
ファッションの世界において、現状維持は“後退”を意味する。極めて速いスピードで常に更新が求められるこの業界で、昨日の成功は決して今日の保証にはならない。そうした文脈において、世界的な注目度と評価を高めている「オーラリー(AURALEE)」にとって、現地時間1月20日にパリで発表した2026-27年秋冬コレクションは重要な分岐点となるシーズンだと言えるだろう。評価をこのまま右肩上がりに伸ばせるのか、それとも停滞と受け取られてしまうのか。決して大袈裟でも、日本贔屓の視点でもなく、現在のパリメンズにおいてビッグメゾンと肩を並べ、最も注目を集める存在となった日本のインディペンデントブランドが、次にどの一手を示すのかが問われていた。結果として、新たな挑戦が随所に見られた今季は、ブランドを次のステージへと押し上げる会心のコレクションとなった。
会場に選ばれたのは、トロカデロ広場に面する人類博物館の真っ白で無機質な空間。淡いキャメル色のカーペットと、同系色のカシミア製コーデュロイによるトレンチコートとパンツでショーは幕を開けた。非常に柔らかなレザーを用いたブルゾン、裏地にファーを配したボンバージャケット、ウールのように見えてカシミアで仕立てられた極めてミニマルなオーバーコートなど、一見するとベーシックでありながら細部に非凡さを宿すアウター群は、これまでの完成度をさらに更新している。今季はフーディをあえて封印し、代わりにボタンダウンシャツやクルーネックのニットウエアが豊かなバリエーションで展開された。肌が透けるほど薄手のシャツにキッズモヘアのカーディガン、フリースのようで実はシルクで作られたジップアップ、上品な艶感のレザー。ブランドの最大の武器である上質素材が生む触感と視覚的な心地よさが、レイヤリングによって重なり合い、まるでシンフォニーのような調和を奏でていく。
日常に根差したベーシックアイテムという構造自体は、「オーラリー」らしい一貫性を保っている。それでもコレクションに鮮烈な新しさをもたらしたのは、ビビッドカラーが放つ鮮やかなアクセントだった。イエローのダウンジャケット、コバルトブルーのダッフルコート、タイドアップスタイルに合わせたレッドのニットポロ。さらに、明るい色彩のベルトやスカーフがスタイリングの要として機能し、全体にリズムを与えていた。レザーパンツやバッグも、その艶やかな光沢によって視覚的なダイナミズムを高め、もともと優雅なワードローブに潜んでいた官能性をいっそう際立たせる。淡いベージュから穏やかなグリーン、意表を突くポップカラーの組み合わせは、やがてブラックを基調としたイブニングウエアへと移ろい、最後は再びビビッドなカラーパレットへと帰結する。これまで以上に軽く、薄い素材使いも相まって、秋冬でありながら全体の印象は驚くほど軽快だ。
特に印象的だったのは、ブラックのワントーンが続いた後に登場した刺激的な原色のルック。まるで真っ暗なトンネルの先に差し込む光のようで、カラーがもたらす心理的な高揚感、いわば“カラーセラピー”の力をここまで強く体感する経験は珍しい。もちろん、日常に取り入れるには挑戦的な色であることも事実であり、それは岩井デザイナー自身も語っている。「冬はどうしても暗く、重たいイメージで、ダークトーンを選びがち。そんな冬を前向きに捉え直したいという気持ちが今季の起点となった。だから、着るだけで気持ちが高揚するようなカラーブロッキングを取り入れた」。その言葉通り、このコレクションは良質な服であると同時に、感情に働きかける力をも備えていた。さらに特筆すべきは、バッグブランド「アエタ(AETA)」との継続的なコラボレーションによるレザーバッグの存在だ。カジュアルからフォーマルまでを網羅する構築的なトップハンドルバッグと筒型バッグを、色やサイズ違いで披露した。レディライクなバッグに呼応するように、シューズも同様にレザーで統一され、これらアクセサリーがコレクション全体をいっそう端麗でエレガントな雰囲気へと引き上げていた。
服の完成度はもちろん、スタイリング、アクセサリー、そして感情へのアプローチまでを含め、創設11年目を迎えた「オーラリー」は洗練を極めながら新たなステージへと足を踏み入れた。リアルクローズという軸をぶらすことなく、ラグジュアリーと日常性を同時に成立させる、稀有なバランス感覚を携えて。「確かに明るい色をたくさん使ったけれど、心の中は不安でいっぱいでダークなムード」。ブランドが成長しても、ショー後にぽろっと漏らす岩井デザイナーの言葉は相変わらずだ。もはや冬だけでなく、先行きの見えない不安定な時代に、私たちの周囲には常に暗雲がたちこめているように感じられるが、「オーラリー」の服をまとえば優しく抱擁されるように心がほどけ、前を向くことができる。日常を生き抜くために、それ以上に必要なものがあるだろうか。