先の見えない未来を生きるなら、いつまでもこの幸せなまどろみの中にいさせてほしい——そんな気持ちにさせてくれたのが、現地時間6月25日にパリで行われた「ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)」の2027年春夏コレクションのショーだった。
会場に流れていたのは、クロード・ドビュッシーの「牧神の午後への前奏曲」。この曲のもとになったステファヌ・マラルメ(Stéphane Mallarmé)の詩「半獣神の午後」は、森での昼寝から目覚めた半人半獣のフォーンが、夢で見たニンフたちの記憶と現実の境を見失い、やがて現実よりも夢想の世界を選ぶという物語だ。クリエイティブ・ディレクターのジュリアン・クロスナー(Julian Klausner)は、マラルメのこの詩における「現実と想像の境界が絶えず曖昧に描かれ、感覚と空想がなめらかに溶け合うイメージ」を着想に、今季のコレクションを創作。緊迫した現実から逃れるつかの間の夢心地を、ジュリアンが得意とするインティメイト(親密)な官能性で表現した。
肌の色に溶けるヌーディーな質感
ファーストルックがまとったのは、限りなく薄いベージュのフード付きトレンチコート。生地は肌の色に溶けるようにヌーディーだ。今季の「ドリス」のコレクションのカギは、服が「肌に寄り添う」この感覚だった。ジャケットやトレンチといった男性的な定番ワードローブが、ウォッシュをかけたシルクやビスコースによって落ち感のある流動的なピースに置き換わり、シルエットは縦長で柔らかく、ネックラインは深く切り込まれ、丈の短いショーツの裾から素肌がのぞく。
ショーを通じて、色の移ろいも夢の風景を映した。前半はチークのような淡いブラッシュとアースカラーが肌に溶け、中盤からイエローやミント、セージグリーンといった鮮やかな自然色が差し込まれる。スパンコールは水面に差し込む陽光のようで、プリントはジュリアンやチームのカメラロールにある夕日や湖面の月明かり、流れる雲をそのまま落とし込んだ。木漏れ日、枝の影、咲きほころぶ花。写真のようにリアルなモチーフが、夢のなかの風景を思い起こさせた。
「防御的よりも無防備に感じられるのが好き」
「ずっと女性のための服を作ってきた僕にとっては、ごく自然と出てくる発想」。そう語るように、ジュリアンはウィメンズのワードローブの艶っぽさを、メンズのワードローブにもまとわせることをためらわない。スパゲッティーストラップのトップスやネックラインのレイヤード、小さなジグザグのステッチ。こういったランジェリーのディテールをジャージーアイテムやニットに翻訳し、色気をまとわせる。シアーなタンクトップの胸元には、銀の枝が這うようなビーズ刺しゅうが施されている。ボートネックのスリップは肩からこぼれ落ちそうに揺れ、首元にはレースやブロデリー・アングレーズ、切りっぱなしの襟を添える。
そしてパーカやミリタリージャケットといった、カジュアルやラギッドな服さえ、ジュリアンは官能的に作り変えてしまう。ハンティングジャケットの防護用ディテールをワックスフィルムに軽いパディングで仕立て、羽毛のように軽やかなフォームを作った。「防御的というより、むしろ無防備に感じられるのが好きだ」。ショーの中盤を過ぎたあたりで現れるカモフラージュ柄は、木々の影を写した写真とボタニカルの刺しゅうを重ね、戦闘の柄を自然へのオマージュに反転したものだ。
ジュリアンは「何を着て眠るか、何を着ていると心地よいか。何が自分のそばにあったら安心するかを考え、できるだけ“込み入っていないもの”を作った」と話す。2026年春夏メンズ、26-27年秋冬のメンズ・ウィメンズでは、故郷からの旅立ちやアイデンティティーの形成といった、人の成長と成熟の物語をなぞってきた。だが、寄り道もまた人生の一幕。「クリエイションの出発点はいつも直感的でありたい。あまり考えないようにしているし、本当に、『心から始まるもの』でありたい」と語った通り、ジュリアンの思索はこれまでの成長譚から一旦離れ、目を背けたくなる現実を生きる者にひとときの夢を見させてくれた。