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底なしのアメリカン・スポーツ73年の伝統 “コルベット Z06 コンバーチブル 3LZ”【名車の血統 Vol.2】

時代とともに姿を変えながら、長きにわたってその名を受け継いできた名車たち。何を伝統とし、どう解釈し、次代へつなぐのか。その答えは、クルマによってさまざまだ。本連載では、脈々と続く系譜の先にある最新モデルに試乗し、その名に刻まれた歴史と、今なお受け継がれる“らしさ”を考察する。

アメリカを代表するスポーツカーとして進化を続けてきた「シボレー(CHEVROLET)」“コルベット”。現行のC8型は5月にマイナーチェンジを経て、新たなコックピットデザインを採用するなどアップデートを果たした。本記事では、同シリーズの高性能モデルでリトラクタブル・ハードトップを備える最新型の“コルベットZ06 コンバーチブル 3LZ”に試乗。時に長年の伝統さえ覆しながら進化してきた同車が受け継いできたものとは何か。その進化を象徴するモデルを通して、その佇まいを写し取りながら、歴史と魅力をひもとく。

70年を超える歴史を背負う
アメリカン・スポーツの雄

最新型“コルベット Z06”のベースとなるのは、アメリカの自動車メーカーであるゼネラルモーターズ(以下、GM)が2019年に発表したC8型の“コルベット”だ。同シリーズの始まりは1953年にまでさかのぼる。同年1月、GMがニューヨークのホテル ウォルドルフ=アストリアで開催したモーターショー「モトラマ」で初代“コルベット”を初公開し、6月には生産を開始した。以来、型式の数字にもある通り、70年以上にわたって一度もその名を絶やすことなく8世代を重ねてきた、アメリカを代表するスポーツカーの一つだ。

誕生の背景にあったのは、第二次世界大戦後のアメリカで人気を集めていた欧州製スポーツカーの台頭だった。GMのデザイン部門を率いたハーリー・アール(Harley Earl)は、「ジャガー(JAGUAR)」や「MG」などのイギリス車に対抗するアメリカ製2シータースポーツカーを構想。そうして生まれたC1型の“コルベット”は、現行モデルのC8型とは全く異なり、直列6気筒エンジンをフロントに搭載した。“コルベット”を象徴するV型8気筒エンジン(以下、V8)を積むようになるのは、55年のことだ。

そして、“コルベット”を本格的な高性能スポーツカーへと育てた中心人物が、後に「コルベットの父」と呼ばれるゾーラ・アーカス=ダントフ(Zora Arkus-Duntov)だった。53年に初代“コルベット”を目にしたダントフは同年GMへ入社。モータースポーツを通じた性能向上を推し進め、その後の“コルベット”の方向性に大きな影響を与えた。

現在の“Z06”につながる名前が初めて登場したのも、この時代だ。1963年、2代目のC2型“コルベット”に設定した“Z06”は、強化サスペンションや大型ブレーキ、大容量燃料タンクなどを備えた、レース参戦を念頭に置く高性能パッケージという建て付けだった。“Z06”は、単にエンジン出力を高めた上位グレード名として始まったわけではなく、“コルベット”のサーキット性能を追求するために生まれた名前であった。

その後、“コルベット”はC3〜C7型と世代を重ねる。エンジンやシャシー、電子制御技術はそのたびに進化し、性能を高めるための方法も変わっていった。例えば90年に発売したC4型“コルベット ZR-1”では、イギリスの自動車メーカー「ロータス(LOTUS)」が開発に携わったDOHC32バルブの5.7L V8“LT5”を搭載。従来の“コルベット”とは異なる、高回転型のエンジンを採用した。97年登場のC5型では、エンジンを車体前方に置きながら、トランスミッションを後方へ移すトランスアクスル方式を導入。重量物を前後に分散して車体のバランスを整え、走行性能を高めた。

こうして“コルベット”は時代ごとに中身を躊躇なく変えてきたが、初代C1型から7代目C7型まで、フロントエンジン・リアドライブ(FR)というレイアウトだけは変わらなかった。

では、なぜ“コルベット”は60年以上にわたってFRレイアウトを採用し続けたのか。“コルベット”は、純粋なレーシングカーでも、少量生産のエキゾチックカーでもなかった。大手量産車ブランドである「シボレー」が手掛けるスポーツカーとして、高い性能とともに、価格や実用性、生産性を成立させることも求められた。その条件の中で、乗用車として定石のレイアウトかつ長年培ってきたV8をフロントに搭載する構成には合理性があった。

結果、「シボレー」は、FRレイアウトのまま性能を高める方法を突き詰めていった。C6、C7でもこの基本構成を受け継ぎながら、前記したトランスアクスルレイアウトの継承のほか、シャシーやサスペンション、空力、電子制御を進化させ、フロントにエンジンを積んだまま“コルベット”を限界まで磨き続けた。

