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雑誌「オムガールズ」はなぜ世界中のクリエイターを引きつけるのか? タクーンが語るAI時代に求められるメディアの役割

PROFILE: タクーン・パニクガル/「オムガールズ」創設者・編集長、デザイナー

PROFILE: タイ生まれ、アメリカ・ネブラスカ州育ち。ファッション誌「ハーパーズ バザー」の編集者を経て、2004年に自身のブランド「タクーン」を設立。06年には「CFDA/VOGUE ファッション・ファンド・アワード」のファイナリストに選出された。19年には、雑誌「オムガールズ」を創刊。現在は雑誌の刊行に加え、オリジナルウエアやリテールも展開し、メディアとブランドを横断する編集長・デザイナーとして活動している PHOTO:SHOTA KAMEI

ニューヨーク発のファッション雑誌「オムガールズ(HommeGirls)」は、2019年の創刊以来、“メンズウエアを愛する女性のための雑誌”というコンセプトを掲げ、世界中のクリエイターや編集者から支持を集めている。誌面だけでなく、オリジナルウエアやリテールへと活動の幅を広げ、今や1冊の雑誌を超えて1つのカルチャーとして存在感を放っている。

手掛けるのは、ブランド「タクーン(THAKOON)」のデザイナーであり、かつて「ハーパーズ バザー(Harper's BAZAAR)」のエディターも務めたタクーン・パニクガル(Thakoon Panichgul)だ。編集者とデザイナーという2つのキャリアを歩んできた彼は、「オムガールズ」を雑誌ではなく、“1つのユニバース(世界)”だと表現する。SNSやAIによって誰もが情報を発信できる時代に、雑誌はどんな役割を果たすのか。「オムガールズ」が世界中のクリエイターを引きつける理由と、その根底に流れる編集の哲学を聞いた。

「タイムレス」や「クラシック」を語る
1つのプラットフォームとしての始まり

WWD:「オムガールズ」は2019年に、“メンズウエアを愛する女性のための雑誌”としてスタートした。その後、雑誌だけでなくアパレルやリテールにも挑戦している。このような発展は当初から構想していた?

タクーン・パニクガル(以下、タクーン):実は、最初から今の形を思い描いていました。ファッションの世界は、メンズウエアを自分らしく着こなす女性のスタイルを「タイムレス」や「クラシック」と表現します。多くの人が共感し、憧れてきた価値観です。一方で、そのスタイルを1つの視点で語るプラットフォームはありませんでした。編集者としてもデザイナーとしてもキャリアを積んできた自分だからこそ、単なるメディアではなく、ブランドやプロダクトまで含めた“1つのユニバース(世界)”に育てられると考えていました。

WWD:そうした価値観は、「HommeGirls」という名前にも表れている。この名前には、どのような思いを込めた?

タクーン:もともとの発想は、80~90年代によく使われていた「Homegirl」というスラングです。「自分らしいスタイルを持つクールな女性」を表す言葉で、そこに“M”を1文字加えて「HommeGirls」にしました。「Homegirl」が持つストリートカルチャーのニュアンスに、テーラリングやメンズウエアという要素を重ね、この雑誌が描きたい女性像を込めました。

WWD:「ハーパーズ バザー」で編集者としての経験を積んだが、その経験は現在のクリエイティブにどのような影響を与えている?

タクーン:私が「ハーパーズ バザー」で働き始めたのは、1999年から2000年代初頭。当時の編集長であるリズ・ティルベリス(Liz Tilberis)が築いた、編集精神が色濃く残っていました。誌面がファッションを動かし、エディター自身がスタイルを発信する存在でもあったんです。

スタイリストのメラニー・ウォード(Melanie Ward)やブラナ・ウォルフ(Brana Wolf)らと仕事をした経験は、今の私の美学を形作る大きな財産になりました。特に印象に残っているのが、90年代のスタイリング。クラシックな白シャツを「リーバイス(LEVI'S)」のビンテージジーンズに合わせたり、美しいメンズスーツをイブニングウエアのように着こなしたり。どれも肩の力が抜けた、エフォートレスな着こなしです。あの時代が持っていた自由な感覚こそ、「オムガールズ」の核になっていますね。

WWD:誌面では連載「Hommage」を通して、デザイナーの山本耀司をはじめ、ファッションの歴史を築いてきたクリエイターたちを取り上げている。そうした歴史を次の世代へ伝えることを大切にしている理由とは?

