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「レクサス」はなぜセダンを選んだのか 新型“ES”に込める「クルマ屋」としての誇り

SUVが世界の自動車市場を席巻する中、「レクサス(LEXUS)」が次世代の幕開けを託したのは、セダンだった。1989年、ブランド誕生と同時に登場し、今年6月11日にフルモデルチェンジした新型“ES”は、ハイブリッド(以下、HEV)とバッテリーEV(以下、BEV)をそろえ、「レクサス」が「次世代電動車ラインアップの先陣を切るモデル」と位置付ける。なぜ、今セダンを選ぶのか。都内から軽井沢まで、新型“ES”を走らせてみると、「レクサス」が同モデルに込めた願いと、果たす役割が見えてくる。

電動化時代の新しい「レクサス」

デザインコンセプトは「Clean Tech x Elegance」。奇をてらった未来感ではなく、“ES”元来の価値であるエレガンスを継承しながら、電動化時代の新しい「レクサス」を表現した。追求したのは、「セダンが最も美しく見えるプロポーション」だ。低いノーズからルーフ、リアへと滑らかにつながるワンモーションのシルエットに、後方へ強く絞り込んだキャビンを組み合わせ、流麗にまとめている。

特筆すべきは、その大きさだ。全長5140mm(先代モデル比+165mm)、全幅1920mm(同+55mm)、全高1555〜1560mm(同+110〜115mm)、ホイールベース2950mm(同+80mm)と、先代モデルから大きくボディーサイズを拡大した。全幅は同ブランドの旗艦セダン“LS”をも上回り、「メルセデス・ベンツ(MERCEDES-BENZ)」のラグジュアリーセダン“Sクラス”に近い。全高は、「レクサス」がSUVとして展開する“UX”よりも高い。この思い切りの良いパッケージは、実現したい室内空間を先に追求し、そのために車体サイズを見直した結果でもある。プラットフォームの設計段階から骨格を見直し、室内空間の拡大を図った。

サイズそのものが、新型“ES”の快適性を分かりやすく物語る。ゆえにサイドビューには厚みがあるが、ボディー側面の面処理やブラックの加飾によって全高を感じさせにくくし、セダンらしい伸びやかさを強調した。

象徴的だった“スピンドルグリル”は、グリル単体ではなく、フードからバンパーまでボディー全体で形を描く“スピンドルボディ”へと進化。“L”を上下に重ねた“ツインLシグネチャーランプ”も加わり、従来モデルとは明確に異なる顔を作った。HEVモデルでは冷却性能確保のため、フード下に薄型のグリルを配するが、総じて開口部の少ないフロントフェイスは、BEVでの展開を強く意識したデザインにも見える。

ひき算の美

数値から見るサイズ感は堂々としているが、運転席に座ると、その印象が少し変わる。着座位置は高められ、フロントとサイドのウインドー下端は低く設定。ガラス面積も広く、近くの路面まで自然に視界へ入る。すれ違いの際にも、全幅1920mmという数字ほど身構えない。開発陣によれば、地面がどこまで近く見えるかは、クルマの大きさを感じるうえで重要だという。ガラス下端を低くすることで、実寸以上に車体を小さく感じさせる。その効果は実際の運転でも分かりやすかった。

室内は、「引き算の美」とでもいうべきか、水平基調で整理された空間が広がる。派手ではないが、一つ一つのパーツが丁寧に吟味されている印象で、静謐なムードが漂う。これには、ステアリングやインストゥルメントパネルに採用した“レスポンシブヒドゥンスイッチ”が大きく寄与している。通常時は内装に溶け込み、指先を近づけると機能表示が浮かび上がる。押せば、しっかりとしたフィードバックも返す。

機能をセンターディスプレーに集約すれば見た目はよりシンプルになる一方、即時的な操作性は損なわれやすい。静電容量方式のボタンも、表面をフラットに仕上げやすい反面、押した感触に乏しい。“レスポンシブヒドゥンスイッチ”は、慣れないうちは触れるまで機能が分かりづらいものの、常時点灯への設定変更も可能。審美性と操作性を両立する仕組みと言える。

世界初公開時に予告された、照明や音楽、空調、フレグランスを連携させる“センサリーコンシェルジュ”は、中国仕様では導入されている一方、今回試乗した国内仕様には未搭載だった。

