
ドイツの自動車メーカーBMWは7月22日、完全電気自動車(BEV)の新型「ビーエムダブリュー(BMW)」“iX3”シリーズを日本で発売した。車両本体価格は“iX3 50 xドライブ”が982万円、“同 Mスポーツ”が1034万円。「BMW」の次世代を担う「ノイエ・クラッセ」の市販モデル第1弾にあたるシリーズで、第6世代の“BMW イードライブ”テクノロジーをはじめ、800Vの高電圧システムや新世代の操作システムを採用する。筆者は次の時代を象徴する新型“iX3 50 xドライブ Mスポーツ”に試乗し、その一端を体感した。
「ノイエ・クラッセ」とは
そもそも「ノイエ・クラッセ」とは、ドイツ語で「新しいクラス」を意味する。その名が「BMW」の歴史に初めて登場したのは1960年代。61年に発表した中型スポーツセダン“1500”を皮切りとするモデル群を指し、当時経営難にあった同社を成長軌道へと導く転換点となった。現在の“3”シリーズや“5”シリーズへとつながる礎を築き、「駆けぬける歓び」に代表される現在の「BMW」らしさを形作った存在でもある。約60年の時を経て復活した「ノイエ・クラッセ」は、電動化やデジタル化、循環型社会への対応などを軸に、ブランドそのものを再定義する試みだ。新型“iX3”シリーズは、その市販モデル第1弾として登場した。
新世代のデザイン
かつてセダンとして打ち出された「ノイエ・クラッセ」が、別のボディータイプで生まれ変わったのは、SUVが大衆的人気を獲得した時代の潮流を踏まえれば必然の選択だろう。
まずは、現在さまざまな議論を巻き起こしているエクステリアデザインに触れておきたい。フロントで目を引く、縦方向に伸びた新たな“キドニー・グリル”は、新型“iX3”がこれまでの「BMW」とは異なるフェーズに入ったことを強く印象付ける。近年のBMWが採用してきた大型のグリルとは違い、かつての「ノイエ・クラッセ」を思わせる縦長の意匠を現代的に再解釈した。装飾を抑えた面構成やシャープな灯火類も相まって、全体の印象はむしろシンプル。未来を先取りするデザインは、いつだって最初は珍妙に見えるものだ。
同モデルでは、車両全体の約3分の1にリサイクル原料を使用する。例えば、ボンネット下の収納スペースやモーターコンパートメントのカバーには、使用済みの漁網やロープを原料とする再生海洋プラスチックを30%使用。足回りの一部には80%、アルミホイールには70%の再生アルミニウムを採用するなど、素材の段階から循環性を意識した設計としている点も、持続可能な社会に対する「BMW」の揺るぎない姿勢を象徴する特徴だ。
インテリアも、これまでの「BMW」から大きく様変わりした。新型“iX3”では、ドライバーを中心に設計した新世代の操作システム“BMWパノラミック アイドライブ”を採用。その中核を担う“BMWパノラミック・ビジョン”は、フロントウインドー下部に約110cmにわたって広がるディスプレーに走行情報などを表示し、運転中の視線移動を抑えながら、表示できる情報量を増やすとともに、カスタマイズ性も向上させた。センターには大型ディスプレーを配置する一方、物理スイッチを減らしたことで、ダッシュボード周辺はすっきりとした印象に。さらに、“BMW 3Dヘッドアップ・ディスプレイ”も備える。コンセプトカーを思わせる大胆な造形のステアリングも、近未来的な印象を強めている要素だ。
走行中に感じたのは、視界の先そのものがインターフェースになったような未来的な感覚だ。センターディスプレーを操作している間も、ほかのディスプレーでは独立してナビゲーションを表示し続けられる点は使い勝手が良い。一方で、UI全体にはやや慣れが必要な印象で、試乗中は走行モードの切り替えなど、目的の機能にたどり着くまで戸惑う場面もあった。ほとんど全ての操作系をディスプレーに集約している上に、機能のカテゴリー分けにやや癖のあるため、オーナーは慣れるまで少々時間を要するかもしれない。
新しい「走り」の基準
新型“iX3”シリーズは800Vの高電圧システムを採用し、最大320kWの受電能力に対応する。現時点で国内にその性能をフルに生かせる一般向け充電設備はなく、これから整備が進むものの、対応する充電環境では15分で約420km走行相当の電力量を充電できるという。一充電あたりの走行距離は、“iX3 50 xドライブ”が906km、“同 Mスポーツ”が835km(いずれもWLTCモード)で、国内BEVカテゴリーではトップクラスの航続性能を備える。
もう一つ、新型“iX3”を語る上で欠かせないのが、走りを司る“BMW ハート オブ ジョイ”だ。「ノイエ・クラッセ」の新たな電子アーキテクチャーを構成する4つの高性能コンピューター“スーパーブレイン”の一つで、量産車としては初搭載となる。従来は個別の制御ユニットが担っていた駆動、ブレーキ、エネルギー回生、ステアリングなどを一つのユニットに集約。BMWが自社開発した“BMWダイナミック・パフォーマンス・コントロール”と組み合わせ、従来の制御ユニットと比べて最大10倍の速さで演算する。つまり、「走る、曲がる、止まる」を一つの司令塔でまとめて制御する仕組みだ。これにより、タイヤのトラクションマネジメントからコーナリング時の車体姿勢、減速時のエネルギー回生までを一体で連携させ、クルマの動きをより滑らかかつ緻密にコントロールできるようになった。
また、停止直前まで回生を巧みに制御する“ソフト・ストップ”も採用。試乗中は、背中を蹴られるようなレスポンスの良い加速感とともに、ピッチングを抑えて車体をフラットに保った緩やかな停止を体感できた。
130km/hで“手放し”運転が可能
運転支援も大きく進化した。新型“iX3”は、高速道路で利用できる“ハイウェイ・アシスト”を標準装備する。ドライバーが前方を注視し、必要に応じて直ちに操作できる状態であれば、一定の条件下で時速130kmまでステアリングから手を離した走行が可能だ。さらに、ハンズオフ走行中の車線変更にも対応。システムが車線変更を提案した際には、ドライバーがドアミラーに視線を向けることで意思を伝え、周囲の安全を確認した上で車両が自動で車線変更を行う。従来の渋滞時を中心としたハンズオフ機能から、より高い速度域まで対応範囲を広げ、車線変更まで支援することで、長距離移動での運転負荷を大きく軽減する。本試乗では体験できなかったが、日本では11月以降にソフトウエア・アップデートによって利用可能となる予定だ。
日常へと走り出した「ノイエ・クラッセ」
短時間の試乗ではその全てを体感しきれないほど、新たに打ち出した「ノイエ・クラッセ」には先進装備が詰め込まれていた。すでに日本でも7月下旬から、同モデルの納車は始まっている。それらが実際のカーライフをどう変えていくのかは、むしろ日々乗り続けることでやっと見えてくるだろう。日常をともにする中で浮き彫りになる「ノイエ・クラッセ」の真価にも期待したい。
車両情報
車両本体価格:982万円(Mスポーツは1034万円)
全長×全幅×全高:4780×1895×1635mm
車両重量:2330kg
駆動方式:4WD
パワートレイン:BEV(モーター2基)
バッテリー総電力量:109.1kWh
航続距離:906km(Mスポーツは835Km。ともにWLTCモード)
最高出力:345kW(469PS)
0-100km/h加速:4.9秒
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