ビューティ・インサイトは、「WWDJAPAN Digital」のニュースを起点に識者が業界の展望を語る。 今週は、ブランドが起用するアンバサダーの話。(この記事はWWDジャパン2023年5月22日号からの抜粋です)
【賢者が選んだ注目ニュース】
「コスメデコルテ」 大谷翔平キャンペーンが大反響 新規購入者数70%増、 男性客の増加も
デジタル大国・中国が生んだ 「モノ売るアイドル」、 規制から2年後の現在地
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PROFILE:(さとう・わかこ)1992年に岡山大学大学院自然科学研究科修了、同年住友信託銀行に入社。94年から株式アナリスト業務、2006年入社のみずほ証券を経て19年5月から現職。日経ヴェリタスのアナリストランキングにおいてトイレタリー・化粧品セクターで17年から6年連続で1位を獲得
大谷翔平選手(米MLB「ロサンゼルス・エンゼルス」所属)とグローバル広告契約を結んだコーセーが展開するプレステージブランドの「コスメデコルテ」が躍進している。WBCの準々決勝ラウンド(対イタリア戦)が行われた日(3月16日)に、大谷選手を起用した「コスメデコルテ」の美容液“リポソーム アドバンスト リペアセラム”のTVCMの放映を開始したところ、開始日の百貨店での新規購入数は通常時の3.6倍、公式ECの販売個数は通常時の約20倍に。さらに決勝戦(3月20日)放映後の公式ECの売り上げは約2倍に急上昇したという。
これら大谷選手によるプロモーション効果が大きく寄与し、2023年1〜3月期のコーセーの化粧品事業の売上高は前年同期比19.6%増の558億円、営業利益は同256.9%増の64億円だった。そのうち、「コスメデコルテ」の売上高は国内が同45.5%増の87億円、北米亜は韓国免税店向け出荷の減速を受け同17.0%減の105億円だが、計192億円と全体の売り上げの約3割を占めている。「コスメデコルテ」の同キャンペーンの1カ月前に「雪肌精」の日焼け止めも大谷選手をビジュアルに起用したが、「雪肌精」への波及効果はまだあまり出ていない。「コスメデコルテ」は、「詳細な数値データはないが、新規顧客数が2~3割は増えている印象」と大谷効果は大きいようだが、今後の継続性はどうだろうか。同社は今後も「『コスメデコルテ』の好調な売り上げを維持するために、2Q(4〜6月期)以降もリピート購入施策を推進する」としている。
今回は、WBCの一時的な熱狂に加え、魅力的な特典が成功したことで新規顧客の獲得につながった。「コスメデコルテ」では“リポソーム”美容液の購入者に大谷選手のサインプリントが入ったオリジナルフェイスタオル(今治タオル)を先着でプレゼントしていたが、想定より早いペースで配布が進み、タオルの増産をしたとも聞く。もともと“リポソーム”シリーズは人気であるが、メルカリなどを見ていると特典の転売目的で購入した人も少なくはなかったと推測できる。大谷選手のインスタグラムで“リポソーム”クリームと一緒に映り込んでいた化粧水“ヴィタ ドレーブ ハーバル ローション”には大きな大谷効果が見られないのが、ひとつの証左である。そういった点を含め、アンバサダーの起用や特典は呼び水にはなっているが、頼りすぎず、元々の丁寧なカウンセリング活動が、結局は売り上げのベースなのだと思われる。
その一例が、18年に「雪肌精」がアンバサダーに起用した現プロスケーターの羽生結弦のキャンペーンだ。当時は国内にとどまらず中国で売れたが、現在はその勢いは続いていない。国内では「雪肌精」の日焼け止めも大谷選手のプロモーションが始まるが、ブランドを横断して同一人物を使うのも長期視点ではどう消費者の目に移るのだろうか。ブランドも二刀流が有効かどうか、これから注目したい。もちろんのことアンバサダー起用を起爆剤にすることは知名度を広げるためにも有効ではあるが、そこから継続(購入)してもらえるのは、真の商品力や普段のプロモーション活動にかかっている。これらキャンペーンを機に単品から他の商品へとブランド全般に広げられるように、新規顧客を定着させることが今後の鍵を握るだろう。また「コスメデコルテ」に関しては海外の売り上げが日本より大きく、ここへの波及効果につながるかどうかも重要な視点である。
アンバサダーは商品発見の火付け役 これまでを振り返ると化粧品企業のアンバサダー起用は、1980年代が全盛期だった。当時テレビは情報源として欠かせないメディアの一つで、テレビに出演するアイドルや芸能人に強く憧れを抱いていた。とともに、彼女らが登場するTVCMの商品はよく売れていた。いまはSNSの普及でインフルエンサーなどの情報を通じて商品を購入するようになり、好みが分散化されている。一方で、取捨選択が難しいほど情報が溢れてしまったがゆえに、どれが正しい情報なのか信じられなくなっているという。ここ最近は、そういった情報を絞り込むように、企業が発信する情報を見てモノを知る時代へと1周して戻ってきているように感じる。例えば、花王「アタック」の公式ツイッターで柔軟剤の正しい使い方を呼びかけたところ、意外と知らなかったという声が思いのほか多くあがった。公式の情報を正しく捉えてもらうためには、当たり前ではあるが信頼がおける企業であり続けることに加え、アンバサダーには大衆が信頼できる人を起用することが重要である。
結局のところ、アンバサダーは、普段からの丁寧な商品の育成に気づかせてくれる火付け役にすぎない。より純粋な「化粧品企業らしい」機能やサービスが継続性には不可欠だろう。ともあれ、大谷選手の起用はコーセーにとって、場外ホームランではあったには違いない。