ファッション
連載 鈴木敏仁のUSリポート

変貌するショッピングモールの役割【鈴木敏仁USリポート】

 アメリカ在住30年の鈴木敏仁氏が、現地のファッション&ビューティの最新ニュースを詳しく解説する連載。今回はショッピングモールのあり方の変化についてレポートする。車社会のアメリカは巨大なモールが各地にあるが、EC(ネット通販)の台頭とパンデミックによって役割を変えようとしている。

 前回はデパートメントストア(百貨店)による変革への試行錯誤について書いたが、もちろん入れ物としてのモールにも変革の波が押し寄せている。私は30年近く米国の小売業界に関する記事を書き続けてきているが、デパートメントストアやモールが抱える問題や変化について、当初の頃から俎上に上げていたと記憶している。

 つまり数十年前から課題を抱えていて、しかし根本的な解決法を見つけるに至らず、長く試行錯誤を繰り返してきた業態ということになる。

 その状態に決定的な影響を与えたのがEC市場の急成長であり、追い打ちをかけたのがパンデミックだ。

 モール内で取り扱われているカテゴリーはECと相性が良いものが多い。売り上げがECに流出していく中で新たな目的来店性を探す必要に迫られてきたわけだが、パンデミックによって営業停止に追い込まれて、売り上げがゼロになるという極端な状況に陥った。これが最後通牒になってもともと業績の悪いモールが20年から21年にかけてバタバタと破綻している。

 これがこのわずか数年の間に起こったのであった。優秀なモール運営企業も危機感を持ったことだろう。過去みなかった新たな取り組みが急に増えてきたのもそのためだろうと思っている。

 以下、興味深い取り組みをいくつか紹介してみよう。

最大手サイモンの投資戦略が意味するもの

 多くのD2Cブランドがリアル店舗を持ち始めているという話は一昨年末に書いた。

 資金繰りが厳しい創業当初はデジタルだけでスタートするが、一定規模になるとリアルやホールセールという新たな販売チャネルが必要となり、多くの企業はピュアなD2Cではなくなっていく。だからD2Cという表現は消えていくと主張する人すら出てきている。

 このD2Cがリアル店舗へと舵を切るときに、出店し運営するという店舗事業を請け負うビジネスモデルがすでに出現している。立地の選定、家主との交渉、施工、人材募集、オープニング、そして実際の運営まですべてを請け負うのだが、成立する理由はD2Cが店舗運営のノウハウを持っていないからである。

 その1つ、リープ(LEAP)は昨年1月に5億ドルの調達に成功して投資企業のバックアップを受け、この投資に加わったのがモール運営最大手のサイモン・プロパティ・グループ(SIMON PROPERTY GROUP)で、リープをD2Cの受け皿として自社モールに誘致する戦略を取っている。今年中に、True Classic Tees、Third Love、Goodlifeの4社がサイモンのモール内にリープをアウトソーサーとして出店すると発表されている。

 サイモンはJ.C.ペニー(J.C.PENNY)やブルックスブラザーズ(BROOKS BROTHERS)など、テナントとしての小売企業に投資する、または所有してしまうという大胆な戦略をかなり前から取っている。その延長としてD2C店舗運営代行企業のリープに投資し、リープを通してD2Cの出店を促すということである。モール側としてテナントのバラエティが増え新たな集客につながるというメリットがある。

 テナントのバラエティやリフレッシュのためにユニークな戦略を取っているのがメイスリッチ(MACERICH)である。余剰スペースをネット上で売り出すクィックスペース(QUICK SPACE)というプラットフォームを立ち上げたのが21年である。

 現在リストしているショッピングセンターは42カ所、通常店舗用のスペースから通路上のワゴンなど用途は複数あるのだが、面白いのはネット上で予約ができることと、期間が最短1日から1年と短い点にある。例えば1週間程度のポップアップをやりたいときに、ウェブページをブラウジングして探して予約することができるという仕組みである。

 契約内容は公開されていないが、頭金を安くするなど柔軟な条件を提供しているようだ。メイスリッチはホテルを予約できるように気軽に出店できるようにしたいと抱負を語っている。

フルフィルメントセンターへの転換も

 ローカル企業に焦点を絞っているのがウェストフィールド(WEST FIELD)だ。昨年6月に地域のスモールビジネス組織と提携し、組織を通じてローカル企業に計画を周知し、短期リースといったローカル企業に有利で柔軟な条件を提供して招へいを図っている。ローカル中小企業にとってはウェストフィールドへの出店は夢のような話で驚いたという、すでに出店しているオーナーのコメントが報じられている。

 その昔、大型モールが地元商店街に壊滅的な影響を与えて問題化したことがあったが、ついに共存する戦略が取られはじめているのである。これも時代の変遷である。

 昨年の2月にはシアーズ(SEARS)が抜けた後に病院が契約したというニュースが報じられている。専門店の後にクリニックが入るというケースはアメリカではかなり前から一般化しているのだが、病床を持つ大型病院が入るというのでニュースとなった。

 廃墟となったモールをアマゾンが買い取って、更地にしてからフルフィルメントセンター(FC)を建設したというニュースは5年近く前に報じられているが、それ以降に相当数のモールをすでに転換しているようだ。モールはもともと交通アクセスが良いのでセンターと相性が良いのである。ニュースにならないが実はUPSやフェデックス(FEDEX)もモールをFCへと転換している。

 少しテーマがずれるが、モール運営企業のブルックフィールド(BROOK FIELD)は外部企業と提携して、テナントのEC注文商品を駐車場で受け取れる“カーブサイドコンシェルジェ”というプログラムを昨年5月から提供している。最初に利用を開始したテナントが化粧品のセフォラ(SEPHORA)である。これはテナントによるフルフィルメントやラストマイルの選択肢をモールが提供する取り組みである。

 このように数多くの新しいイニシアチブに取り組み、試行錯誤を繰り返しているのが米国のショッピングセンター業界だ。時代の変化に合わせて自らも変革しなければならないのは小売業界だけではないのである。


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