リア・ミッドシップへの布石

一方で、リア・ミッドシップレイアウトの可能性を知らなかったわけではない。ダントフは1960年代から実験車“CERV”などを通じて同構造を研究していた。その後も「シボレー」はさまざまなミッドシップの試作車を製作し、量産化の可能性を探っている。“コルベット”は、リア・ミッドシップという選択肢を半世紀以上前から手の内に収めていた。

転機が訪れたのは、C7型までFRレイアウトの性能を突き詰めたときだった。さらなる走行性能を求めるうちに、エンジンを前方に置くという基本構成そのものが制約になり始めた。大きな出力を駆動輪へ効率よく伝えるには、重量物であるエンジンを後輪に近づけ、より多くの荷重をかけられるレイアウトが有利になる。また、エンジンをキャビン後方へ移すことで、ドライバーを前輪に近い位置へ配置でき、車両の動きをより把握しやすくなる。さらに、ノーズの高さや形状の自由度も増し、前方視界や空力性能の向上にもつなげられるなど、利点は多い。

そして2019年、8代目となるC8型ではついにエンジンをドライバーの後方へ移した。量産“コルベット”初のリア・ミッドシップ化だ。厳密には、C7型もエンジンを前車軸より後方に置く“フロント・ミッドシップ”レイアウトを採用しており、重量物を車体中央側へ寄せるメリットはすでに享受していた。しかし、大きく変わったのが前後重量配分だ。C7型の約50:50に対し、リア・ミッドシップへ転換したC8型は約40:60。駆動輪である後輪へより多くの荷重をかけることで、大出力を路面へ伝えるトラクション性能が高まった。

GMは、60年以上続いたフロントエンジンを守ることより、“コルベット”をさらに速くすることを選んだ。半世紀以上前からミッドシップを研究していた歴史を考えれば、C8は突然別のクルマになったのではなく、長年温めてきた構想を、性能上の必然とともにようやく実現したモデルともいえる。

鼻先は短く鋭利で、ボディー後方の筋骨隆々な厚みはまさにミッドシップならではのサイドビューを形作る。流麗という言葉は似合わず、鋭く吊り上がったヘッドライトや豪快に織り込まれた直線的な造形は、その暴力的性能とアメリカン・スポーツとしてのプライドを象徴しているようで、なんとも心をくすぐられるエクステリアだ。

リアフェンダー前方に備わる、エンジン冷却用の大型エアインテークの造形は印象的で、意図したのか否か、ボディーに映る景色を「Z」の文字のように収束させる。コンバーチブルモデルであるため、電動のリトラクタブル・ハードトップを備える。なお、クーペモデルでも脱着式ルーフパネルでオープンエアを楽しめる。

C8型“コルベット”をベースに、サーキット性能を徹底的に追求したのが“コルベット Z06”だ。“Z06”という名前は1963年のC2型で一度途絶えた後、2001年のC5型で復活。以降、C6、C7、C8へと受け継がれてきた。その役割は一貫していても、性能を引き出す方法は世代ごとに異なる。C5型“Z06”は5.7L 自然吸気V8、C6型では7.0L自然吸気V8、C7型では6.2L V8にスーパーチャージャーを組み合わせた。

本記事の主役であるC8型では、エンジンの位置だけでなく、その中身まで大きく変えた。搭載する“LT6”は5.5L V8で、今や希少な自然吸気を採用する。最大の特徴は、高回転まで一気に回してパワーを引き出す出力特性だ。

その性格を支える一つが、DOHC(ダブル・オーバーヘッド・カムシャフト)に変更したエンジンバルブ駆動方式だ。同機構は、吸気側と排気側それぞれにカムシャフトを設け、バルブの開閉を個別に制御する方式で、“LT6”では1気筒あたり4バルブ、計32バルブを備え、高回転域でも多くの空気を効率よく取り込み、排気できる。現在では一般的なクルマにも多く採用される方式だが、大排気量・低回転・大トルクというアメリカ的なエンジン思想には、通常のC8型“コルベット”が採用していたOHV(オーバーヘッド・バルブ)方式が合理的だった。

もう一つは、エンジン内部でピストンの上下運動を回転運動に変えるクランクシャフトに、フラットプレーン方式を採用したことだ。一般的なクロスプレーンに比べてクランクシャフトを軽量化しやすく、回転慣性を抑えられるため、エンジン回転を素早く上下させやすい。また、排気干渉を抑えやすく、高回転域での吸排気性能を追求しやすい。エンジンの出力はトルクと回転数の掛け合わせで決まる。十分なトルクを保ったまま高回転まで回せれば、それだけ大きな出力を得られる。そのため、フラットプレーンは、「フェラーリ(FERRARI)」の歴代V8モデルをはじめ、高性能スポーツカーやレーシングカーでも採用されてきた。一方で振動面では不利で、滑らかさや快適性を確保しにくい。GT的な快適性も求められてきた伝統的なアメリカンV8では、振動を抑えやすいクロスプレーンが主流だった。

