
ファッションシーンが酷暑からの逃避ムードに傾く中、ストリートでは余計にヒートアップするヤツらがいる。パリを代表する軍団「キッドスーパー(KIDSUPER)」と、ミラノの問題児「ピーディーエフ(PDF)」。今春夏のメンズコレクションで、コレクションの垣根を越えた〝テッペン〟争いが繰り広げられた。「クワイエット・ラグジュアリー?そんなの関係ねえ」「オレたちは着たい服を着るだけだ!」なショーの一部始終をリポート。(この記事は「WWDJAPAN」2025年7月7日号からの抜粋で、無料会員登録で最後まで読めます。会員でない方は下の「0円」のボタンを押してください)
MILAN
「PDF」
イタリア・ミラノ発のブランドで、デザイナーはドメニコ・フォルミケッティ(Domenico Formichetti)。ファッションとカルチャー、暴力性のせめぎ合いを内包するスタイルが特徴で、ストリートの精神性を構築的なモードへ転化する。日本では「グレイト(GR8)」(東京・原宿)での取り扱いがある
ニラみ、煙、何でもあり
キメるぜ、シャバの正装
ミラノイチのお騒がせ者が、今回もやってくれた。「PDF」は、前回の秋冬ショーでは密室でスプレーをぶちまけ、来場者をシンナー地獄に陥れた。今回もゲストたちは、始まる前から戦々恐々としていたに違いない。
ショーのテーマは「FREE-DOM」。舞台は、刑務所の中庭だ。煙幕を巻き上げて(咳き込むゲスト多数)檻から脱走したモデルたちは、囚人服から着替え、ランウエイで“檻の中の自由”を体現した。
赤や紫、墨黒、ミリタリーグリーンといった、重く湿った空気を孕んだ色彩。素材にはビニール、コーティングデニム、ナイロンなど、熱がこもりそうなものを多用。ストライプ柄のセットアップや再構築ワークパンツ、ベストや極太チェーンが暑苦しい。
モデルたちはルックを披露した後、檻の前にたむろしてタバコを吸い、写真を撮ろうとスマホを向ければ「何見てんだ?」と言わんばかりにニラみをきかせる。演出スタッフたちも、ゲストたちの無秩序な動きに終始混乱。やはり、「PDF」は裏切らなかった。
PARIS
「キッドスーパー」
ブルックリンを拠点にするコルム・ディレイン(Colm Dillane)によるブランド/クリエイティブコレクティブ。ファッションを軸に、絵画・音楽・映像などを横断しながら“物語”を紡ぐスタイルが特徴。「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」「プーマ(PUMA)」とのコラボでも知られ、LVMHプライズのカール・ラガーフェルド賞を受賞。日本では「ドーバー ストリート マーケット ギンザ(Dover Street Market Ginza)」や「GR8」で取り扱い
見た目はヤンチャ、
中身はメルヘンなニクいヤツら
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ショー会場の装飾芸術美術館の前に集まっていたのは、どう見ても“ワルい”連中。グラフィティーまみれのパンツ、キャップを斜めにかぶった男たち、スニーカーの踵をつぶしたヤツ、サングラス越しの殺気。恐る恐るその合間を抜けてショー会場にたどり着くと、そこは別世界だった。
ゲスト一人一人にデザイナーによる手描きのコレクションノートが用意され、舞台には巨大な絵本セットを模した装置が。ショーが始まると、ページをめくるごとに現れる星、クラウン、ドローイング、物語の断片たちとともに、呼応する色彩やデザインのルックが物語を紡いでいく。服はどれもテーラードが基軸だが、少年の空想のようなカラーパレットやディテールがユニーク。
見た目はヤンチャ、でも中身はメルヘン。そんなギャップが「キッドスーパー」のニクいところだ。