タクーン:今のファッションは、これまでのクリエイターたちが築いてきた歴史や美学を土台に成り立っています。でも、その背景を知る機会は若い世代ほど年々少なくなっている。だからこそ、そうした歴史を次の世代へ伝えたいんです。中でも山本耀司は、その歴史を語る上で欠かせない存在です。メンズウエアを出発点に、クラシックな服の構造と徹底して向き合いながらアイデアを形へと突き詰めています。彼が築いてきた美学は、「オムガールズ」のスタイルの礎でもあるんです。

今はオンラインで手軽に服を購入できる時代。一方で、生地の質感や仕立て、品質といった本来の価値に触れる機会は少なくなっています。服が生まれた背景やデザイナーの思想まで伝えることが大切です。経験や知識を未来へつなぎ、ファッションの本質を伝え続けることも、今の時代に編集者が担う大切な役割なのではないでしょうか。

WWD:ディズニー+で配信中のドラマ「ラブストーリー ジョン&キャロリン」の影響もあり、キャロリン・ベセット=ケネディ(Carolyn Bessette Kennedy)が再び注目されている。「カルバン・クライン(CALVIN KLEIN)」で広報を務め、同ブランドの服を愛用していた彼女は、「ヨウジヤマモト(YOHJI YAMAMOTO)」を好んで着ていた。

タクーン:キャロリンが山本耀司のデザインに引かれたのも、「カルバン・クライン」に魅力を感じたのと同じ理由だったのではないでしょうか。共に余計なものを削ぎ落とし、服をその本質へと研ぎ澄ませていくデザイナーです。そこから新たなものを生み出す姿勢に共感していたと思います。

また、彼女の魅力は、どのデザイナーの服を着ていたかではなく、服をどう着こなしていたかにあります。トライベッカの街を歩く姿を捉えたパパラッチ写真を見ても、人を引きつけるのはブランド名ではなく、その自然なたたずまいです。

私たちが作っているアパレルも、シャツやボクサーショーツ、トラウザーズといった、ごくベーシックな服です。シンプルなアイテムほど、本質までデザインを突き詰めた上で、ディテールや繊細なニュアンスを追求することが重要になる。キャロリンは、まさにそうした機微を理解していた人だったと思います。

AI時代だからこそ求められる、編集者の審美眼

WWD:SNSやAIの普及によって、今は誰もがコンテンツクリエイターになれる時代。そのような状況の中で、雑誌にはどのような役割があると考えている?

タクーン:AIには多くの利点がありますし、私自身も活用しています。ただ、AIは基本的に「あなたが知りたいこと」を答えてくれるもの。こうした理由から、雑誌の役割は以前にも増して大きくなっていると思います。今、人々が求めているのは単なる情報ではなく、その背景にある意味や歴史、そして確かな視点です。

例えば、ファッションジャーナリストのキャシー・ホーリン(Cathy Horyn)は、今なお多くの読者に支持されています。彼女の言葉には、長年の経験に裏打ちされた説得力がある。情報が溢れる現代だからこそ、審美眼を持つ人の言葉が求められているのだと思います。編集者やライターも同じ。新たな見方を提示できる存在の価値は、これまで以上に高まっているのではないでしょうか。

WWD:そんな時代の中、雑誌が読者に提供できる価値とは?