ニュートラルの再定義

本試乗の舞台は、トヨタ自動車東京ビルと軽井沢コモングラウンズを結ぶ往復約340km。合計約5時間を走行した。筆者は最初に4輪駆動BEVの“ES500e バージョンL”に乗り込んだ。
一言で言えば、あまりにニュートラルなクルマだろう。新型“ES”が「レクサス」の基幹たる役割を狙ったことが、乗ってみるとよく分かる。

前後にeAxleを備えるAWDで、システム最高出力は342PS。0-100km/h加速は5.5秒と十分に速く、不足を感じる場面はほとんどない。“ES500e”にはBEVで仮想的な変速感を作り出す“インタラクティブマニュアルドライブ”も備わる。ただし、その機能が主役になることはない。刺激的な走りを売りにするモデルではないからだ。

まず驚いたのは、素直かつ自然で、レベルの高いドライバビリティーだ。アクセルを踏み込んだ量に対して、想像した通りに速度が乗る。BEV特有の強烈な初期加速を前面に出すのではなく、ドライバーが求めた分だけ前へ出る。レスポンスがいい、という言葉だけで片付けるには惜しいほどナチュラルだ。

操舵感も同様に癖がなく、直進安定性も高い。DRS(Dynamic Rear Steering)は速度に応じて後輪を最大4度操舵し、低速では取り回し、高速では安定性に寄与する。リアステア特有の後輪が外側へ膨らむ感覚はあるが、巨体を操る際の恩恵は大きい。体感としては、一回り小さなクルマを扱っているようだ。

「レクサス」と言えば、やはり静粛性だ。新型が目指したのは、「リビングのような空間」だという。

開発陣が例に挙げたのは、防音室だった。音がなさすぎる空間は、静かなはずなのにかえって落ち着かない。そこで新型“ES”では、外界を完全に遮断するのではなく、足回りの音、風切り音、駆動音などのバランスを整えた。後席に届く透過音も抑えつつ、前席から後席へ向かって音が自然に弱まるよう調整する。まるで「クルマが本来備えるべき静けさ」を、そのまま形にしたような自然な静寂である。

BEVは、継続的なノイズを生む発音源が少ないぶん、かえって些細な音が耳につきやすい。代表的なのが空調の作動音だが、新型“ES”では、その存在感が驚くほど薄い。「レクサス」は送風口を大型化することで風速を抑え、必要な風量を確保しながら作動音の低減を図った。デザインとの両立には苦労したと開発者が明かすほどで、静粛性へのこだわりが表れた見どころの一つだ。

サスペンションの味付けにも、「自然」という言葉が浮かぶ。新型ではリアに“ES”初のマルチリンク式サスペンションを採用し、ブッシュ(サスペンションアームをつなぐゴム部品)の特性も見直した。さらに、電子制御でショックアブソーバーの減衰力を変える“AVS”(Adaptive Variable Suspension)の搭載車では、応答性の高いリニアソレノイド式を採用する。路面からの入力は角を落としていなしつつ、その情報を完全には遮断しない。路面との間に適度な距離を置きながら、必要な感触だけはきちんと伝えてくる。姿勢は終始フラットで、ふわふわとした上下動を意識する場面もない。柔らかさとしなやかさを併せ持った絶妙なバランスで、まさに「上質な心地」の手本。長距離を走っても疲れはほとんど感じなかった。

後席の快適性も、新型“ES”が重視したポイントだ。ホイールベースを先代モデルから80mm延長し、広い室内空間を確保。“ES350e”には後席快適性を高めた“Rr Comfort package”も新設定した。リアシートのリクライニングやオットマン、助手席の前倒し機能に加え、ベンチレーション、ヒーター、マッサージ機能まで備え、ショーファードリブンとしての使い方まで網羅する。

何か一つが突出しているクルマではない。ただ、その代わりに弱点らしい弱点が見当たらず、平均点が恐ろしく高い。加速、操舵、乗り心地、静粛性のどれを取っても、過剰さを抑えながら高い水準で整えられている。BEVらしい新奇性を前面に押し出すのではなく、それらを「レクサス」らしい滑らかさと上質さへと昇華させる。結果として残るのは、電動車であることを強く意識させる質感ではない。「クルマ」が本来持つ基本性能を丁寧に磨き上げた先にある、極めてニュートラルな乗り味だ。

