記録的な熱波の中繰り広げられた2027年春夏のメンズ・ファッション・ウイーク。ビッグメゾンのパリコレへの引っ越しや9月に行われるウィメンズコレへの合流などに加え、サッカーW杯はイタリア代表が予選敗退で蚊帳の外ということもあり、やや寂寥感も漂ったミラノメンズ。しかし職人技と洗練が同居する質実流麗なミラノのクリエイションは、本質思考に回帰する今だからこそ新鮮に見えます。
今回、編集部からは単騎取材となった本橋涼介ヘッドリポーターとパリ在住ジャーナリストELIE INOUE(以下、井上)氏によるミラノメンズの取材ダイジェストVol.4をお届けします。最初は勢いがいいものの、だんだん暑さでエネルギーを奪われながら、それでも気合で乗り切ったファッションウイーク取材をプレイバック。
「トム ブラウン」は18年ぶりイタリア凱旋
グレースーツに紡ぐ庭の物語
本橋:「トム ブラウン(THOM BROWNE)」が2008年以来となるイタリアでの発表の地に選んだのは、ミラノのパラッツォ セルベローニです。良く言えば、この日のミラノは雲ひとつない超快晴。悪く言うと、ちょっと外出すら憚られる炎天下です。
開演前にはミネラルウオーターやジェラートがふるまわれ、席には日傘まで配られる手厚い暑さ対策。しかしその傘すら無効化する灼熱の日差し、そして今日はほぼ定刻どおりスタートと伝えられていたショーが始ま…ら…ない。
意識が朦朧とする中、いつの間にか幕開けたショーは、シアサッカーの植木鉢400個を格子状に並べた“トムのガーデン”を、管理人がていねいに手入れするところから。庭を歩くのは、おなじみのグレースーツをまとった紳士たちです。グログランリボンでトリミングしたつばの大きなカンカン帽をかぶり、シルクのレップストライプタイを締め、白いコントラストの襟と袖口は取り外し可能なポプリンシャツ。チノパンツには蟻のアップリケが行進し、カエルは睡蓮の葉を飛び越え、刺繍のミツバチが蜂の巣を登り、トンボの羽が輝く。頭には半透明のチェックの養蜂家ベールまで登場し、細部までガーデン・ストーリーが徹底されていました。色は定番のグレー、白、赤、ネイビーに、イエロー、グリーン、ピンク、スカイブルーといったお庭の彩り。素材はウィンドウペーンの涼感ウール、テクニカルナイロンのシアサッカー、ジャケットウェイトのカシミアとマドラスの掛け合わせなど軽やかにまとめました。
そしてメットガラ常連ブランドの真骨頂であるドラマティックなテイラードとレイヤリングは見応え抜群!でしたが、この炎天下ではモデルが少しばかりかわいそう(汗)。ところどころのダメージ加工は「季節のサイクルと人生の変化」の表現なのだそうです。フィナーレには、手作業のパールをあしらったチュールベールの花嫁が登場し、庭の一年を締めくくりました。ミラノの伝統様式の中庭で、あくまで「トム ブラウン」らしいドラマチックなショーを貫く。その徹底ぶりが、彼なりのこの街への敬意だったのかもしれません。
地中海の市場を巡る「ジョルジオ アルマーニ」
ジレを挟むスリーピースが今季のカギ
本橋:今季の「ジョルジオ アルマーニ(GIORGIO ARMANI)」が掲げたのは“メディテレーニアン マーケット”。副題に「地中海に交わる光」と添えられた通り、人と文化が行き交う市場の彩りをすくい取るコレクションです。レオ・デル・オルコ率いるメンズに、シルヴァーナ・アルマーニが手がける2027年ウィメンズ・クルーズ・コレクションの同時発表で、そのルック体数は合わせて160体!
色彩は、陽に焼けた石を思わせる白とアースカラーに、スパイスの色調を効かせます。リネンやコットン、シャンタン、シルクといった軽やかな素材が、しなやかなジャケット、楊柳素材のボトムスのシルエットを描きました。得意のサファリジャケットはリネンのマオカラー系とサテン&ウォッシュドコットン系の2系統で展開し、大型のカーゴポケットを配してユーティリティー方向へテイストを拡張。そして今季のカギは、ショーを通じて何度も登場した、ジレを挟んだスリーピースのレイヤードです。軽い素材で重ねるからこそ成立する、夏の奥行きのあるドレススタイルを提案しました。
足元はスエードのバブーシュやモカシン、ラフィア編みのスリッポン。スエードとラフィアの大型トートやボストンにはタッセルが揺れ、胸元にはゴールドのロゴピンバッジが光り、差し色はコバルトブルーのスカーフがコーデの引き締め役です。創業者ジョルジオ・アルマーニ御大の逝去後、2回目となるメンズコレクション。長年その傍らでメンズを支えてきたデル・オルコは、そぎ落とした色彩と流れるような素材という「らしさ」は引き継ぎながら、装いをより現代的にアップデートしてみせています。その重責は察するに余りあるものの、バトンタッチがうまくいっていることを感じさせました。
「トッズ」は“パシュミー”継続プッシュ
圧倒的に軽・柔なレザーをトータル提案
本橋:マッテオ・タンブリーニが率いる「トッズ(TOD’S)」は、ミラノの名邸ヴィラ・ネッキ・カンピリオで、テーマ“ジ・イタリアン・ワードローブ(THE ITALIAN WARDROBE)”をテーマに発表しました。
今季も目を奪われたのは、圧倒的なスエードアイテムの物量です。引き続きプッシュするのは、素材研究の集大成的なレザープロジェクト「パシュミー」。その名の通りパシュミナを彷彿とさせる並外れた軽さと柔らかさのレザーで、ブルゾンやシャツジャケットから足元まで惜しみなく採用し、それぞれ熟練職人のサインが革に入るという徹底ぶりを貫いています。
ラインアップは“ブレラ ボンバー”“カステッロ ジャケット”“ソルフェリーノ シャツ”と、ミラノの地名を冠したアイテムがずらり。ベージュ、ココア、オークルのアースカラーに、地中海由来のリヴィエラブルーとパールグレーを差し、タックの入ったゆとりあるトラウザーズと同系色でまとめるトーナルな装いです。装飾は最小限。イタリアの日常に根ざす、肩の力が抜けたリラクシーテーラリングです。
そして本領のフットウエアへ。ヒールに真紅の一粒を灯した新アイコン“レッド ドット”スニーカーは、エラスティックシューレースと軽量ソールで、仕事とプライベートをシームレスに行き来する男性像を体現します。「ゴンミーノ」の新モデルはグレカ ベルトの噛み合うクロージャーに着想したアクセサリーを甲に載せ、なんと総手縫いで仕上げ。シルクのような手触りのソフトレザーによる超軽量ローファーまで、上質なレザーを惜しみなく使ったコレクションは、靴から始まったブランドの矜持を感じさせました。