PROFILE: ジュリアン・クロスナー / 「ドリス ヴァン ノッテン」クリエイティブ・ディレクター

創業デザイナーの跡を継ぎ、「ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)」のクリエイティブ・ディレクターを務めるジュリアン・クロスナー(Julian Klausner)が初来日した。現職に就任して間もなく1年、彼が手掛けた2026年春夏のメンズとウィメンズ・コレクションは、それぞれ高い評価を受け、昨今のデザイナー交代劇における一つの成功事例と捉えられている。34歳のデザイナーは、どのような心構えでいることで、「ドリス ヴァン ノッテン」というブランドを見事に継承・進化させているのだろう?
WWD:創業デザイナー、ドリス・ヴァン・ノッテンの後任を務めるクリエイティブ・ディレクター就任のニュースから、もうすぐ1年。今年をどう振り返る?
ジュリアン・クロスナー(以下、ジュリアン):ちょっと“クレイジー”な1年だと思っています。でも、ファンの存在を知るたび、今なお素晴らしい職務に就けたことに興奮しています。2026年春夏のメンズやウィメンズ・コレクションでのオベーションはもちろん、先日はアントワープのショップでイベントを開催すると、たくさんのお客さまが来店してくれました。ブランドが新たなチャプターに差し掛かる今、応援してくれる人たちがこんなに大勢いると実感できるのはとてもうれしいこと。このブランドはこうして歩み続けていることを改めて学び、ファンとの関係性を継続させることを楽しんでいます。
WWD:クリエイティブ・ディレクターとして、チームを率いることになった感想は?
ジュリアン:役割は大きく変わりました。以前はウィメンズのプレタポルテに集中することができたけれど、今は全てに注力しています。「ファッションショーは、どうするのか?」「今シーズンのイメージビジュアルは、誰を起用して撮影するのか?」ーー、さまざまな新しい経験を楽しんでいますが、プレスとのコミュニケーションは正直まだ慣れていません(笑)。
ドリスのコレクションは、とてもパーソナル
だから私の物語を伝えることが重要
WWD:改めて「ドリス ヴァン ノッテン」というブランドの魅力を、今はどう捉えている?
ジュリアン:ドリスのコレクションは、とてもパーソナルだったと思っています。だからこそ今は、私の物語を伝えることが重要。私は自分の方法を探し、一歩一歩進んでいきたい。特に初挑戦だったメンズは、これまでの「ドリス ヴァン ノッテン」とはかなり違ったアプローチだったと思います。メンズは初挑戦だったので、とても楽観的かつ直感的に取り組み、そのアプローチを26年春夏のウィメンズ・コレクションにも生かしています。ドリスとは少し違っているかもしれません。でも、ドリスもパーソナルだったから、私もパーソナルで良いのだと思っています。
WWD:あなたとドリスの共通点は、どの時代の、どの地域の洋服や衣装にも敬意を表するファッションへの愛があること。一方で、身体を見つめ、ボディー・コンシャスなシルエットを取り入れたり、肌見せの度合いを増したりしているのは、創業デザイナーとの違いと解釈している。その解釈は、正しいと思う?自分とドリスは何が似ていて、何が違っていると思う?また、そんな共通点と相違点については、日々意識している?
ジュリアン:似ているところと異なるところについては、比較対象である私には判断できません。周りの人の方が冷静に分析できるのではないか?と思います。ただ私はドリスと7年間を共にして、「『ドリス ヴァン ノッテン』とは、どんなブランドなんだろう?」と考え続けてきました。バトンを受け取ったとき、ドリスは一つだけ「『ドリス ヴァン ノッテン』というブランドの“魂”だけは守ってほしい」とリクエストしてくれました。ただ、その“魂”とは何なのか?は語りませんでした。でも昔から、ブランドの“魂”には、触れてきたつもり。ただ一方で、今は自分の直感に従い、コレクションを組み立てている。でも、その直感自体、7年にわたるドリスとの付き合いの中で確立されたものです。“魂”は知っているし、直感さえ「ドリス ヴァン ノッテン」というブランドの影響を大いに受けているから、私は私の方法でストーリーを紡ぎたいと思っている。こうして周囲は、ドリスとの共通点や相違点を見いだすのかもしれません。
WWD:ドリスの“魂”とはなんだと思う?
ジュリアン:「スポンテニアス(自然発生的、即興的)」なところです。それは、自分の直感を信じて自分らしくストーリーを紡ぐことのみならず、何か問題が発生した時も冷静に受け止め、異なる選択肢を検討できる心構えを持つことでもあります。半年に2回ずつ、メンズとウィメンズのフル・コレクションを生み出すのは、決して簡単なことではありません。私たちはアントワープでずっとクリエイションを続けていますが、それでも問題は起こるもの。こんなとき、時間をムダにすることが嫌いだったドリスは、悲しみや不満を表明することはせず、常に解決策を探します。クリエイティブ・ディレクターという仕事に就いて初めて、ブランドを率いるとは、日々、何度も、小さな決断を繰り返すことだと気づきました。一日中、「何色にする?」「シルエットは?」「ショー会場は?」「BGMは?」などを決めるとき、私は、その瞬間で最高の決断をしようと心がけています。ただ、迅速に決断するため、準備というか、知識を詰め込みすぎないことも大事。考えすぎないけれど、考えて迅速に判断する。そして、決めたらまずはそのまま進んでみる。こうした考え方は、「ドリス ヴァン ノッテン」というブランドの根底に脈々と流れています。
ドリスは、私に大いなる自由を与えてくれた
今はドリスと私、二つのクリエイティブな視点が必要
WWD:“魂”以上の具体的なリクエストがあれば、日々の小さな決断に際する指針や判断材料になったかもしれないと思うことはない?
ジュリアン:ドリスは、私に大いなる自由を与えてくれました。だからから私は、自由に仕事ができている。きっとドリスは、私が7年の歳月でチームとうまくやれることを見抜き、共に進歩していけると考えたのでしょう。
WWD:一方で、ドリスは今もビューティやストアの開発などを中心にブランドの一翼を担っている。「ドリス ヴァン ノッテン」という一つのブランドの中で、あなたとドリスという二つのクリエイティブな視点があることはどう思う?
ジュリアン:これも結果的に私には、(ファッションにおける)大いなる自由につながっています。ビジネスとクリエイティブ、運営母体と創業デザイナーの関係は、時に対立することもあるでしょう。それは時にとても複雑な問題に発展しますが、ドリスはそんな問題が起きないように、仮に起きたとしても私に降りかかってこないように、私ができるだけ自由にクリエイションできるように頑張ってくれています。だから今の「ドリス ヴァン ノッテン」には、二つのクリエイティブな視点が必要なんです。
WWD:いつかは、ドリスのようにビューティ製品を開発したり、新しいショップを手がけたりしてみたい?
ジュリアン:もちろん。でも今は、ドリスが手掛けた世界中のショップを見て回りたいと思っています。
WWD:ドリスは26年春夏ウィメンズ・コレクションのショー会場にもいたが、彼の反応は毎回気になる?
ジュリアン:はい、常に彼の意見には耳を傾けたいと思っています。何しろ彼は、135回以上のファッションショーを開いてきたんですから(笑)。
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