2020年、市販“コルベット Z06”に先んじて、“C8.R”が5.5LのフラットプレーンV8 DOHCエンジンを「デイトナ24時間レース」で実戦投入した。その思想と基本構成は“コルベット Z06”の“LT6”へ色濃く受け継がれた。同モデルはレーシングエンジンを市販車用に仕立て直したような成り立ちを持つだけに、本国仕様で最高出力670hp(679PS)を8400rpmで発生し、レブリミットは8600rpmに上る。大排気量V8の太いトルクで押し出す従来の“コルベット”とは趣を異にし、高回転まで回してパワーを引き出す。その成り立ちからして、それまでの“コルベット”とは異質なエンジンだと言える。

空力・冷却性能の向上を図るため、フロントやリアの開口部の拡大など、エクステリアにも手を加えた。特筆すべきは、フロント275mm、リア345mmの極太タイヤを収めるために拡幅したボディーだ。全幅は通常モデルから85mm拡大した2025mm。低く構えたプロポーションでありながら、その横幅がもたらす存在感は圧倒的で、実寸以上の大きさと威圧感すら覚える。追越車線を走行中、もしバックミラーにこの顔が映れば、おもむろに左ウインカーを出してしまうだろう。

正真正銘
ドライバーのためのコックピット

しばしば「戦闘機」に例えられるエクステリアだが、そのモチーフをより色濃く感じさせるのはコックピットだ。「ドライバー中心のレイアウト」自体、業界ではよく聞く謳い文句。しかし“コルベット”を前にすれば、その多くが看板倒れにさえ思えてくる。

運転席と助手席の間には、さながら間仕切りのようなセンターコンソールがそびえる。センターディスプレーをはじめ、各種スイッチは大きくドライバー側へ傾き、通常は助手席側の空調吹き出し口付近にあるべき操作系までドライバーに向いている。5月のマイナーチェンジでは、C8型の象徴でもあったセンターコンソール上の縦一列に並ぶ空調スイッチが廃され、モニター下へ移動。メーターとセンターディスプレーを大型化するとともに、ステアリング右側には6.6インチの補助タッチスクリーンを新設した。走行距離やパフォーマンス・トラクション・マネジメントなど、走りに関わる情報をドライバーのすぐそばに集約したことで、コックピットのドライバーオリエンテッドな性格はいっそう強まった。

“コルベット”が実現したのは、正真正銘の「ドライバー中心のレイアウト」。操作の主導権は徹底して運転席に座る者に委ねられている。実際に助手席へ移ってみると、運転席とは対照的に、視界は同じ室内とは思えないほど殺風景だ。パッセンジャーの操作介入を潔く見切ることで、ドライバーがクルマの全てを掌握するような万能感を実装するに至ったというわけだ。これほど豪快な取捨選択ができるメーカーは、他にあるだろうか。

一般道では「生殺し」

運転席に乗り込み、エンジンを始動させる。直後、野太い轟音があたりに響き渡る。暖機を終えても、その音量はほとんど変わらない。駐車場から出庫する際の20km/h以下の低速域ですら、「ドロドロ」という重低音を盛大に放つ。アイドリング中に体を伝う振動は、フラットプレーンの特徴だ。

まずは一般道を流す。「生殺し」とでもいうべきか、どうにももどかしい。街中では、常に手加減を強いられているような印象で、アクセルペダルを体感で2割も踏み込まないうちに、あっけなく法定速度へ達してしまう。それでもクルマは絶えず「もっと踏め」と語りかけてくる。

底知れない余力

高速道路へ移動し、走行モードを“トラック”へ。料金所を越え、合流で一気にアクセルを踏み込む。伸びやかな低音を響かせながら、猛烈な勢いで速度を重ねていく。磁性流体を用いた電子制御ダンパー“マグネティックセレクティブライドコントロール”によって瞬時に引き締められた足回りは、強烈な加速を受けても姿勢変化の体感はほとんどゼロに等しく、そこらのスポーツクーペの比ではないくらいにビタリと路面に張り付く。ステアリングもずしりと重みを増し、旋回ではわずかな操作にもノーズが正確に反応する。それまでペダルストロークでもって制動力を調整していた感覚のあったブレーキは、踏力で調整する性格が強まり、よりレーシーで明瞭なタッチに変わった。