タクーン:一番大切なのは、その雑誌が掲げる軸をぶれさせないこと。「オムガールズ」は“女性がメンズウエアを自分らしく着る”というシンプルな発想から始まりました。それは女性らしさを消すことではなく、1つの価値観やスタイルを提案すること。私たちが描きたいのは、ランウエイのトレンドではなく、「生き方」「スタイル」「アティテュード」です。ラグジュアリーをもっと自由に、自分らしく楽しむ。そんな価値観を伝えたい。1つのテーマを深く掘り下げれば、世界はどこまでも広がります。テーラリングもストリートも、トムボーイも70年代のヒッピースタイルも、その延長線上にある。1つの視点を貫くからこそ、多様な表現が生まれるのです。

WWD:「生き方」「スタイル」「アティテュード」を大切にしているからこそ、表紙に登場する人物にも共通する空気を感じる。BLACKPINKのジェニー(Jennie)やニュージーンズ(NewJeans)、ジョン・グレイシャー(John Glacier)らを起用した理由にも通じる?

タクーン:起用する際に最も重視していることは、その人自身です。どんな作品を生み出しているのか、そして私たちが本当に引かれる存在かどうか。知名度は関係ありません。ジョン・グレイシャーはメジャーな存在ではありませんでしたが、彼女が持つエネルギーやアティテュードに共感し、表紙に迎えました。その後、「プラダ(PRADA)」のキャンペーンにも起用されましたよね。ジェニーやニュージーンズも同じ。私たちはいつも、時代の少し先にある空気を感じ取りたいと思っています。

時代を読み解き、「今」のスタイルへと再編集する

WWD:雑誌を編集することと、服をデザインすることに共通する部分は?

タクーン:以前、デザイナーは服を作り、雑誌がその世界観を伝えていました。でも今はSNSやブランド自身のメディアがあり、デザイナーも編集者のような視点で、自ら物語を発信していく必要があります。一方で、雑誌も紙だけでは生き残れません。だから私たちは服を作り、雑誌を愛してくれる読者に、「オムガールズ」という世界観を届けたいんです。服も、その世界を構成する大切な要素。私にとって「オムガールズ」は1つの世界であり、その表現はこれからもさまざまな形へ広がっていくと思っています。

WWD:ブランドを象徴するシャツから最新コレクションまで、大切にしているデザインの考え方は?

タクーン:最初に作ったクラシックシャツは、本物のメンズシャツをベースにしています。襟や袖は女性が着やすいように調整しましたが、シルエットはほとんど変えていません。大きく変えたのは着丈だけ。タックインを前提としたメンズシャツを、アウトで着ても美しく見えるようにしました。また、オックスフォードシャツでは、ブランド名の頭文字である「H」と「G」をあしらったボタンなど、小さなディテールで個性を加えています。

襟やステッチ、カフスといった細部を少し変えるだけでも、シャツの印象は大きく変わる。私にとって大切なのは、メンズウエアが積み重ねてきた歴史や、その時代ならではの空気を読み解き、「今」の感覚で再編集することです。先日もパリで10ユーロのビンテージシャツを見つけたのですが、その縫製がとても面白くて思わず買いました。シャツという限られたアイテムでさえ、まだ何百通りものアップデートの可能性があるんです。

その考え方は、最新コレクションにも通じています。今回はプレッピーをベースにしながら、グランジのエッセンスをさりげなく取り入れました。ブラウンやバーガンディにラベンダーを合わせる色使いには、どこかカート・コバーン(Kurt Cobain)を思わせるムードを忍ばせています。

WWD:最後に、「オムガールズ」はこれからどんな存在を目指していく?

タクーン:もっと大きな“ユニバース”へ育てていきたい。単独店舗も増やし、他ブランドとのコラボレーションやアップサイクルも提案していきたいですね。世の中には、まだ見つけられていない宝物がたくさんあるので、それを新しい視点で紹介していきたい。バーグドルフ・グッドマン(BERGDORF GOODMAN)やバーニーズ ニューヨーク(BARNEYS NEW YORK)が1つのカルチャーを象徴する存在だったように、「オムガールズ」もそんな場所になれたらいいですね。

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