ファッション

霧に包まれる「サンローラン」で灼熱のパリメンズ開幕 ヴァカレロが示す「抑制」という名の魅惑

記録的な猛暑がヨーロッパを襲う中、6月23日にパリ・メンズ・ファッション・ウイークが開幕した。初日の目玉の一つとなったのは、アンソニー・ヴァカレロ(Anthony Vaccarello)による「サンローラン(SAINT LAURENT)」だ。会場となったのは、今回もピノー財団が所有する現代美術館ブルス・ドゥ・コメルス(Bourse de Commerce)の円形スペース。そこには、外のうだるような暑さや来場セレブリティー目当てのファンの熱気とは対極をなすような、心地よく落ち着いた雰囲気が広がる。ショーが始まると、中央の床から霧が立ち込め、雲のように形を変えながらうごめく。今回ヴァカレロは、同美術館で開催中の企画展で展示されている日本人アーティスト中谷芙二子による霧の彫刻「CLOUD #07156」をショーの演出に取り入れながら、独自の視点で「抑制」の美学を表現した。

プレスリリースの冒頭に記されていたのは、「誰もあなたを魅惑しようとしていない。そうする必要がないことこそ、魅惑的だからだ」というフレーズ。「よりドラマチックに、よりきらびやかに、もっと注目されたい」という飽くなき欲求から背を向けた時に生まれるものについて考えたヴァカレロは、抑制を魅惑と捉え、「無いこと」の豊かさを探求した。

コレクションの中心となったのは、ヴァカレロが好む力強いショルダーラインのジャケットやフラットフロントのスリムなパンツ、柔らかなシルエットを描くタック入りパンツといったテーラリング。しなやかな生地で仕立てたロングジャケットは、新たな解釈としてウエストを高めにデザインし、ジュエルボタンをあしらった。そして、Tシャツやリブ編みのセーター、トレンチコートといった定番アイテムは、繊細な素材や精緻な仕立てによってセンシュアルかつエレガントに。スタイルを過剰に飾り立てることから距離を置きつつ、カラフルなテクニカルタフタで彩ったラウンドショルダーのスポーティーなブルゾンや、メタリックなゴールドのトレンチコートとスーツ、足元の透明なPVCを用いたロングノーズのドレスシューズでアクセントをもたらした。

ランウエイを歩くモデルたちは、霧の中から現れたり、霧に包まれて見えなくなったり。それは、情報があふれる現代社会の中で未知のものや目に見えないもの、語られないものから得られる喜びを忘れてしまった人々に、想像力を働かせたり思考を巡らせたりすることの大切さを訴えかけるようでもあった。

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