ファッション

クラシックの象徴に「ひねり」を 新型「ミニ」“クーパーSE ポール・スミス エディション”試乗記

イギリスを代表する2つのブランドが、再びタッグを組んだ。4月に日本上陸した「ミニ(MINI)」の“クーパーSE ポール・スミス エディション”は、イギリス発の自動車ブランド「ミニ」とイギリス人デザイナー、ポール・スミス(Paul Smith)による新たなコラボレーションモデルだ。2019年に欧州で発売し、24年に日本にも導入したBEV(バッテリー電気自動車)“クーパーSE”をベースに、特別なカラーリングやアイコニックなディテールを施した。本記事では、その遊び心あふれる佇まいを写し取りながら、約28年ぶりとなる市販コラボレーションモデルの魅力に迫る。

四半世紀を超える
コラボレーションの軌跡

ファッションデザイナーであるポールの名は、ブランド「ポール・スミス(PAUL SMITH)」をはじめとして、鮮やかなマルチカラーのストライプや花柄とともに語られることが多い。しかしそのクリエイションの核にあるのは、郵便局員のワークコートや、故郷イギリス・ノッティンガムのツイードジャケットなど、伝統的なイギリスのメンズウエアに根ざしたシンプルでクラシックな仕立てだ。奇をてらった発明ではなく、すでに存在するものを、視点をずらして見つめ直し、見慣れたものに新しい表情を与えてきた。

両者の関係は、「ミニ」が未だイギリスの自動車メーカーのローバーが展開するモデルの一つだった1998年までさかのぼる。最初のコラボレーションモデルは、ポールが考案した鮮やかなブルーのボディーカラーをまとった初代“ミニ ポール・スミス エディション”で、世界1800台限定で販売した。翌99年には“クラシック・ミニ”誕生40周年を記念したワンオフカーを発表。BMWが「ミニ」ブランドを残してローバーを売却した後も両者の交流は途切れず、2021年にはポール自身が「不可欠」と判断したコンポーネントだけで構成したミニマルなコンセプトカー“ミニ ストリップ”も発表した。さらに22年には、初代“ミニ ポール・スミス エディション”を電気自動車として再解釈した“リチャージド バイ ポール・スミス”を披露した。そして約28年の時を経て、その関係が再び市販モデルとして結実した。

そして本記事で取り上げる新型“ミニ ポール・スミス エディション”シリーズは、25年10月に開催された「ジャパンモビリティショー2025」で世界初公開し、26年4月に、5ドアやコンバーチブルモデルに先駆けて“クーパーSE ポール・スミス エディション”が日本に上陸した。

小さなボディーに詰め込んだ
「遊び心」

「ミニ」といえばコンパクトなサイズ。同モデルは3ドアモデルで、1959年の登場以降、約67年の歴史の中で、モデルチェンジを重ねるたびにボディーサイズを拡大してきたが、数値で見れば現在でも十分にコンパクトだ。ガソリンモデルとプラットフォームを共有せず、ホイールベースは現行“クーパ S”と比較して30mm長い。BEV専用設計ならではの、伸びやかなプロポーションを誇る。

扱いやすいサイズ感に、角を落とした愛らしいフォルムと、くりっとした丸目。いつ出会っても、どこか柔和な気分にさせてくれる伝統的なフォルムは今でも健在だ。そんな「おもちゃ箱」から飛び出してきたかのようなデザインに、ポール・スミスならではの遊び心を随所に散りばめた。

試乗車のボディーカラーは、往年の「ミニ」の人気色へのオマージュである“インスパイアード・ホワイト”。ルーフとドアミラーには、ポール・スミスの出身地に由来する“ノッティンガム グリーン”を配した。フロントとリアの「ミニ」エンブレムに採用した“ブラック ブルー”も、“ポール・スミス エディション”ならではの彩色だ。

