ。ほんの少しでいい。一歩とは言わず、半歩でいい。まとうことで心が軽くなり、日常を半歩前に踏み出すよう背中を押せたら」。バカンスを指折り数えて待つような高揚感で、このコレクションが店頭に並ぶ日が待ちきれない。

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