ビューティ・インサイトは、「WWDJAPAN.com」のニュースを起点に識者が業界の展望を語る。 今週は、美容機器メーカーなどが手掛ける高価格帯の美顔器の話。
【賢者が選んだ注目ニュース】
ヤーマンが日本初のAI美顔器“ハケイ”を発売 2万点以上の化粧品データを集積
資生堂とヤーマンが手掛ける「エフェクティム」がリフト&透明感にアプローチする美容機器発売

弓気田みずほ ユジェット代表・美容コーディネーター プロフィール
(ゆげた・みずほ)伊勢丹新宿本店化粧品バイヤーを経て独立。化粧品ブランドのショップ運営やプロモーション、顧客育成などのコンサルティングを行う。企業セミナーや講演も。メディアでは化粧品選びの指南役として幅広く活動中
「おうち美容」の盛り上がりに端を発した美容機器の需要は今も拡大を続けている。昨年の年末商戦以降、「三大美容機器ブランド」のパナソニック、MTG、ヤーマンから相次いで6万~7万円台の上位機種が発売され、三つどもえの様相を呈している。しかし、各ブランドの戦略はそれぞれ異なった軸を持つ。今回はその背景をひもといてみたい。
美容家電で商習慣を変えるパナソニック パナソニックは2020年以来、一部のカテゴリーで値引きを行わないメーカー指定価格での取引を始めた。昨年からはカテゴリーの拡大を加速し、国内市場の2割を定価販売商品にすることを目指している。中でも美容家電は先行して定価販売を行っていたカテゴリーであり、高価格・高付加価値ラインの「パナソニックビューティプレミアム」を東京・大阪のショールームや一部百貨店で展開し、ユーザーとのコミュニケーションを図ってきた。昨年からプレミアムラインの後継として販売する“アドバンスドライン”の主力商品である“バイタリフト RF”は、「1台9役」をうたう多機能型美容機器。田中みな実をCMに起用し、美容高感度層へのアプローチを強めた。
パナソニックは従来の値引き販売から脱却し、高付加価値商品の定価販売を行うことで商品サイクルを延ばすという、家電業界の商習慣を変える命題を背負っている。美容家電はいわばその先鞭であり、ユーザーと直接コミュニケーションを取る販売方法もその一端といえる。パナソニックにとって、美容家電は将来の家電メーカーの在り方を見据えた戦略商品といえるだろう。
ビューティから事業領域を広げるMTG
MTGは09年の初代「リファ」発売以来、非電源の美容ローラーを主軸にラインアップを拡大してきた。20年に「リファ ビューテック レイズ」で美容機器カテゴリーに進出した後、この2月にはリフトアップ機能に特化した最上位機種「リファ ダーマヒート」を発売。「ビューテック レイズ」を上回る高出力RFを肌の奥に伝えると同時に肌の表面をクールダウンする独自のテクノロジーを搭載、負担を抑えながら高い温熱効果を実現した。「リファ」ブランドを急成長させたMTGはビューティ分野にとどまらず、EMS機器を中心とする「シックスパッド」、スリープテックブランド「ニューピース」など次々にブランドを展開、フィットネス・健康・睡眠を通じてQOLを高める取り組みを行っている。ビューティ分野で培ったブランド力を最大限に生かすことで、新しい事業領域のポジショニングに成功している。
美容機器と化粧品のシナジーを追究するヤーマン
今年創立45周年を迎えるヤーマンは「多機能」と「単機能」の両軸で新機種を打ち出した。先に発表した「ハケイ」は、美容機器としての多機能性に加え、専用アプリと連携するカスタマイズ機能を搭載した。アプリを通じて、クラウド上に登録されている2万点以上ものスキンケア製品のデータから、配合された美容成分を効率的に浸透させるための「波形」を生成できるという。
ヤーマンは21年、資生堂との合弁会社を通じて立ち上げた「エフェクティム」で、美容機器と化粧品のシナジーの追究を始めている。「エフェクティム」は専任の「コーチ」による高度なカウンセリングと最新のエイジングケア研究を搭載した化粧品、肌状態に合わせてパーソナライズした美容機器によるスキンケアで、両社の専門領域を超えた相乗効果を提供する。7月1日の新商品2品の発売を機に販売拠点を大幅に拡大し、全国の化粧品専門店約120店舗に導入する予定。機器と美容液で12万円を超える「超・高価格帯」商品となるが、顧客とのつながりが強い専門店は高単価商品にも強い。例えば「クレ・ド・ポー ボーテ」の上位ライン“シナクティフ”シリーズは化粧水・乳液が2万円、クリームは12万円となっている。“シナクティフ”を取り扱う化粧品専門店は全国で200店舗を超えており、購買力のある顧客をもつ専門店において「エフェクティム」のポテンシャルは十分あると考えられる。
ヤーマンは3社の中では唯一の美容機器専門メーカーであり、化粧品との共存を図る姿勢がうかがえる。従来、成分の浸透を促すタイプの美容機器は安全性や性能面から専用の化粧品がすすめられてきた。今回の「ハケイ」のように、一般的な化粧品を併用することが前提の機器はこれまでに例がない。一方で、化粧品メーカーサイドの美容機器市場の研究はまだ進んでいないように見える。美容機器への関心がこれまでになく高まっている今、ユーザーに正しい知識と価値を提供するためにも、美容機器メーカーと化粧品メーカーのさらなる相互理解が急がれる。