ファッション

「レクサス」“LC”シリーズが販売終了 鋭く優雅な“感性の象徴”を振り返る

「レクサス」はこのほど、2017年に発売したフラッグシップ・クーペ“LC”シリーズの販売終了を公式HPでアナウンスした。同シリーズは「Always On」の理念の下、これまで一度もフルモデルチェンジを経ずに年次改良によって完成度を高めてきた。チーフエンジニアは佐藤恒治トヨタ自動車社長(4月1日から副会長兼CIO)で、パワートレインにはハイブリッド以外に、ブランド最後とも噂されるV型8気筒自然吸気エンジンを搭載した純ガソリンモデルをラインアップしていたことでも知られる。筆者は20年に発売し、昨年8月に最後の改良を終えたオープントップモデルの最新型“LC500 コンバーチブル”に試乗。エクステリアや走行性能の魅力を振り返りながら、クルマの電動化時代に各メーカーが追い求める “走りの楽しさ”の源泉に迫った。

今なお存在感は衰えない
ダイナミックなエクステリア

12年の北米国際自動車ショーで初公開したコンセプトカー“LF-LC”をベースにしたエクステリアは、同コンセプトモデルのイメージをほとんどそのままに市販化された稀有なデザインで、発売以来、刷新は1度も行われなかった。全長4770mm、全幅1920mmの堂々としたサイズに2+2レイアウトを贅沢に収め、ワイド&ロー、ロングノーズ・ショートデッキの伝統的なクーペスタイルを踏襲。目尻を吊り上げたヘッドライトから涙のように伸びる造形や、合わせ鏡の原理を利用したテールライトなどの細部の意匠が、発売から9年たった今でも新鮮に映る。フロントに大きく空いた“スピンドルグリル”も一世代前のデザインアイデンティティーだが古さを感じさせず、顔つきに威風堂々としたムードを加えている。

コンバーチブル特有のファブリックルーフは、シワがよらないように最適な張り具合に吟味し、内部のフレーム形状が浮き出ないように配慮。ソフトトップながらもルーフラインはなだらかで、オープンモデルだからといって妥協はない仕上がりだ。オープン時にはトップが完全に格納され、テールエンドまでが滑らかな面でつながり、伸びやかなプロポーションが際立つサイドビューが形作られる。

鋭さと流麗さを併せ持ったフォルムに、独創性を随所に織り込むことで、走りのコンセプトである「より鋭く、より優雅に」をダイナミックに形にしつつ、日本国内ではいまだ競合モデルを見ない「ラグジュアリー・クーペ」のスタイルと独自性を巧みに表している。

世界に誇るべき
ジャパニーズ・エレガンス

革の香りが心地よく広がるインテリアは、「豪華絢爛」よりも「優雅端麗」という言葉がよく似合う。見渡す限りを本革で覆い、上品な艶消しの金属パーツをアクセントに散りばめた落ち着きある空間に、枯山水を思わせるドアトリムのスリット造形や、端正なステッチワークなどの細部が主張しすぎることなく調和して、丁寧な仕立てが日本車らしいエレガンスを感じる。運転席を包み込むように仕切りを設けた左右非対称のレイアウトが、ドライバーの高揚感を引き立てる設計だ。ベルトガイドの加飾やヘッドレスト後ろに落とし込んだエンボスのロゴなどは、内装が露出するコンバーチブルのために仕込んだディテールで、オープン時にも品格を崩さない工夫がされている。

注目すべきは、金属調の縁取りを施した円形の液晶メーターだ。ステアリングのボタンを押すと物理的にスライドし、表示する情報とグラフィックが切り替わる。心をくすぐるこの可動式メーターは、「レクサス」の走りの頂点に君臨する“LFA”から受け継いだもので、他メーカーのどのモデルにも見られない装備の一つ。デジタルとアナログを巧みにかけ合わせたデザインは、「レクサス」の現行モデルに引き継がれなかったのが不思議に思えるほど秀逸だ。