スポーティーグレードを象徴する“S”の文字も、同モデルではブラックアウト。遊び心にあふれた世界観には、「速さ」の誇示は必要ないのだろう。

一方で、一目で特別なモデルだと分かるディテールも忘れない。運転席側のルーフ後端に施した“シグネチャー・ストライプ”をはじめ、ホイールのセンターキャップやテールゲートハンドルにも「ポールスミス」のハンドライティングロゴをあしらった。

2つのブランドが紡ぐ、1つの個性

ドアを開けると、ハンドライティング風の“hello”が地面に照らし出される。乗り込む際に必ず目に入るサイドシルには、同モデルのテーマに掲げた“Every day is a new beginning(毎日が新しい始まり)”の刻印を施した。ドアを閉めてしまえば、これらの工夫は隠れて見えない。クルマに乗り込む瞬間のためだけに用意された小さな仕掛けに、思わず頬が緩む。


手触りの良いファブリックで統一したインテリアは、ドリンクホルダーやアームレストをはじめ、随所にオーバル形のモチーフを取り入れ、ミニらしいポップな世界観に仕上げている。ダッシュボードとドアパネルのニット素材には、「ポール・スミス」らしいストライプ柄をモノトーンで差し込んだ。シートは“ナイトシェード・ブルー”のスポーツシートに、ショルダーとヘッドレスト部だけニットのテキスタイルを採用。座面とシートバック下部はベスキン(合成皮革)とのコンビネーションで、高級感と遊び心のバランスが絶妙だ。ステアリングホイールのナイロンベルト製スポークには、シグネチャー・ストライプをモチーフにした鮮やかな飾り縫いを施した。フロアマットの端には、ポール本人が描いたうさぎのグラフィックを配し、まるで「おしゃれは足元から」と言わんばかりに、細部にまで気を配っている。


初代モデルから続くセンターメーターやトグルスイッチは、現在も「ミニ」のアイコンとして、デジタル化の流れを受けながらも引き継がれている。今ではセンターメーターは240mmの高精細な有機ELディスプレーへと姿を変え、空調の操作を含めたほとんどの機能を集約する。ゲーム画面のようにポップなUIを採用するほか、往年の「ミニ」のアナログメーターを模したものなど、複数のデザインから選べて、パーソナルモードを選択すれば、“ポール・スミス エディション”専用の背景も3種類から選択可能だ。

興味深いのは、「ポール・スミス」のエッセンスが、主張しすぎることなく空間に溶け込んでいる点だ。ブランドをよく知らない人が見れば、車体に刻まれた「ポール・スミス」のロゴ以外、どこにその要素があるのか、すぐには気づかないかもしれない。隅々にまで行き渡って一貫した世界観は、2つのブランドが“遊び心”という共通の個性を持ち寄ったからこそ生まれ得たものだ。

まるで「アトラクション」

同モデルは54.2kWhのバッテリーを床下に搭載し、システム合計出力約218PS(160kW)、330Nmで、モーターが前輪を駆動する。エンジン音や振動はない。車内はBEV特有の静けさに満ちる一方、「ミニ」特有の機敏な走行感は、電動化を経てもなお健在だ。ダイレクトなアクセルレスポンスとステアリングフィールが生む、研ぎ澄まされた走行感覚は、まさに同ブランドが誇る「ゴーカートフィーリング」そのものだ。

BEVでは、その静粛性や滑らかな乗り心地を生かし、ラグジュアリーな世界観を追求するモデルも多い。だがこの一台から滲み出るのは、面白さや楽しさだ。モードを切り替えるたびに、それぞれのキャラクターに合わせた効果音が鳴るほか、アンビエントライトの演出も変化する。最もスポーティーな“ゴーカート”モードではドライバーをやる気にさせる鮮烈な赤色に、航続距離を最大化する“グリーン”モードでは安らかな気分を誘う緑色に変わるなど、乗員をそれぞれの世界観へと巧みに引き込む。静けさが生む"余白"に、遊び心をこれでもかと注ぎ込んだ。

