ステランティスが率いるフランスの自動車ブランド「DSオートモビル(DS AUTOMOBILES)」は5月13日、Cセグメント5ドアハッチバック“DS4”の改良モデル“ナンバー4”を日本で発売した。同車は、1月に「東京オートサロン2026」で日本初公開したモデル。先代の“DS4”は、2022年1月にパリの「第37回国際自動車フェスティバル」で「モースト ビューティフル カー オブ ザ イヤー」を受賞したことでも知られる。“世界一”の称号を持つ美しさを、さらに磨き上げた同モデルの最上級グレード“エトワール ハイブリッド”に試乗し、フランス車ならではの造形と走りの魅力を読み解く。
「シトロエン」から独立した
「DSオートモビル」
「DSオートモビル」は、同じくステランティスの「シトロエン(CITROEN)」から14年に独立した自動車ブランドで、1955年に「シトロエン」がさらなる美しさを追求し、先進技術を注ぎ込んだラグジュアリーモデルの“DS”シリーズに原点を置く。丸みのあるデザインで可愛らしさが特徴で、300万円台からラインアップする「シトロエン」に対し、500万円台からと高価格帯な同ブランドは、より装飾的なデザインでエレガントに昇華しながら、上質な乗り心地を備えるプレミアム・フレンチ・ブランドという位置付けだ。
パリ仕込みの
“デコラティブ・デザイン”
同モデルは、一般にコンパクトからミディアムクラスのボディータイプを指すCセグメントに分類される。取り回しやすいサイズながら華奢な印象はなく、デコラティブな要素を組み込み、他国のどのメーカーにも似つかない特有の存在感を放っている。外装色は“カシミヤ”。何とも洒落たネーミングだ。丁寧に舗装された丸の内のアスファルトに溶け込むブルーグレーは、景観との調和を重んじるフランス譲りのセンスをにじませる。

対面してすぐに目に留まったのは、ハッチバックらしくないとも言える伸びやかなプロポーションだ。1495mmの全高は、同様の輸入車に比べて特別低くない数値だが、リヤエンドへ向かうルーフラインが流麗に収められており、サイドロアのブラックパーツや鋭く切れ込むクリース、テールを摘んで後ろへ引っ張るかのようにシワを寄せるラインが、ボディーの厚みを引き締めて全長をより長く見せる。標準装備の19インチホイールの効果もあり、相対的に全高を低く、ややスポーティーなテイストを加えながら、全体をスタイリッシュに仕上げている。

フロントビューはとりわけ個性的で、ホイールアーチ付近まで足を伸ばしながら、左右いっぱいに走る直線のライトが、横幅を強調して安定感のある構え。中心に向かうにつれてステッチを思わせる破線へと変わり、ピッチも次第に細かくなることで、中央の光る“DS”ロゴへと視線が導かれる。光の演出の芸が細かい。

リヤガラスを逆台形型にすぼめるDピラーに、三角形が密集したテールライトなど、リヤからの眺めも独特だ。中央に新たに配した“DS AUTOMOBILES”のネームバッジのフォントには、遊びごころが垣間見える。
そぎ落とすことなく、重ねられたディテールの数々。情報量は多いが破綻させず、先鋭的かつエレガントにまとめられている。
「突き抜けた」造形美
アルカンターラや肌触り滑らかな合成皮革、シボ加工のソフトパッド、ストライプ状のメッシュ生地など、表情豊かな素材が織りなすコーディネートは小慣れた印象で、それらをつなぐ端正なステッチワークと、緻密に掘り込まれたサテンメッキの加飾が、自然と「サヴォアフェール」という言葉を想起させる。なかでも後者は、ピラミッド状の突起を規則的に並べた「クル・ド・パリ」と呼ばれるギョーシェ彫りの一つで、宝飾品や時計に用いられてきたフランス伝統の意匠だ。前記したテールライトをはじめ、空気清浄機能を持つ“Dエア”のルーバーや、ブラインドスポット検知の菱形ライトなど、この造形から着想を経た幾何学形を随所に落とし込んでいる。
音量を示すアイコンに見慣れない三角形のロゴを用いたり、ウインドースイッチもドアトリムに沿って垂直に配置して、装飾の一部のように配置するなど、操作系に慣れが必要なのは確かだ。したがって「機能美」という言葉は当てはまりにくい。ただし、「DSオートモビル」はその前提を織り込み済みだろう。
ズームアップでの撮影では、「これはクルマの一部なのか?」と思うほど、深い陰影が生み出すソリッドな造形美が印象的だった。彼らが追い求めたのは、機能に形態を従わせるプロセスでは到達できない美しさ。実現したい形態に機能を擦り込ませたような「造形物としての美しさ」なのだ。
意匠だけでは終わらない実力

