PROFILE:(いしかわ・りょう)1975年、静岡県出身。2000年にせーのを創業。04年にメンズブランド「ヴァンキッシュ」をスタート。14年にウサギをアイコンにしたブランド「#FR2」を立ち上げた。25年10月31日付でせーの社長を退任し、RIDを設立。現在は“日本一のフリーター”として、約40社のバイトのシフトに四苦八苦している。愛車は常時10台前後所有
PHOTO:RIEKA TAKAHASHI
“ボンドカー”にちなんで名付けた「ヴァンキッシュ(VANQUISH)」の創業者であり、これまで50台以上の車を乗り継いできた石川涼が、ファッション業界で活躍する“センスのいい人”の愛車を通して、その人ならではの価値観を探る新連載「ガレージおれ」。初回はゲストに先立ち、石川が現在とことんハマっているアメ車の中から、自身の愛車である1970年式「フォード・マスタング・ボス302」を取り上げる。愛車を知れば、“おれ”のスタイルが見えてくる。(この記事は「WWDJAPAN」2026年7月27日号からの抜粋です)
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ロングノーズ・ショートデッキの伸びやかなシルエット、V8エンジンが奏でる地を這うような乾いた咆哮、そして50年以上前に生まれたとは思えない普遍的なデザイン。1970年式「フォード・マスタング・ボス302(1970 FORD MUSTANG BOSS 302)」は、トランザムレースを戦うために生まれた限定生産のホモロゲーションモデルで、アメリカン・マッスルカー黄金期を象徴する1台として、今なお多くの人を魅了し続けている。その流麗なボディ形状は「ファストバック(FASTBACK)」と呼ばれ、映画「ブリット(BULLITT)」でスティーブ・マックイーン(Steve Mcqueen)が劇中で駆った車と同じスタイル。カルチャーのアイコンとして語り継がれる存在だ。今、そんな1台に夢中になっている石川は、「車はアウターみたいなもの」と語る。服も車も、ライフスタイルの延長線上にあるもの。その考え方は、この「マスタング」にも色濃く表れていた。
──なぜ「マスタング」を選んだんですか?
石川涼(以下、石川):ずっと空冷のポルシェに乗っているんだけど、ここ数年は、ヨーロッパ車への熱が全体的に高まって、価格もすごく上がってきた。高くなりすぎると、みんなが手に入れられるものではなくなるから、それがつまらないなと思って。久しぶりにアメ車が新しく感じて買ったら、またこっちもブームになってきちゃった(笑)。いいタイミングで買えたと思う。
──「マスタング」に乗るのは初めてですか?
石川:15年くらい前に1968年式の「マスタング・ファストバック」に乗っていた。それ以来だね。
──この「フォード・マスタング・ボス302」は、どのような仕様ですか?
石川:これはおれがゼロから作った車ではなくて、完成した状態のものを譲ってもらった。形は当時のオリジナルを生かしているけど、メーターがデジタルになっていたり、細かい部分には新しいものが入っている。
──車を買うときに、大切にしていることはありますか?
石川:特にないかもしれない。結局は、ビビッとくるかどうかじゃないかな?みんなそうだと思うけど。
──スペックや走行性能を比較して選ぶわけではない?
石川:おれは、車の性能がどうこうというより、自分がそれに乗ってどういう生活をするかのイメージの方が大事だと思う。どこへ行くのかとか、その車があることでどう生活が変わるかとか。
──この「マスタング」では、どんな使い方を考えていますか?
石川:遠くまで気合を入れて乗るというより、都内をちょこちょこ移動するのにいいなと思っている。見た目ほど大きくないしね。
──クラシックなアメ車なので、大きいイメージがあります。
石川:1967〜70年の「マスタング」や「カマロ」は、実は比較的小さい方。次の年代から急に大きくなるけど、これは日本でも十分乗れるサイズだと思う。
新品とビンテージのレザージャケットくらい
見た目も乗り心地も違う
──現行車とビンテージカーでは、乗ったときの感覚はどう違いますか?
石川:ざっくり言えば、現行車はどれに乗っても乗り心地があまり変わらない。どの車も高性能だし、乗りやすい。一方で、古い車は一台一台に“癖”がある。街で見た人が「何だ、あれ?」となるのも古い車ならではだと思う。現行車では、なかなかそういうことは起きな
いから。新品のレザージャケットとビンテージのレザージャケットくらい、全然違うものだよね。
──“癖”とは?
石川:例えば、乗り心地でいえばヨーロッパの車はカチッとしていて剛性がある感じだけど、アメ車はフワフワしているというか、大雑把な感じがする。昔のアメ車は、広い道を真っすぐ走ることを前提に作られているから、曲がることをあまり考えていないようなところもあるよ(笑)。
──走りにも車ごとの性格が現れる?
石川:うん。古い車は今の車みたいな制御装置が入っていないから、スピードを出すと危険。お尻を振ることもあるし、止まる、曲がるという基本的な部分も現行車とは全然違う。それも含めて、その車の癖だよね。
──車とファッションには、どのような関係があると思いますか?
石川:車は、ファッションでいえばアウターみたいなもの。車自体がアウターだから、個人的には、冬でもそんなに厚着をしないかな。
──涼さんが最初に車を手にしたとき、最も魅力に感じたことは?
石川:雨が降っていても、寒くても暑くても、どこへでも行けること。行動範囲が格段に広がったことが一番うれしかった。車があれば、電車では行きにくい場所にも行ける。それに、自分の車で行ったのか、レンタカーで行ったのかも含めて、目的地だけじゃなく移動そのものが思い出になる。それが車の良さだと思う。
神は細部に宿る、50年前の機能美
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初代から受け継がれる象徴、3連の縦型テールランプ。1970年式ではリアパネルに埋め込むように配され、彫りの深いリアビューを作り出している。
リアウインドウを覆うルーバーは、日差しを遮るための装備でありながら、傾斜したガラスに陰影を刻み、「ファストバック」の後ろ姿を象徴する存在になっている。
ボディと同色で仕上げられた砲弾型のレーシングミラーは、手のひらに収まるほど小ぶりながら鏡面は広角で、見た目の印象以上に後方視界を確保。
コックピットに収まれば、細身のスポークが3方向に伸びる大径のステアリングが迎える。当時の意匠をとどめたその佇まいは、握った瞬間にドライバーを50年前へと引き戻す。現代の車が失った“機械と対話する感覚”が隅々まで息づいているのだ。
スタイルを完成させる“おれ”流ギア
車が“アウター”なら、ドライブに持ち出す小物はアクセサリーのようなものだ。財布や腕時計、キーチェーン、ハンカチ──それらをレザーバッグにざっくり放り込み、ハンドルを握る。石川が運転に欠かせないというギアの数々にも、服を選ぶのと地続きの感覚が宿っている。グリーンのアイテムは、自身が経営する会員制バー「オリーブ」のオリジナルブランド「ディバイディッド ステイツ オブ オリーブ(DIVIDED STATES OF OLIVE)」のもの。シリアルナンバー入りの腕時計は、まもなく発売。