ファッション

フランス車ってどんなクルマ? 「シトロエン」「プジョー」「DSオートモビル」旗艦SUV試乗記

フランスメーカーが手掛けるクルマには、それぞれ固有の思想と世界観が強く宿っている。今回試乗したのは、ステランティスグループ傘下の「シトロエン(CITROEN)」「プジョー(PEUGEOT)」「DSオートモビル(DS AUTOMOBILES)」の3ブランドが打ち出す最新フラッグシップモデルたちだ。本記事では、それぞれのモデルが持つ個性に迫りながら、フレンチブランドならではの価値観を探る。

移動するリビングルーム
「シトロエン」“C5エアクロス”

「シトロエン」は1919年の創業以来、アヴァンギャルドなデザインと、快適な乗り心地のための革新的な技術で自動車の常識に挑み続けてきた。4月16日に日本で発売した“C5エアクロス”は、その思想の現在地を表す最新のフラッグシップSUVだ。ボリューム感のある四角いフォルムは角を丸めていて、全幅1900mm超というサイズ感のSUVながら圧は感じず、どこか柔和で愛嬌すら漂わせる。エクステリアで特に個性を放つのは、リアに配した“シトロエン ライトウイングス”だ。発光ユニットが外側に大きく迫り出した形状で、デザイン性だけでなく空力にも寄与する造形だという。

インテリアには、まるでリビングルームのような温かみが広がる。“乗る人すべてを柔らかく包み込む快適性”をテーマに、水平基調の空間に、思わず手を伸ばしたくなるような、柔らかな触感の素材を中心に組み合わせた。縦型のセンターディスプレーは13インチの大きさを誇り、ナビゲーション表示時には走行ルートの視認性向上に貢献する機能的な新装備だ。

注目すべきはアンビエントライトの使い方で、テクスチャーのあるファブリックを活かしながら光を柔らかく拡散させ、落ち着きのある空間へと昇華している。オレンジの光が柔らかく広がる様子は、まるで住宅の間接照明のようで、車内というよりも“部屋”にるような感覚に陥る。

“アドバンストコンフォートシート”は「椅子」そのものとしても完成度が高く、モコモコとしたクッションが身体を受け止め、運転せずともそのまま身を預け続けたくなるほどに心地良い。ダンパーの中にさらに小さなダンパーを仕込んだ「シトロエン」伝統のサスペンション“プログレッシブ・ハイドローリック・クッション(PHC)”がもたらす足の動きは柔軟で、路面の凹凸に対してタイヤをしなやかに追従させながら、車体の揺れを必要以上に引きずらない。外装から内装、走りまで、全てから“緊張感”が取り除かれている。

ラジオを流しながら、あるいは同乗者と気楽に会話を楽しみながら、のんびりと街を流す。同モデルに宿る精神は、気楽でいられるからつい何度も選び取ってしまう、心地よいライフスタイル・ウエアのものにも通ずる。

軽快にかけるクールビューティー
「プジョー」“5008 GT ハイブリッド”

「プジョー」は200年以上の歴史を誇る老舗ブランドだ。実用的なガソリン自動車が誕生する以前から製鉄業を営む企業として存在しており、「現存する世界最古の自動車ブランド」の一つとしても名が上がる。しなやかかつ俊敏な走行フィールは“猫足”と称され、親しまれてきた。

新型“5008 GT ハイブリッド”は、今年の2月に発売した同ブランドのフラッグシップSUVで、3列シートで7人乗りという高い実用性を備えながら、その佇まいは実にスマートで都会的。「プジョー」のシグネチャーであるフレームレスの精巧なグリルや、「爪痕」のモチーフが特徴だ。

直線を基調としたインテリアは、モダンかつ先進的。ブランド独自のコックピット思想“I Cockpit”を掲げ、一見複雑に入り組んだ構造に見えるが、人間工学的な視点で作り込まれている。乗降しやすく、扱いやすい小径のスクエア形ステアリングや21インチのカーブドディスプレーを備えたほか、デジタルショートカットスイッチを備えるセンターディスプレーも配置した。運転中の視点移動や、ステアリングからディスプレーまでの腕の動きなどが最小限に抑えられ、各要素が「あるべきところにある」といった具合に使い馴染みが良い。単に近未来的なイメージを先行させたのではなく、あくまでドライバーの動作を中心に据えるコンセプトが実感できる。 

走行フィールは、ドライバーの意思に従順で、「シトロエン」“C5エアクロス”とプラットフォームやパワートレインを共有しながらも、そのキャラクターは驚くほど異なる。アクセルを踏み込んだ際の内燃機関の主張も心なしか強く、ステアフィールもリニアに仕立てられており、所々に“走り”を意識したセッティングが垣間見える。青空の下、ポップスを聴きながら、都市から自然のワインディングを駆け抜ける。そんな自由で軽快なライフスタイルが似合う仕上がりだ。

狂気的な美
「DSオートモビル」“ナンバー8”

最後に乗り込んだのは、BEVに逆風が吹く今、「DSオートモビル」が堂々と送り出したフラッグシップBEV、“ナンバー8”だ。「DSオートモビル」は、「シトロエン」が展開していた高級ラインをルーツに持ち、2014年に独立したフレンチラグジュアリーブランド。5月28日に日本上陸を果たした同モデルの日本版ブランドサイトで掲げられたコピーは、「美しき、逸脱。」。ステランティス傘下のフレンチブランド群の中でも、そして「DSオートモビル」のラインアップの中でも、圧倒的な色気を放つ。