帰路では、2.5L直列4気筒エンジンを搭載するHEVの“ES350h”にも乗った。こちらにも、新型“ES”が狙った静粛性、乗り心地、操作の自然さは共通している。ただ、アクセルを踏み込むと違いは明白で、フロントからエンジン音が響く。音量自体はかなり抑えられているものの、この風貌と静寂な世界観の中では、やや異質にも感じられた。次世代の「レクサス」が描く世界観に照らせば、本命はやはりBEVモデルだろう。

開発者が語った「BEVを当たり前のものにする」という言葉も、乗ってみると腑に落ちる。BEVを特別な乗り物として演出するのではなく、「レクサス」がこれまで培ってきた価値の延長線上に置いているのだ。

新型“ES”チーフエンジニアの千足浩平氏の話で印象に残ったのが、「これまでのラグジュアリーは足し算だった」という言葉だ。より速く、より豪華に、より多機能に。だが、電動化や技術革新が進むほど、プロダクトは均質化していく。スペック競争に疲れ、「心を安らげる時間」を求める人も増えているという。だから新型“ES”では、視界、音、操作感、乗り心地といった、「『乗員がどう感じるか』という部分に徹底的に立ち返った」と話す。

なぜセダンなのか

セダンを取り巻く環境は、ここの十数年で大きく変わった。EPA(米国環境保護庁)の統計では、米国で生産された新車に占めるセダン/ワゴンの生産シェアは、1975年モデルの80.6%から、2023年モデルには25%にまで縮小した。一方で、大きく躍進を遂げたのがSUVである。IEA(国際エネルギー機関)によると、世界の新車販売に占めるSUVの割合は、2010年には20%未満だったが、19年には40%を突破。23年には48%に達し、先進国では初めて50%を超えた。北米では約75%、欧州でも半数超という水準に達している。市場の主役がSUVへ移っていることは明白だが、「レクサス」が次世代電動車ラインアップの先陣に選んだのは、あえて新型“ES”というセダンだった。

なぜ、新世代の基準となるモデルがセダンでなければならなかったのか。「セダンであることは“偶然”にしたくない」と語る千足チーフエンジニアは、「エンジニアにとっても、クルマの基本形はセダンなんです」と続ける。

クーペやハッチバック、ワゴンなど、さまざまなボディータイプが派生してきたが、その原型になったのはセダン。だからこそ、新しい世代の基準を作るなら、まずその基本形から始める意味があった。それに、セダンという形そのものにも、工学的な合理性があるという。千足チーフエンジニアは、モータールーム、居住空間、トランクという3つの空間を独立させることで、高いボディー剛性や低重心を実現しやすく、乗り心地、操縦安定性、静粛性にも優れると説明する。開発陣も「SUVに押されているセダンマーケットをもう一回盛り上げたい」と率直に語った。

新型“ES”では、従来からの静粛性や乗り心地に加え、パッケージを再定義し、視界の良さや取り回しのしやすさといった価値も加えた。そして、その価値を担うのが新型“ES”であることにも意味がある。“ES”は1989年、“LS”とともに「レクサス」の歴史をスタートさせたモデルだ。長距離でも疲れにくく、静かで乗り心地がいい。開発側は、そうした「レクサス」が長く育ててきた価値を、最も素直に体現できるパッケージが“ES”だと話す。

流行だけを見れば、次世代の幕開けをSUVに託す方が分かりやすく、採算も立てやすかったはずだ。それでも「レクサス」は、自動車の基本形と考えるセダンから、新しい時代の基準を引き直した。電動化によってクルマの構造も体験も変わろうとしている今だからこそ、まず「いいクルマとは何か」を基本から問い直す。その選択は、「クルマ屋」としての矜持というほかない。

充電時間まで「レクサス」の体験に

BEVを使う上で、気になるのは充電環境だ。とくに都市部では、自宅に充電設備を設置しにくいケースも多い。
「レクサス」の担当者も、「戸建てで自宅に充電器をつけられるのがBEVとしては最高のシチュエーション。ただ、都市部では難しく、BEVかHEVかと悩む方も多い」と話す。そこで「レクサス」は、充電設備を増やすだけでなく、充電時間の過ごし方まで含めたサービスを広げている。

