
ブランドを創業した阿部潤一デザイナーが一線を退き、後任に堀内太郎クリエイティブ・ディレクターが就いた「カラー(KOLOR)」が2026年春夏コレクションを発表した。堀内ディレクターの就任を発表した際、阿部デザイナーは「サブとしてぴったりくっついていく」と発言。その言葉通り、堀内クリエイティブ・ディレクターによる初の「カラー」は“らしさ“を失わず、さまざまなブランドのデザイナー交代を見てきた身からすると「もう少し変わってもいいのでは?」とさえ思えるほどだったが、一方で新たなニュアンスも加わった。
ファーストルックは純白のジャケット、色のない「カラー」の洋服で始まった。これから「カラー」を新たなキャンバスに描いていこうという堀内クリエイティブ・ディレクターの意気込みを物語るよう、彼らしいミニマルかつジェンダーレスな仕上がりだ。ここに合わせたのは、ドット柄で小説「オーランドー」を描いたヴァージニア・ウルフ(Virginia Woolf)の晩年期を描いた Tシャツと、シルバーフォイルと鮮やかな黄緑をハイブリッドしたショートパンツ。ベーシックにユーモアを効かせながら、解体と再構築、ドッキングを繰り返してきた阿部デザイナーのクリエイション、つまり“「カラー」らしさ”を感じさせる。阿部デザイナーのクリエイションを軸や芯として、そこに堀内デザイナーが上描きして、新しい「カラー」を紡いでいこうとする決意のように思えた。ちなみにシルバーフォイルは、阿部デザイナーが「アディダス(ADISAS)」と取り組んだ「アディダス バイ カラー(ADIDAS BY KOLOR)」の初期に頻繁に登場してきた素材のように見えた。
続くのは、シャツドレスに共布のコート。シャツには、異素材やバックル付きのベルトを縫い付けたビブのようなパーツをドッキングした。シャツの身頃は堀内クリエイティブ・ディレクターの世界、そしてドッキングしたパーツは阿部デザイナーの真骨頂。今度は1着の洋服の中で、2人の世界が融合していることを表現する。シャツとコートを着こなしたモデルが背中にかけるのは、阿部デザイナーの時代を思わせるバックパック。以降は終始、ミニマルを信条としてきた堀内クリエイティブ・ディレクターのこれまでを考えると「過剰」にも思える解体と再構築、ドッキングなどのプロセスが加わっている。この辺りから、「変わらない」との印象を抱くものもいるだろう。しかしドッキングするのは、ドレープが効いた付け襟や、タックを効かせたスカートの一部のようなパーツ。そこは、これまでのアプローチとは少し異なっている。これまで解体と再構築、ドッキングにおいて用いられがちだったのは、ハリのあるスーツ地や反対にスポーティなペーパーナイロンなどだった。色や柄に染まったものも多く、ドレープやタックを効かせつつもミニマルなパートを加えていくアプローチは珍しかったように思う。「カラー」は、着実に変わろうとしているのだ。
新旧の世界の融合には、幾許かの違和感は付きものだ。例えば、たっぷり仕込んだチュールが後ろ側から溢れ出すバルーンスカートなどは、既存のファンには少し唐突かつリアルからは遠いかもしれない。そこは、リアルクローズの集合体としてのコレクションではなく、ステートメントピースも交えたランウエイショーという新旧デザイナーのコレクションやパリメンズという舞台の捉え方による違いなのだろう。
1ファンとして失ってほしくないのは、洋服が好きで、ゆえに細部にまで夢中になり、だからこそ解体や再構築、ドッキングなどの高度なテクニックをリアルクローズに繋げてきた阿部デザイナーの洋服愛やテクニック、洋服に関する知識量だ。そんな創業デザイナーの洋服への愛を引き継ぎ、クリエイションは少し変化しても拍手喝采を浴びたのは、ジュリアン・クロスナー(Julian Klausner)による「ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)」だろう。だからこそ堀内クリエイティブ・ディレクターには来季、もう一歩大胆に、自分の洋服愛を「カラー」にぶつけてほしい。