PROFILE: 富田和征/アディダス ジャパン アディダスマーケティング事業本部ランニング&アウトドアビジネスユニット シニアディレクター

ランニングシューズの開発競争において、日本市場では箱根駅伝がマーケティングの最重要ポイントとなっていることはよく知られているが、2025年の箱根のシューズの主役は間違いなく「アディダス(ADIDAS)」だった。厚底シューズ旋風により、21年の箱根で驚異のシェア95.7%を記録し、以来漸減しつつもシェア1位を保ってきた「ナイキ(NIKE)」を、25年は「アディダス」と「アシックス(ASICS)」が抜き去り、「ナイキ」は一気に3位に後退。それら以外のメーカーも年々存在感を増しており、世はまさに、ランニングシューズ戦国時代だ。(この記事は「WWDJAPAN」2月24日号からの抜粋です)
「ナイキ」は17年に、厚底カーボンプレート入りシューズを投入しランニングシューズ業界に革命を起こした。以来、各社が「ナイキ」が打ち立てたメソッドの中で開発競争を重ねてきたが、「アディダス」の“アディゼロ アディオス プロ エヴォ1(以下、エヴォ1)”は、ランニング業界有識者の間では、「17年以来の新たなゲームチェンジをもたらしたシューズ」という見方が出ている。
23年に初めて限定発売した“エヴォ1”は、価格は8万2500円(500ユーロ)。軽さを追求した結果、耐久性は参考値としてフルマラソン1回分という、ランニング素人にとっては驚きの製品だ。しかし、何を隠そう25年の箱根で、全ブランドの中で最も多くの選手に選ばれたモデルがこの“エヴォ1”だった(出典:アルペングループマガジン)。24年のマラソン世界6大大会では、男女優勝者12人のうち、半数が“エヴォ1”を着用。シューズ情報に非常に敏感な選手たちに、箱根でも“エヴォ1”が選ばれるのは当然の流れだった。
「半手作業ゆえ、手間がかかる」
各社のカーボンプレート入りシューズが片足200g前後であるのに対し、「F1マシンのように、不要なものはすべて削ぎ落とした」(富田和征アディダス ジャパン ランニング&アウトドアビジネスユニット シニアディレクター)という“エヴォ1”は、27.0cmで138gという圧倒的軽さを実現。そのために、例えばインソールも張っていない。ロッカーポイント(つま先が反り上がる位置)については数百の試作品を作り、トップランナーの試着を重ね、最速ポイントを導いたという。「軽さ、ロッカー構造やカーボンロッドによる推進力、クッショニングのバランスの追求」が、ゲームチェンジャーという“エヴォ1”の評価を引き寄せた。
シリアスランナー向けシューズは各社年々高額化しているとはいえ、8万2500円は規格外だ。「“エヴォ1”は半分は手作業、半分は機械を使い世界で1つの工場で作っており、手間がかかる。半自動の工程の機械は1台しかなく、ゆえに生産数量が非常に限られる」。現代のシューズ開発競争のキモはソールの素材開発にあると言えるが、「非圧縮成形という製法を採用したミッドソールは、軽さと反発性を極限まで高め、外側はあえてコーティングしていない。(底面は)特殊製法のリキッドラバーでグリップ性も高めた」。生産にかかる時間や原価を考えれば、価格に合理性はあると言い切る。「“すべてはアスリートのために”を掲げる『アディダス』として、この機能が数年後にはより買い求めやすくなることはあり得る。そのためにも、“エヴォ1”の次の開発も進んでいる」。
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