美しいものには気難しさが付きまとう。身構えながらも走り出したが、1時間とかからないうちにその通説は完全に打ち破られた。
同モデルはシリーズ・パラレル方式のハイブリッドで、充電が十分で、時速30kmまでであればモーターのみで滑るように走る。エンジンの始動を意識するタイミングは少ない上、静粛性も高く、前後ともに2枚のガラスで樹脂を挟み込んだ“ラミネーテッドサイドウィンドウ”を採用した車内は、高速巡行時やトンネル走行時も極めて静かだった。
ステアリングの手応えはかなり軽く、センター付近のゆとりを広く設けている。“ノーマル”モードでは、ステアリングもアクセルレスポンスもゆったりしているため、個人的には“スポーツ”モードがちょうど良い。直進安定性は抜群で、高速域でも車体が素直にライン内に乗り、過度な修正舵を必要としない。いわゆるオン・ザ・レール感のあるフィーリングだ。
極め付けは、エクステリアのイメージを崩すことのない上質な乗り味だ。先代の“DS4”で搭載していた、路面をカメラでスキャンしながら、サスペンションの減衰力を最適化する“DSアダプティブスキャンサスペンション”は引き継いでいないが、驚くほどにフラットで心地よい。路面からの細かな入力は角を丸めていなし、大きな凹凸に対しても1〜2回ほどのストロークで車体を抑え込む。柔らかすぎず、芯を残したまま整えられている。
レーンキープ機能に関しては、白線認識にムラがあったり、車線内で右寄りを走行したりと、日本の道路環境との相性が気になる場面はある。ただそれを補ってあまりある走りの安定感のおかげで、大きな不満にはつながらなかった。
同ブランドは他メーカーに先駆けて「チャットGPT」を組み込んだ車載システム「チャットGPT インテグレーテッド イン DS アイリス」を全モデルに搭載する。従来の音声認識AIと異なり、決まった文言に反応するのではなく、クルマと自然に会話ができる点が特徴。本試乗では体験できなかったが、旅先で訪れるべき場所や食事について尋ねたり、その料理のレシピを聞いたりもできるそうだ。
スニーカーでなく
あえてドレスシューズを選ぶ

スリムなスーツを着れば体の動きは制限され、ピンヒールを履けば歩きづらくなるように、ファッションとは実用性だけでは測れない側面を持つもの。それでもなお人が着飾り続けるのは、そこにしか宿らない美しさがあるからだ。一方で、厳しい安全基準のもと、常に操作の正確さが求められるクルマにおいては、非実用的な要素はたちまち欠点とされる。そこに同様の精神を持ち込むのは容易ではない。しかし「DSオートモビル」は、その難題を成立させた数少ない存在だ。
本試乗を終えて思い浮かんだのは、ドレスシューズだ。美しいシルエットを形づくる一方で、足型に合うまでは硬く、痛みを伴うこともある。しかし一度馴染めば、歩き心地は意外なほどしなやかで快適になる。このクルマも同様に、しばしば指摘される操作系の分かりづらさは実際、数日触れれば難なく扱える程度。その先に残るのは、純粋な美しさを身にまとう高揚感と、上質でしなやかな乗り心地だ。
“ナンバー4”はブランドのコアモデルとして、「着飾る」選択肢を600万円台で提示したことに意義がある。モビリティにファッションの精神を持ち込んだ、フランスらしい一台。決して「見栄え」重視のクルマではなく、内外装の気品あるデザインと同様に、走りの完成度は高い。
東京都内を中心とした試乗中に「DSオートモビル」のクルマにすれちがったのは一度きり。まだ知る人ぞ知る存在であるからこそ、信号待ちでふと視界に入ったときには思わず目で追ってしまう。ドライバーはどんな洋服を着て、どんな価値観で日常を過ごしているのか。数あるブランドの中から「DSオートモビル」を選び抜いたセンスに、つい想像が膨らんだ。
◼️車両情報
“ナンバー4”
グレード: “エトワール ハイブリッド(ローンチエディション)”
車両本体価格:625万円
駆動方式:FF
パワートレイン:ハイブリッド(1.2Lピュアテックガソリンターボエンジン+1モーター)
トランスミッション:6速DCT
エンジン最高出力:136ps/5500rpm
エンジン最大トルク:230Nm/1750rpm
モーター最高出力:20PS/4264rpm
モーター最大トルク:51Nm/750〜2499rpm
システム合計最大出力:145PS
PHOTOS:KAZUSHI TOYOTA