「WWDJAPAN」には美容ジャーナリストの齋藤薫さんによる連載「ビューティ業界へオピニオン」がある。長年ビューティ業界に携わり化粧品メーカーからも絶大な信頼を得る美容ジャーナリストの齋藤さんがビューティ業界をさらに盛り立てるべく、さまざまな視点からの思いや提案が込められた内容は必見だ。(この記事はWWDJAPAN 2023年7月24日号からの抜粋です)

齋藤薫/美容ジャーナリスト
齋藤薫(さいとう・かおる):女性誌編集者を経て独立。女性誌を中心に多数のエッセー連載を持つほか、美容記事の企画や化粧品の開発、アドバイザーなど広く活躍する
年々過酷になる猛暑。年々暴力的になるかと思われる異常気象。夏になると、皆こう思う。地球は相当ヤバいのではないか?そして、日頃は忘れがちな温暖化への不安を思い出し、地球保護への責任を思い出す。今まさにそんな最中なのではないだろうか? そういう意味でタイムリーなのかもしれないのが、ドキュメンタリー映画「ファッション・リイマジン」の公開(9月22日から)。地球の傷みという壮大な問題に対し、自分は何をするべきなのか、結局分からないまま生きていて、悶々としてしまう人は、ロジカルに何かを考えようとするよりも、ともかくこういうものを見てしまった方が早いのではないだろうか。
英国「ヴォーグ」の新人賞も獲得した新進気鋭のファッションデザイナーは、コレクションのテーマをサステナブルとし、異端の道を選択する。本当の意味で地球に負荷をかけない素材探しで世界を旅するのだが、ショッキングなのはこのナレーション。1980年代に比べ、購入する服の枚数は3倍となり、逆に1着の服を着る期間は半分になっていること。そして、服の5分の3は、作られて一年で埋立地で処分されるということ。想像をはるかに超える悲惨な現実に、なんだか胸が苦しくなった。 でもだから、もう作らないという話じゃなく、作る方も1着1着をより精魂込めて作り、着る方も1着1着をより丁寧に着る……そういう時代へ戻っていくしかないのだろう。少なくともこのドキュメンタリーは、それを本気で思わせてくれた。なぜなら個人の物語だから。つまりこうした意識改革は、政府が声を上げても、企業がアピールしてもダメ、個人の力が圧倒的にモノを言う。まさしくこの作品は、若き女性デザイナー、エイミー・パウニーが孤軍奮闘する姿が世の中を動かそうとしていることが描かれたわけで、サステナブルのように今や誰も否定できない地球の常識でありながらも、なかなか進まない膠着状態をリアルに打開するのは、個人の情熱に他ならないのだ。
すでに20歳になるらしいが、環境保護のジャンヌ・ダルクとなった“グレタ・トゥーンベリちゃん”の活動は、グレタ効果として世界を大きく揺さぶったもの。少女だったことはもちろんだが、巨大な問題に個人で立ち向かうその構図が重要なのである。
化粧品の世界でも同様に、孤軍奮闘こそが時代を動かす原動力となっている。植物療法の第一人者である森田敦子さんの存在が日本でホリスティック意識を高め、フェムテックの重要性に目覚めさせたし、同様に日本でオーガニック美容を啓蒙したのは吉川千明さん。どんな企業のブランド力よりも、個人の力と魅力の方が、より速くより確実に人々の意識を誘導するのだと思い知らされたもの。
ちなみに、原価率50%以上に挑み、あらゆる意味で本気のサステナブルをかなえた話題の最新オーガニックブランド「ニュースケープ」も、オーガニックコスメの市場拡大を多くのアイデアでけん引してきた小木充さんが、たった1人で手掛け完成させた。 これまで化粧品に携わってきた中での疑問や疑念を本気で解決した、1つの理想形とも言えるが、逆に言えば、そういうものこそ、1人だから実現できたのだろう。とりわけサステナブルにおいては、1人の力など取るに足らないモノと思いがちだがとんでもない。本気で実現する決め手は個人の情熱、それに尽きるのである。