最後まで研き続けた
鋭く優雅なフィーリング

ドライバーズシートに乗り込むと、そのポジションは潜り込むように低い。しかし電動シートの調整幅も大きいので、そのままコックピット感を味わうようにスポーティーに座り込んだり、見晴らしを優先して座面を高めに設定したりするのも自由が効く。エンジンスタートボタンを押せば、5.0L の大排気量V8エンジンが回転数を上げながら、ゴロゴロと乾いた音を響かせる。走り出しから高速域まで終始スムーズな加速で、突き上げも少ないが「レクサス」にしては全体的にやや硬めの設定。ステアフィールも舵角に対して素直で、タイトなカーブでも低重心のワイドボディーが踏ん張り、高速域でも不安は一切ない。体を包み込むようにサイドが巻き上がったシートが体をガッチリと支え、ノーズがスイスイと入っていく感覚は快感だ。

ルーフは50km/h以下であれば走行中でも開閉可能。高速走行時には心地よいオープンエアとV8NAの快音をさらに味わえる。高回転域では耳をつんざくような高音ではなく、ブランドらしい品を残した粒感のある低音を聞くことができた。コンバーチブル専用装備の首元のヒーターと、オプションのウインドースクリーンを駆使すれば風の巻き込みもかなり少なく、外気温15度前後の寒空の下でも快適に巡航可能だ。

また、ソフトトップであることを忘れさせるほどの遮音性能と剛性感も魅力の一つだ。後者については、発売後も最後まで改良の手を緩めなかった。トヨタ自動車の研究開発施設「トヨタテクニカルセンター下山」での走り込みから得られたフィードバックをもとに、コンバーチブルモデルではトンネルブレースや床下ブレースによる補強、ドアストライカーの構造変更など、車体剛性の改良を重ねてきた。これらはほんの一例だが、感覚を研ぎ澄まさなければ気づかないほどのマニアックなアップデートを積み重ねている点に、「レクサス」が目指す走りの象徴としてのプライドが垣間見える。ブランドらしい優雅な乗り心地を前提としながら、ドライバーの意図に対して鋭敏に応答する「鋭い走行フィール」は特に、幾度もの研鑽の積み重ねによって築きあげられてきたものなのだ。

今時絶滅危惧種の自然吸気エンジンは、最大出力477馬力、最大トルク540Nmを発生する。この性能を公道で持て余すことはない。ターボの過給を待たずに反応するリニアなアクセルレスポンスと、純粋なエンジンの排気量のみで勝負する“ズルをしない”潔さが生み出すロマンは、“LC”の個性を形作る要素の一つだ。

過去の名車となるには
惜しい存在

ハイブリッド車が大半を占め、BEVを見かける機会も多くなった現代。試乗して浮き彫りになったのは、純ガソリン車特有の一体感だ。今回試乗した “LC”で感じられる、アクセル開度やシフト操作に合わせて呼応する車体の揺れやペダルの振動、排気音には、演出はほとんど組み込まれていない。紛れもない“機械”を操り、エンジンと繋がっている実感が、最近のハイブリッド車やBEVにはいまだ代え難い魅力を放っていた。優雅な世界観とそれら全てがかき立てる高揚感は、電動化時代のクルマが公道で追求するべき、GT・ラグジュアリーカテゴリーにおける“走りの楽しさ”の理想形だと言えるだろう。

「レクサス」誕生時から展開する“LS”が、理想の移動体験を方向づけるフラッグシップだとすれば、“LC”は、理屈を超えた美学を上質な世界観に落とし込んだ“感性の象徴”を担うフラッグシップだった。価格を1500万円台に抑えながら日本車らしい品格と官能性を両立した世界に誇るべき1台。それが過去の名車となるのは名残惜しい。

先日発表された“LFAコンセプト”は、モデル名こそ“LFA”を冠するものの、その特性や発売時期を踏まえると“LC”の役割を継承する存在とも映る。同モデルは、高所得者層を主眼に据えるブランドらしくバッテリーEVとして打ち出され、複数の走行音を選べる演出や“ステアバイワイヤ”など、新世代の運転体験を提示した。ブランドの美学を指し示すフラッグシップが不在となった今、「レクサス」は節目を迎えている。電動化時代に彼らが作り出す、新たな“感性の象徴”が待ち遠しい。

◼️車両情報
“LC500 コンバーチブル”
車両本体価格:1555万円
パワートレイン:5.0LV型8気筒自然吸気エンジン
駆動方式:FR
最高出力:477PS
最大トルク:540Nm
全長×全幅×全高:4770×1920×1350mm

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