BEVはラジエーターグリルを必要としないため、フロントフェイスが無機質になりやすい。しかし“ナンバー8”は、ポリカーボネートパネル内にLEDを織り込んだ“DSルミナススクリーン”によって、奥行きのある表情を形成。同ブランドの内燃機関モデルと並べても違和感のない、繊細な造形美を保っている。

クラス最大級というパノラミックガラスルーフが備わるおかげで、車内は明るく、細かなディテールまでよく見える。インテリアを目にした途端、瞬時に湧き上がったのは、“美”という1文字を真正面から叩きつけられたような感覚だ。オリーブの葉を用いた植物由来のなめし加工を施したナッパレザーに、サテン調のアルミ素材を組み合わせ、全体的に艶を抑えた仕様。細部には「クル・ド・パリ」の装飾、パールステッチ、腕時計のバンドから着想を得たシート背面の造形など、「DSオートモビル」ならではの美意識が隅々まで宿る。スピーカーグリルは星空のように緻密なパンチングで仕立てられ、4本スポークのステアリングは特に、合理性を追い求めるだけでは到達し得ない狂気的な造形が目を惹いた。

走り出してまず驚かされるのは、その静粛性だ。徹底した空力処理と遮音設計を施し、BEV特有のノイズが際立つ特性を見越し、細部まで煮詰められている。静けさに満ちた車内で味わう音楽体験もまた至高。フランスの高級オーディオメーカー「フォーカル」と共同開発した“フォーカル エレクトラ 3D”システムは14基のスピーカーを備え、まるで音に包み込まれるような没入感は圧巻だ。

路面状況を先読みしてサスペンションを制御する“DSアクティブスキャンサスペンション”も備わることで、走りは驚くほどフラットかつシルキーだ。0-100km/h加速も5.4秒と申し分ない。気になる航続距離は、ステランティス最大級となる97.2kWhバッテリーを搭載したことで、WLTCモードで750kmを実現した。

ドレスやテーラードジャケットに身を包みながら、大切なパートナーを隣に乗せ、夜の街へ滑り出していく。そんな映画のワンシーンのような情景が、ごく自然に思い浮かぶ。フランス大統領専用車にも採用されるモデルらしい品格とポテンシャルが随所に感じられた。

日本国内のディーラー数も13店舗と極めて少なく、そのデザインや走りを直に体験できる機会は限られている。この独創性に触れられる場が、今後さらに広がることに期待したい。

純度の高い“個性”

今回乗り比べて痛感したのは、「キャラクターの作り分けの巧みさ」だ。エクステリアで受けたイメージが、インテリアや乗り味の印象へとシームレスにつながる。素材使いはもちろん、アンビエントライトの演出に至るまで、すべてがそのクルマならではの個性を形作るために緻密に設計されている。「このクルマに乗る人は、どんな時間を過ごすのか」という情景までふと浮かび上がってくるほどの世界観が構築されていた。

快適性や効率性、デザイン性など、顧客ニーズが可視化され尽くした時代だからこそ、プロダクトの均質化は避けがたい。そんな中、グループ内でプラットフォームや部品を共有しながら、一般消費者にとって現実的な価格帯に収め、それぞれのブランドが“個性”を高い純度で表現しきったクルマに触れると、やはり心を動かされるものがある。

ある日は着慣れたスエットで肩の力を抜き、ある日は機能的なアクティブウエアを着て家族でキャンプへ。そしてまたある日には、職人技が光るドレスやタキシードをまとって特別な時間へ向かう。もし叶うのなら、その日の気分や感情に合わせて、車庫に並べた3台を、洋服を選ぶように乗り分けたい。ステランティスが提示するフレンチSUV3台は、モビリティが単なる移動手段ではなく、自己表現の方法にもなり得ることを改めて教えてくれた。


◼️車両情報
“C5エアクロス マックス ハイブリッド”
車両本体価格:585万円
駆動方式:FF
パワートレイン:ハイブリッド(1.2L 直列3気筒ガソリンターボエンジン + 1モーター)
トランスミッション:6速DCT
エンジン最高出力:136PS/5500rpm
エンジン最大トルク:230Nm/1750rpm
モーター最高出力:20ps/4264rpm
モーター最大トルク:51Nm/750〜2499rpm
システム最大出力:145PS
全長×全幅×全高:4655×1905×1710mm
車両重量: 1630kg


”5008 GT アルカンターラパッケージ ハイブリッド”
車両本体価格: 614万円
駆動方式:FF
パワートレイン:ハイブリッド(1.2L 直列3気筒ガソリンターボエンジン + 1モーター)
トランスミッション:6速DCT
エンジン最高出力:136PS/5500rpm
エンジン最大トルク:230Nm/1750rpm
モーター最高出力:20ps/4264rpm
モーター最大トルク:51Nm/750〜2499rpm
システム最大出力:145PS
全長×全幅×全高:4810×1895×1735mm
車両重量:1740kg


“DS ナンバー8 エトワール AWD”
車両本体価格:1005万円
駆動方式:AWD
パワートレイン:2モーター
システム最高出力:408PS
システム合計最大トルク:640Nm
全長×全幅×全高:4820×1930×1595mm
車両重量:2180kg

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