特に“ゴーカート”モードでは、アクセルを踏み込むと、SFチックな浮遊感のある加速音が車内に響きわたる。走行速度ではなく加速度に連動するため、低速からでも音を楽しめる。まるでテーマパークのアトラクションに乗っているようで、自然と笑顔になってしまう演出の一つだ。

日常域での快適性にも触れておきたい。全長3860mm、全幅1755mmの取りまわしやすいサイズに加え、BMWグループ譲りの高精度な運転支援機能は、日本の道路環境との相性がいい。“アクティブ クルーズ コントロール(ストップ&ゴー機能付)”も用意する。高速道路の渋滞時には、30秒程度の短い停車からの再発進であれば、ステアリングに軽く手を添えているだけで済む場面も多い。停止・加減速時には、車体の前後の動きを意識させることもあるが、それでも長距離移動のストレスは大幅に抑えられている。

ご機嫌でポジティブ

エクステリアいっぱいに柄をまとわせたり、あるいは削ぎ落としたりと、同コラボレーションの歴史を見ると、モデルごとにアプローチは様々だ。しかし共通しているのは、クラシックの象徴たる「ミニ」への敬意だろう。歴史あるプロダクトを、ゼロから作り変える必要はない。色や柄、素材を変え、細部に小さな仕掛けを忍ばせる。それだけで、見慣れたクルマが少し違って見えてくる。まさに、ポール・スミス自身が掲げる“ひねりのあるクラシック”の精神そのものだ。

至るところに仕込まれた“ユーモア”は、実用性には一切寄与しない。その代わり、乗員を少しだけ前向きな気分にさせる。「日常に必要なのは、実用性だけじゃない」。最新の“ポールスミスエディション”は、そんな声すら聞こえてきそうなほどに、ご機嫌でポジティブなクルマだった。

車両情報

「ミニ」“クーパーSE ポール・スミス エディション”

外装色:ノッティンガム・グリーン、インスパイアード・ホワイト 
車両本体価格:598万円
全長×全幅×全高:3860×1755×1460mm 
ホイールベース:2525mm 
車両重量:1640kg 
駆動方式:FF 
パワートレイン:BEV(モーター) 
バッテリー総電力量:54.2kWh 
航続距離:446km(WLTCモード) 
システム最高出力:218PS(160kW)/7000rpm 
システム最大トルク:330Nm/1000〜4500rpm


PHOTOS:RYOHEI HASHIMOTO

関連タグの最新記事

ファッションの最新記事

最新号紹介

WWDJAPAN Weekly

長寿&人気の販売員特集 ファッション&ビューティのトップ販売員20人の今【WWDBEAUTY付録:「WWDBEAUTY ヘアサロン版ベストコスメ 2026」結果発表!】

「WWDJAPAN」8月24日号は、毎年恒例の人気企画「販売員特集」。ファッションとビューティ、業界きってのえりすぐり20人に、素顔と接客の流儀、販売員としての矜持を聞きました。販売業は人手不足という現実に直面する中で、構造的な変化のただ中にあります。数万、数十万単位のフォロワーを抱えるインフルエンサー販売員が現代版のカリスマ店員として台頭し、地方の郊外モールから等身大の魅力で驚くほどの売り上げを…

詳細/購入はこちら

CONNECT WITH US モーニングダイジェスト
最新の業界ニュースを毎朝解説

前日のダイジェスト、読むべき業界ニュースを記者が選定し、解説を添えて毎朝お届けします(月曜〜金曜の平日配信、祝日・年末年始を除く)。 記事のアクセスランキングや週刊誌「WWDJAPAN Weekly」最新号も確認できます。

ご登録いただくと弊社のプライバシーポリシーに同意したことになります。 This site is protected by reCAPTCHA and the Google Privacy Policy and Terms of Service apply.

メルマガ会員の登録が完了しました。