足回りは総じて硬いが、ただむやみに硬められているわけではない。“ツアー”モードへ戻せば段差のいなしも巧みで、あれほどドライバーだけを優遇したインテリアの設えとは裏腹に、デートカーとしても成立する乗り心地の良さが確保されている。

印象的なのは、路面との接地感の鮮明さだ。砂利の一粒一粒まで把握できそうなほど、タイヤがいま何を踏み、どれほど路面を捉えているのかが手に取るように分かる。快適性のために路面との対話を遮断するのではなく、不要な衝撃だけを丸めながら、必要な情報はドライバーへ届ける。そのさじ加減は見事というほかない。

乗り味のカスタマイズ性も、大きな魅力の一つだろう。“Z”モードでは、エンジンレスポンスやトランスミッションの変速特性、ステアリングの重さ、サスペンションの硬さなどを段階的に調整できる。例えば「サスペンションは柔らかく、ステアリングも軽く、排気音は最大に」といった“いいとこ取り”も可能で、それぞれの変化幅もかなりある印象。自分の考える「最高のGT」の乗り味を追求するのも良いだろう。好みの組み合わせは、ステアリングに備わる“Z”ボタンを押せばいつでも呼び出せる。

試乗中、一貫して感じたのは、どこまで行っても底知れない余力だ。加速性能然り、旋回性能然り、こちらが探ろうとするほど、そのさらに先に力が残されている。その感覚は程度の差こそあれ、多くの高性能スポーツカーにも当てはまることだろう。しかし、“Z06”はその底があまりにも深い。とりわけ、高回転型エンジンの本領を日本の公道で引き出すのは難しい。ある程度の長さがある直線でも8000rpmまで回し切れる場面は限られ、ましてレッドゾーン付近まで使いながら、立て続けにシフトアップしていくような機会などほとんどない。アクセルを踏み切れないままコーナーが迫り、ようやく回転が高まったと思えば、次の瞬間には速度を緩めなければならない。クルマの限界を探るどころか、こちらが先に引き返すことになる。日本の公道は、“コルベット Z06”の実力を受け止めるにはあまりにも狭い。

それでも、高回転型V8とオープンスタイルが織りなす官能性は極上だ。回転数の上昇とともに表情を変えていくエンジンサウンドを、ルーフを開け放って全身で浴びる。リアウインドーだけを開けることもでき、クローズドのまま背後から響くV8サウンドをより鮮明に楽しむことも可能だ。オープン時は、高速域になると風の巻き込みもそれなりにある。だが、それもまた一興。快適に速く走るだけでは味わえない、どこか荒々しい走行体験まで含めて“Z06”の魅力だ。

「形式」ではなく
「目的」への忠誠

1963年にレース参戦を見据えて誕生した最初の“コルベット Z06”から約60年以上。エンジンも違えば、シャシーも違う。フロントにあったエンジンはドライバーの後ろへ移り、伝統的なOHV、クロスプレーンV8という形式からも離れた。それでも“Z06”の名前が担う役割は変わっていない。その時代の“コルベット”をベースに、走行性能を徹底的に追求することだ。そこに非合理的な制約やこだわりは持ち込まない。振り返れば、“コルベット”が70年以上にわたって受け継いできたものは、特定のレイアウトやメカニズムではなかったことが分かる。直列6気筒からV8へ。必要とあればDOHCを使い、FRレイアウトを突き詰めた先ではリア・ミッドシップへ。そして“コルベット Z06”では、アメリカンV8の定石からも踏み出す。

「ポルシェ(PORSCHE)」“911”が基本的なレイアウトを守りながら、「“911”らしさとは何か」を問い続けてきたスポーツカーだとすれば、“コルベット”の歩みはもっと豪快で、拍子抜けするほどに柔軟だ。

C8型への転換は、一見すれば“コルベット”が伝統を捨てた出来事にも映る。しかし、その歴史を振り返れば、むしろ逆なのだろう。その時代の「シボレー」が考える最高のスポーツカーであり続けるために必要なら、長年続いてきたテンプレートさえためらいなく覆す。それもまた、“コルベット”が繰り返してきたことだ。

“コルベット”の伝統は形式ではなく目的に宿る。受け継いできたのは、「何で作るか」ではなく、「何を作るか」。伝統とは必ずしも、変わらないことではない。

車両情報

「シボレー」“コルベット Z06 コンバーチブル 3LZ”

外装色:ブラック
車両本体価格:3020万円
全長×全幅×全高:4685×2025×1225mm 
ホイールベース:2725mm 
車両重量:1740kg 
駆動方式:MR
パワートレイン:ICE(5.5L V型8気筒DOHC自然吸気エンジン)
トランスミッション:8速デュアルクラッチ
最高出力:679PS(649hp)/8550rpm
最大トルク:623Nm/6300rpm


PHOTOS:NINA NAKAJIMA

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