試乗の目的地となった軽井沢コモングラウンズには、ブランド直営の充電ステーションを設置。さらに、ブランドが厳選したレストランやホテル、カフェなどの施設と提携を進め、LEXUS Charging会員限定の優待特典の拡充などを同時に進める。考え方はシンプルだ。充電のためだけに時間を使うのではなく、食事や買い物、ゴルフをしている間に充電する。従来はBEVの煩わしさだった時間を、生活の中へ溶け込ませる狙いだ。筆者も“My LEXUS”アプリを使った充電を体験したが、充電スポットを検索して予約しておけば、当日は指定の駐車スペースへ向かい、充電器を挿すだけ。実際の充電まで、一連の操作はじつにシームレスだ。アプリ上では「レクサス」充電ステーションや「レクサス」「トヨタ(TOYOTA)」販売店の充電器に加え、e-Mobility Powerや、「ポルシェ(PORSCHE)」「アウディ(AUDI)」「フォルクスワーゲン(VOLKSWAGEN)」が参加するPremium Charging Alliance(PCA)の充電器も利用できる。実際にアプリを使い、現在地周辺の充電スポットを地図上で開いてみると、身構えていたほど少なくない。充電インフラそのものは、ブランド独自の拠点だけでなく、他メーカーとの連携によって着実に広がっている。むしろ現状の課題は、そうしたネットワークの広がりや、「どこで、どう充電できるのか」がユーザーに十分伝わっていないことなのだろう。

新型“ES”のBEVモデルは、150kWの急速充電器を使えば、バッテリー残量10%から80%まで約28分。航続距離は“ES350e”が670km、“ES500e”が636kmだ。ただし、「レクサス」が目指すのは充電時間そのものを短くすることだけではない。ブランド担当者は、「充電そのものが今までは煩わしさでしかなかったことを、どんどん価値に変えていく」と話す。そして、「クルマの中で閉じることなく、クルマからさらに拡張したブランドを目指していきたい」と続けた。

新型“ES”のBEVモデルは、150kWの急速充電器を使えば、バッテリー残量10%から80%まで約28分。航続距離は“ES350e”が670km、“ES500e”が636kmだ。ただし、「レクサス」が目指すのは充電時間そのものを短くすることだけではない。は、「充電そのものが今までは煩わしさでしかなかったことを、どんどん価値に変えていく」と話す。そして、「車の中で閉じることなく、クルマからさらに拡張したブランドを目指していきたい」と続けた。

「レクサスを知りたくば、これに乗れ」

新型“ES”とともに示す次の「レクサス」は、クルマだけで完結しない。「DISCOVER ―誰の真似もしない―」を掲げ、新型“ES”は「DISCOVER CONFIDENCE」というテーマで「クルマから生まれる体験」まで含めて価値を作ろうとしている。一方で、その世界を広げるほど、中心に置くクルマそのものを曖昧にはできない。だからこそ、新型“ES”は、視界、操作、加速、乗り心地、静粛性といった、自動車の基本性能から丁寧に磨き直した。

派手な一芸で「レクサス」の未来を語るクルマではない。だが運転してみれば、視界も、操作も、加速も、静けさも、何もかもが自然である。それが、新しい時代の「レクサス」にとってのニュートラルなのだろう。「『レクサス』を知りたくば、これに乗れ」。そう言えるほどに、新型“ES”は、「レクサス」が次の時代に目指す価値を、最もフラットかつ高い次元で示した基幹モデルだった。

車両情報

「レクサス」“ES350h”

グレード/車両本体価格:FWD 790万円/AWD 810万円
全長×全幅×全高:5140×1920×1555mm 
ホイールベース:2950mm 
車両重量:1830kg(FWD)/1890kg(AWD) 
駆動方式:FWD/AWD
パワートレイン:HEV(2.5L直列4気筒エンジン+eAxle)
システム最高出力:248PS(182kW)
0-100km/h加速:7.7秒(FWD)/7.5秒(AWD)

「レクサス」“ES350e”

グレード/車両本体価格:標準仕様 790万円/“version L” 880万円/“Rr Comfort package” 920万円
全長×全幅×全高:5140×1920×1560mm 
ホイールベース:2950mm 
車両重量:2100kg 
駆動方式:FWD
パワートレイン:BEV(eAxle)
システム最高出力:224PS(165kW)
0-100km/h加速:8.0秒
一充電走行距離:670km(WLTCモード、19インチタイヤ装着時)

「レクサス」“ES500e”

グレード/車両本体価格:標準仕様 830万円/“version L” 920万円
全長×全幅×全高:5140×1920×1560mm 
ホイールベース:2950mm 
車両重量:2200kg 
駆動方式:AWD
パワートレイン:BEV(フロント/リヤeAxle)
システム最高出力:342PS(252kW)
0-100km/h加速:5.5秒
一充電走行距離:636km(WLTCモード、19インチタイヤ装着時)

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